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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.71
SUB

古い革袋に新しいジャズ。
@大阪・谷町

実は歴史のあるお店なんである。いや、それは僕が知らなかっただけなのだけど、今回ようやく「ジャズ探訪記」で紹介する機会を得た。

地下鉄谷町九丁目からほんの少し上本町側にある階段、B1Fとはいうものの地下鉄通路と地上の間にSUBはある。
ベーシストだった故・西山満さんがこの場所にお店を開いたのがほぼ40年前。聞くところによると実に昔気質な、ジャズメンらしいジャズメンだったそうである。ベーシストつながりということか、かのレイ・ブラウンがここでライブをしたこともあって、彼のサイン入りポスターも飾られている。さすがにあちこち破れてはいるのだけど、それがこの店の歴史を語っていると言うべきだろう。
その西山さんが突然他界されたのが一年ほど前、今は西山さんの若き愛弟子の一人、サックスプレーヤーでもある長谷川朗さんが店を引き継いでいる。

タバコの煙もうもうたるジャズクラブだったのも今は昔。
完全に禁煙となり、某・食べ歩きブログなんかにも登場するような居心地のいい空間になった。ま、スモーカーにはそうではないかもしれないけど、一歩外に出れば吸えるわけだから何も問題はないだろう。いやあ僕も昔は吸ってたんですけどねえ、今や禁煙10年以上、タバコの煙はまさに「煙たい」存在となりました。だからこんなお店の存在はとてもありがたい。

さて、そもそもは長谷川さんが在籍していた大学のジャズ研時代。
西山さんのライブに行ったりしているうちに、なんとなくこの店の手伝いをするようになったのだとか。一緒にアメリカに行ったり(このあたりが今の時代では考えにくいことですね)するうち、「反発するところもありますが」ミュージシャンとしても人間としても大きな影響を受けたということだ。そしてその影響は、いまだに長谷川さんの考え方の芯になっているそうだ。

大学を卒業後、アメリカはニューヨークに渡りジャズの武者修行。いろんな仕事をしながらいつの間にかその期間は7年にも及んだ。帰国後は東京・名古屋、そして現在は大阪を拠点に活動中。ひとりのミュージシャンとしてさらに上を目指しながら、このSUBを切り回している。
さすがに昔ながらのジャズクラブ、CDもあるがLPレコードのストックがすばらしい。「若いお客さんの中には、レコードなんて見たことも聴いたこともないなんて人もけっこういますよ」と長谷川さんは笑う。ただ、一度その手にレコードを取り、音を聴くことはとても新鮮なことらしい。たしかに今、音楽は「ダウンロードして聴くもの」へと変化している。ただそれはきっと、音楽のごく一部のデータしか受け取っていないことにもなるのだろう。
「このアーティストのこの曲は好きなんだけど、他のメンバーが誰なのか、どんな曲がそのアルバムに入っているのか知らないってことも多いみたいですね」
長谷川さんはこのお店で、そんなことを伝えられるのがとてもうれしいようである。

思うに、それはご自身がミュージシャンだからなのだろう。
そして、ミュージシャンであればこその問題意識もあるらしい。
ニューヨーク、東京、名古屋、そして大阪と演奏活動をする中で「大阪にはジャズの『場』がない」と感じる事が多いそうだ。ジャズミュージシャンも多くいるし、ライブハウスが少ないわけでもない。
「でもそこで、ミュージシャン同士がつながっていかない気がします。SUBでそれを作っていけたらいいですね」と長谷川さんは語る。
つながりのなさはつまり、広がりがないということでもある。
それを作るためには、ちょうどジャムセッションのように人と人とのコミュニケーションが欠かせないはず。でも本来、大阪人にとってそんなことは得意技だったんじゃないのかなあ。もし現在そうでないとすれば、とてももったいない気がする。
チャージも安いしライブも毎日、元旦以外は基本的に無休。ジャズはちょっと…なんて思わないでどんどん通ってほしいお店だ。そんな中で、長谷川さんの言う『場』がきっと育ってくることだろう。

お店の名前はSUBだけど、ミュージシャン同士、あるいはジャズと人とのHUBになることが長谷川さんの夢なのかもしれない。
取材を終え、そんなことを考えながら帰りのSUBWAYに乗り込んだのであった。