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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.88
MOKUBA'S TAVERN

変わり続けるということ、それは変わらないために。
@神戸・三宮

トアロードをゆるゆると上って行く我々の背中を暖かい春の日差しが照らす。ま、イメージとしてはジャズのお店に行くとは思えない状況ではある。
三宮から少し西に外れるだけで、こんなにも街はこじんまりしてintimateな感じがするもんなんだなあ。
なんてことを考えていると、早くも我々は今日の目的地・MOKUBA'S TAVERNに着いてしまった。ふりかえればまだ阪急の高架もすぐ近くに見えるほどの近間である。

この辺りもずいぶん新しいお店が増え、昔の(つまりは震災前の)神戸になじんできた僕には知らない街のようだ。とはいえ、道の東側にはトアロードデリカテッセンや帽子のマキシンなど、古い神戸を偲ばせるところもまだまだ残っていて(余談ですが…、ハイウェイは閉店してしまったんですね、残念!)、昔ながらの神戸好きには懐かしい界隈でもある。

さて、すぐに目につくのは歩道の上にはりだした形の「木馬」というサイン。短い階段を上ればもうそこがMOKUBA'S TAVERNである。店内にはいろんなアンティークが並び、心なしか木の香りが漂ってくるような空間だ。
ジャズのお店ということで、なんとなくちょっと暗めなところを想像してしまいがちなのだけど、そのイメージとは違い、ここはずいぶんと明るい。トアロードに面した窓にも春の光がまぶしいくらいだ。

へえー、こりゃイメージ違ったなあ、なんて思っていると、オーナーの小西武志さんが迎えてくださった。
グレーのジャケットに濃い紺のマフラー。足元はビルケンシュトックのアントワープ。「靴にはその人の哲学が現れる」というのは僕の持論なのだけど、いやなんというか、「ジャズ関係の人」というより何かの学者さんか文化人という印象なのである。
「ここにあるレコードは2000枚ほどだけど、実家にはまだ8000枚ほどあるんですよ」とか、「ベーシストがバッハを聴いてないのはやっぱりおかしい」なんていうセリフからは小西さんの血中ジャズ濃度の高さが感じられるのけど…。お話をうかがっていても、どこかふつうのジャズ好きとは違うのだ。

「ジャズファンは能書きが多いから…」とかいいながらも、「マイルスみたいな人の後に出てくる人はかなり辛いでしょうね(苦笑)」なんていいながらも、「4ビートは心臓の鼓動と同じリズムだから気持ちよくないはずはないんです」なんておっしゃる人なのである。

その小西さん、「ジャズはそのスタイルの変貌がおもしろいですね」とも。
察するに、いろんなスタイルのジャズのお店も、変わらなければ死んでしまう…ということなんじゃないかな、なんて思ってしまう。
「時代に遅れないためには、常に前向きで、意識も変わって行かなきゃいけない」というのが、ここMOKUBA'S TAVERNのコンセプトなのだろう。

ジャズファンだけでなく、観光がてらここを訪れるひとも多いという。奥の壁にはたくさんのサインがならんでいるんだけど、ジャズミュージシャンのサインがあるのはよくあるハナシ。でもよく見てみると、佐渡裕(指揮者)、楊徳冒(映画監督)とか小川洋子(作家)の名前も見える。幅広いジャンルで活躍する人たちがここで、ジャズとお茶を楽しんでいるのだろう。

そんな人たちを暖かく迎えてくれるのは、おいしいお茶と食事だけではない。新メニューとして、オリジナルの自家製パンを使ったブランチメニューやパスタ類も充実している。こんなところにも小西さんの開けた意識が伺える…、と思うのは僕だけだろうか。(ライブの予定などはホームページをチェック!)

MOKUBA'S TAVERNのメニューにはこんな言葉が書かれている。
「港町・神戸にはたえず風が流れている。風が人を運び、文化を運び、決して滞留しないのだ。しなやかに形を変えながら、神戸は旅人の訪れを待っている。さりげなく受け入れ、さりげなく送り出す。風の町の流儀である」
「時代が変わってもジャズには強くあってほしい」とは小西さんの言葉。
いつでも時代を見据え、強く、またやさしく暖かくあるもの。それがジャズという音楽なのかもしれない。