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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.110
BODY&SOUL

今宵もライブを見守る歴史的名店のジャズ菩薩
@東京・南青山

ここに一冊の本がある。本のタイトルは『身も心もジャズ』(ブイツーソリューション発行)。昨秋に出版されたばかりのエッセイだ。
ページをめくるとロイ・ヘインズ、アート・ブレイキー、ハンク・ジョーンズに始まり、スティービー・ワンダー、ナンシー・ウィルソン、サラ・ヴォーン、ミルト・ジャクソン、ジム・ホール、ハービー・ハンコック、スティーブ・ガッド、エディ・ゴメス、マイケル・ブレッカー、小曽根真といった、巨星ジャズ・ミュージシャンが次から次へと登場する。来日中の彼らが店にやってきては、お酒を飲み、おしゃべりし、くつろいだ雰囲気の中で文字通り「プレイする」様子がいきいきと描かれている。

今回ご紹介するジャズクラブ『BODY&SOUL』こそこの本の舞台であり、オーナーは著者である「京子ママ」関 京子さんだ。
京子ママとジャズとの関係は長くて深い。彼女が新宿・歌舞伎町にジャズライブハウス「タロー」を開店したのは1965年。当時無名だった菊池雅章、日野皓正などが訪れ、親交を築いていたという。今の『BODY&SOUL』という店名になったのは’74年。その後は六本木、北青山を経て’92年に現在の南青山に居を移した。
この店で演奏したミュージシャンは、日本のジャズを牽引する存在に成長している。また前述のようにここが来日ミュージシャンのサロンとして「日米ジャズ振興の拠点」の役目も果してきたことは間違いない。先日もダウンビート誌にその魅力が取り上げられたところだ。
しかし私がなにより驚くのは、50年ものあいだ、そして現在もなお、京子ママがほとんど毎日お店に立ち、精鋭たちの生演奏に耳を傾けていることだ。そんな彼女に今のジャズはどう聴こえているのだろう。

「今の人はとにかく上手いですね。基礎からきちんと学んでいますから。いいことだと思いますよ。お金にならないにもかかわらず、若い人がひたむきにジャズと向き合う姿は素敵だなと。こういう文化をちゃんと伝えていかなくてはと思います。だってこれほど個人が見えて嘘がつけない魅力的な音楽はほかにないもの。特にライブはごまかしがききません。だから私も飽きることなく聴き続けてこられたのでしょう」。
才能に溢れ、伸びていきそうな若い人ってすぐにわかるものなんでしょうか?
「長年仕事をやっているとわかりますよ。目先の人気やスキルではない、磨けばもっと光るタッチや音色などの素材の良さ、向上心があって勉強熱心かどうかなどのお人柄も必要かしら。とにかく実際聴いてみないことにはね」と京子ママ。
『BODY&SOUL』は表通り沿いの地下一階にある。外階段を下りたエクステリアは、手入れされたアイビーや樹木のグリーンが心地いい。店内に入ると、すっきりと洗練されたインテリア、モノクロのポートレート群、入り口とカウンターに生けられた華やかなウエルカム・フラワー、六本木時代の店から持ち込んだという演奏家のサインに埋め尽くされた扉など、随所に老舗の品格が感じられる。
本日のライブはお客さまの希望によって組まれたというスペシャルクィンテット(椎名豊:pf 井上陽介:b 江藤良人:ds 近藤和彦:as 浜崎航:ts,ss)。メンバーそれぞれが曲を持ち寄って、解説を交えながら演奏していく。年配の常連さんから若いカップルまで、このお店の雰囲気を心得て楽しんでいるお客さまの様子は、テーブルに置かれたキャンドルの光といっしょに、じんわり伝わってくる。
「音楽のレベルが確実に上がっていることを、毎日肌身に感じているの。だから“先が見えない”なんてことはないんですよ。若い人たちの力になりたい。演奏するにふさわしい場所を提供し続けていくことが私たちの仕事ですから。残念なのは、たとえばコンサートに出かけても同業者と顔を合わせることがほとんどないこと。いい音楽家はたくさんいるのに、周りの人間がちゃんと取り上げてあげられなくては意味がないですもの。スピーカーからの音ではない、生の演奏をもっと聴かなくては」
お給仕はスタッフに任せ、京子ママはとうとう最前列の椅子に座った。うなずきながら、今ここで繰り広げられている音楽に全身全霊を傾けている。その姿は慈愛に満ちた菩薩のよう。世界中のジャズミュージシャンたちから慕われている彼女の大きな瞳には、どんな未来が映っているのだろう。
私も京子ママと一緒にその世界を見届けてみたい。