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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.89
Blue Note

時代とは、音楽とは、さて何であるか。
@京都・中京区

懐かしい京都の街。
京都だけの話ではないけど、ここもずいぶん変わってしまって、昔から通っていた京都の街の面影はすっかりなくなってしまったかに見える。
もちろんそれは異邦人の感傷というもので、今も昔も変わりなく街は生き続けているのだけど。
五月の青い空の下、高瀬川のほとりを歩きながらそんなことを考えた。

今回の目的地は、すでに52年の歴史を誇る、京都でもっとも古いジャズスポット”Blue Note”である。
河原町通りの、BAL(改装中)の角を曲がるとすぐだ。うーん、この辺りもずいぶん変わってるなあ。
建物の壁は明るいイエロー、ちょっと『京都でいちばん古い』というイメージとは違うのだが。

現・オーナーは通称「アル・チューパー」さんこと大東久夫さん。
元々はPAマンで、このお店が閉まる…と聞いて、我こそは!名乗りをあげたということだ。それくらいこのお店が無くなってしまうのが惜しまれたということなのだろう。アート・ブレイキー&メッセンジャーズの初来日の翌年にオープンしたというこのお店も、そんなふうにして受け継がれてからすでに20年近くなるそうだ。

「80年代までは京都にも30軒くらいのジャズ喫茶があったんですけどねえ」と大東さん。そして、「もう京都が学生の街ではなくなってしまったから…」とも。

そう、たしかにそうなのだ。昼間でもヒマにしていたり、夜中まで友達と議論していたり。そんなヒトのあり方がすっかりナリを潜め、今やメールとネットとゲームの時代である。直接誰かに触れることがめっきり少なくなってしまった。たくさんの人々が、自分を隠すために病気でもないのにマスクが手放せなかったりするらしいのだ。
そして、音楽を聴くのもヘッドフォンから。
実際に空気が揺れて、耳だけでなく身体全体で音楽を感じる機会はとても少なくなってしまったようである。
そんな時代にこそ、このBlue Noteの存在価値はあるのかもしれない。

対面型のカウンター、もちろん隣の席が知らないヒトという可能性も高い。
大音量で音楽が響き、ライブでは奏者がすぐそこに見えている。そして、自分の反応だけでもその演奏は変わってしまうのだ。
大東さんが「ジャズは対話だから…」とおっしゃるのも、このあたりの消息を語るものだろう。

どういうわけだか僕自身もよくわからないのだけど、なぜか、ジャズとワインは「よくわからないけど」という枕詞がつきやすいのである。逆に言うと、「オレはわかってる」というヒトがいる、ということなのだろうか。それにしても、そんな理屈っぽい人々を飲み込んでしまう街というもののフトコロの深さというものも京都にはあるのである。
(わからないでいいじゃん、ただ感じればいいじゃん、とも僕なんかは思うのだが…)
だからこそ京都は、多くのノーベル賞受賞者を生んでもいるのだ。

大東さんも「ウチはコアなジャズファンばかりの店じゃないんで、気軽に来てもらったらいいんです」とおっしゃる。女の子が一人でふらっと訪れて聴いて行くなんてこともあるそうである。アル・チューパーさんから京都の歴史を聞くのもおもしろかろう。バイクやジャズの話を聞くのも楽しそうだ。
音楽は、まず聴かなきゃ始まらない。体験することから始めないと、何もわからないのだろう。
ジャズだってロックだって、それは同じことだ。
お供はビールでもワインでも、ウイスキーでもいいだろう。始めの一歩を、このBlue Noteに向けてみるのも悪くない。そんなちょっとした勇気から得られる経験こそ「リッチ」なのだ、そう僕は思うのだが。

そうそう、「大きなバイクに乗る人と大きな犬はみんな優しい」
これが僕の持論である。アル・チューパーさんとスピーカーの音量についても言えるかどうか…、それはぜひここで確かめてほしい。