featuring Kobe Jazz People
Shinichi Ishizuka / Manga Artist


ジャズこそが“若者の熱く激しい音楽”だと思いたいんです。

人気漫画『岳』の作者・石塚真一さんが描くジャズをテーマにした『BLUE GIANT』は、またもや累計170万部を超えるヒット作となっています。今何故『ジャズ漫画』なのか。石塚さんにお話をうかがいました。

person

石塚真一さん[漫画家]

1971年生まれ。茨城県出身。中学生時代はブラスバンド部に所属し、大学時代はバンドで活動。22歳から27歳まで米国に留学、ロッククライミングや気象について学ぶ。帰国後、会社員を経て28歳のときに漫画家に転身。代表作『岳』は2008マンガ大賞、小学館漫画賞、第16回メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。
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interview




『BLUE GIANT』 第9集

アメリカ留学を経て漫画家へ。そして異色のジャズ漫画誕生

——“音の出ない”ジャズ漫画『BLUE GIANT』と、その海外編『BLUE GIANT SUPREME』が絶好調です。漫画とジャズ、それぞれ両方に出会ったいきさつについてお話いただけますか。

「学生時代、アメリカに留学していた時期がありました。同じ日本人留学生の友人が『漫画の影響でアメリカに考古学を学びに来た』って言うんです。その時に漫画ってスゴイ、そんな影響力を持つのかと驚いたと同時に、いつか自分も漫画を描いてみたいという気持ちになりました。実際に漫画を描き始めたのは28歳です。かなり時間が経ってからのスタートですが、自分は『人間ドラマ』を描いてみたかったので、いろいろな出会いや経験を重ね、今ならできると思えたのがその年齢だったんです」

——その間、なにか作品など描いていらしたのですか。

「なにも描いていません。だから学生時代の友人には『えっ、なんで漫画?絵なんか描いてたっけ?』と驚かれます。絵を描くのが好きだったのかと聞かれればそうでもないし(笑)。祖父が彫刻をやっていましたが、ホントに朝から晩まで彫っている。自分はそういうタイプとは違うな、と思っていましたから。絵よりも僕は物語を考えることが好きです。そのために漫画という表現を選んだ、ということなんでしょう」

——ジャズとはどんな出会いだったのでしょう?

「二十歳そこそこ、バンドブームの頃でした。ブルースバンドでギターをやっていた時、サックスでアドリブが出来る友人がいました。彼が言うには“これがジャズなんだ”と。なにかすごく解放されている感じがして、みんなもその演奏に熱狂しました。早速ジャケットがカッコいいソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』を買って聴いてみると、“これは自由に吹いている!”ということが僕にも何となく伝わった。と同時にこの演奏にたどりつくにはものすごいトレーニングがいるんだろうな、ということも感じました。留学してからは、さらにいろいろな場所でジャズを聴くようになりました。アメリカではジャズの敷居が低いというか、カフェや書店などで気軽に演奏を楽しむことができるんです。何度も聴いているうちに、これはみんなが知っておかなくちゃいけない音楽だ、という想いが強くなりました。僕はアメリカから戻るときには、“誰かに伝えたいこと、人の心を動かせるなにか”を持ち帰りたいとずっと思っていましたが、そのひとつがクライミング、そしてもうひとつがジャズだったんです」





ジャズの魅力『BLUE GIANT』の魅力

——『BLUE GIANT』のなかでは「ジャズは激しいもの」ということばが繰り返し出てきます。

「極論ですが『ジャズは若者がおもいっきりやれる熱く激しい音楽である』という位置づけにしています。もちろんロックもパンクも熱いし、クラシックの静かな音楽だって伝わるものは激しい。でもジャズには“アドリブソロ”があります。前へ前へと向かい、土壇場で自分をさらけ出さなくてはいけない。ここがほかの音楽とは違うところだと感じます。『BLUE GIANT』ではジャズを聴いたことのない読者にもできることならば音楽のイメージを伝えられればと思っています。以前、現役ジャズプレーヤーと対談した際、好きなプレーヤーの話題になって名前をあげると、『それ、みんな死んじゃった人だよね』と言われ、ハッとしたことがありました。だから自分の漫画の中では、今の日本だからこそ生まれる新しいコルトレーンがいてもいいんじゃないか、と。僕自身の希望ともいえますが」

——吹奏楽の普及で、若い世代の管楽器演奏技術は劇的に向上し、社会人になっても演奏を続けるアマチュア・プレイヤーが増えてきました。ただ裾野は広がっているのにジャズの現場では今ひとつ盛り上がりに欠けるように感じるのですが……

「ラグビーに五郎丸が登場したように、たぶんヒーローが必要なのかもしれません。『オレが宮本 大(『BLUE GIANT』の主人公)になってやる!』『オレ、大よりイケてる!』と本気で思う人が出てきてくれればと願っています。仲良くやるだけじゃなく、『オレにやらせろ!』と抜きん出ようとすることも時には大切ですよね。極端なことを考えていないと何も変わっていかない気がします。なので若者=ロックのイメージを、若者=ジャズにするぞ!と念じながら日々漫画を書いています。という僕もギターをやってたんですけど(笑)」

——主人公・宮本 大をはじめ、雪祈(ユキノリ)、玉田といった魅力的なキャラクターが成長していくにつれ、彼らが当初のイメージから変化した点、また石塚さんご自身が変わったことなどはあるのでしょうか?

「そもそもあの3人がトリオになること自体が予定外。話の展開を僕が客観的に見られないときもあり、『きっとこうだよ』『そうかも』と担当編集さんと相談しながら考えています。主人公・大がサックスで大成するという結果がみえてしまう場面の挿入など、それで読者が納得するのか不安もありました。でも読む方は成長の過程に興味があるんだということも進めていくうちに感じました。とにかく毎回予想外、この先どこへいくのか僕自身まだ明確には解っていないんです。ただジャズはカッコいいから好き、という思いは貫きたいし、そこは始めから変わっていませんね」

——いつも音楽を聴きながら、漫画をお描きになってるのでしょうか。

「そうですね。でもラジオだったり、ジャズとは限らないですね。描いているときは頭の中で音が鳴るように意識しています。またスタッフにシーンの音のイメージを尋ねられることがあって、それっぽい音楽をかけてタッチの雰囲気を決めるということはあります」

——石塚さんのこれまでの経験から、次の一歩を踏み出そうとする若い人へ、もしなにかアドバイスがあれば教えていただけますか。

「もしもやりたいことがあって、出来るかどうか分からない、といった場合、僕が言えるのは『やってみよう!』ってこと。若いうちは失敗しても次があったり、何かが残ると信じています。失敗する可能性が8割だったとしてもやらなければゼロなんだから。『やる、を選んでみよう』ということです。あきらめない、ってこととはちょっと違う。やる前に答えを出さずとにかくやってみる。それは他ならない僕のテーマでもありますから。
友人から『しんちゃんは昔からほんとに“人”に興味があるんだね』っていわれますが、世の中いろんな人がいていいし、いろんな人に会って伸びようとする時期が誰にでも必ずあります。自分が若い頃は、『青春』なんて言葉は気恥ずかしくて嫌いで、そんなものはない、と思っていましたけど、青春は、確かにやっぱりありますねえ(笑)」

取材日:2016年8月4日 取材協力:小学館「BLUE GIANT」BIGBAND! 編集部