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ジャズピープル

骨太なスウィング・ジャズとともに甦る現代のエンターテイメント・ビッグバンド

骨太なスウィング・ジャズと圧倒的なパフォーマンスでエンターテイメントというビッグバンドが持つ本来の魅力を蘇らせたジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド。ユーモアたっぷりの笑える指揮でバンドを率い、快進撃を続けるリーダー・ジェントル久保田さんにお話をうかがいました。

person

ジェントル久保田
[バンドリーダー&トロンボニスト]

1978年東京生まれ。高校卒業後庭師になるべく住み込みで修業するも壁にぶち当たり断念。再出発のために22歳で入学した大学でトロンボーンと出会う。高級眼鏡店に就職しながら、2005年自身のエンターテイメント・ビッグバンド GENTLE FOREST JAZZ BANDを結成。2010年からプロ活動を開始し現在に至る。3月に3枚目のアルバム『スリリング・ザ・バンド』をリリース。東京03の公演参加やボーカリストakikoのバックバンドとしても活動。単独では『在日ファンク』にトロンボニストとして在籍し、司会、ナレーター、俳優としても活躍中。

interview

社会人ビッグバンドとしてスタート

── このような劇場型エンタメビッグバンドを始めようと思ったきっかけは?

「大学を卒業し、社会人になってからも楽器を続けたいという仲間が僕の周りに大勢いました。じゃあ自分の好きなスウィングのバンドをやってみようかと中央大学スウィング・クリスタル・オーケストラ時代のメンバーを中心に、軽い気持ちでスタートしたのが10年前。もちろんプロとしてやっていこうなどとは考えもしなかった。当初はまあ5年も続けられればいいかな、と。
ビッグバンドって若い世代のリスナーにとっては、みんな黙々と演奏してるだけで見ていてつまらない、あるいはなんとなく敷居が高くてどう聴いていいのかわからないという印象があります。もともとスウィングが生まれた当時のアメリカには、最先端の音楽で演奏する人も観客も一緒に楽しもうとする精神があった。だから聴いてくれる人にスウィングの楽しさを伝える橋渡し役を僕がやろう、と思ったんです。社会人バンド同士の対バンライブに参加した際、自分の理想とする「楽しいバンド」と他の人たちがやっているバンドがあまりにも違いすぎる。これは僕らのバンドとして世界をつくった方が何かおもしろいことが起こるのでは、もっと前に進めるのではと考え、それからはワンマンライブでやっていくことにしました」。

── 踊るように指揮するユニークなキャラクター「ジェントル久保田」はどのようにして生まれたのでしょうか。

「なんで始めたのかよく覚えていないんです。ただ楽曲の魅力を『ここがおもしろい聴きどころなんだよ!』とみんなに伝えたかった。そして笑いながら聴いてほしいという気持ちでやったことがたまたまウケたからかもしれません。TVでビッグバンドを見ていた世代の方からは『スマイリー小原』や『トニー谷』の真似をしたのかとよく言われました。もちろん彼らのことは全く知らなかったので誰それ??って。なにしろ『オレらはすげぇ新しいことやってるんだ!』と思ってましたから(笑)。彼らのことは後からYouTubeで知りましたが、やはり出所はアメリカのエンターテイメント。僕もそのスピリットは引き継ぎたい。ステージの台本をつくったり、いろいろな人を見て動きを研究したりしたこともありましたが、あまり功を奏さず(笑)今はもう自然体でやっていますね」。

今の時代にふさわしいオリジナル曲で勝負する

── ジェントル・フォレスト・ジャズ・バンドの音楽の魅力などについて教えてください。

「大学時代に初期のベイシーやエリントンを聴いてそのカッコよさに圧倒されました。演奏している人たちも個性的。こういうの、いいな〜と。でもただ昔の真似をするだけでは意味がない。ベイシーが好きだったら、彼の雰囲気を持った新しい曲をつくって演奏したい。『作曲』というとみんな急に「名曲でなくては!」と構えてしまいがちですが、昔の映像なんか観ると、すごく単純なコードに色々なメロディーを付けて演奏されていたり、お客さんも聴く人もいれば、踊っている人もいたり。こうしたいい意味でのジャズのお気軽さ、バカバカしさは日本にはちっとも伝わって来なかった。「分かる人にだけ分かる」ような難しい音楽になってしまった。ロックをはじめジャズ以外のジャンルでは、見聞きした音楽をどうしたら自分らの世界に落とし込めるかという試行錯誤を重ねて観客を増やし、市民権を得てきました。その点ジャズは遅れをとっている。もっと若いファンを増やさなくては衰退する一方でしょう。僕らが本気でカッコイイと思っているジャズを正々堂々とみせるのなら、まだまだ勝負できると思います。
だからジェントルが演奏する曲はすべてオリジナル。僕好みの曲想やハーモニーを知り尽くしたバンドのメンバーと一緒につくり、自分のバンドは『持ち曲』でやっているんだと胸を張って言いたいですね。今回リリースした3枚目のアルバムは僕らの自信作。ジャズの基本のブルースコード進行を変化させて全く違う曲をつくるということにチャレンジしつつ、シンプルかつ一本気なノリが出せたのでは」。

ジャズって、「他の人とは違うことをやる」ということが基本にある

── 大所帯のバンドを維持することはとてもエネルギーのいることだと思うのですが

「ジェントル・フォレスト・ジャズ・バンドはこの10年間でメンバーも入れ替わり、僕を含めたほぼ全員がプロになりました。芸をしてお金をいただくということは常に先行しておもしろいことをやり、お金は後からついてくるもの。けっしてその逆ではない。このことはみんなと共有し、金銭的なことはオープンにしています。メンバーは僕の知らないところでセクション練習をしていてくれたり、忘れているスケジュールをチェックしてくれたり。プレイヤーを変えるつもりはありません。これからも『固定』でやっていきたい。メンバーありきのジェントルだから。「みんなの存在をバンドに死ぬほど残してくれ」と彼らにいつも伝えています」。

── これからやりたいこと、目標などを聞かせてください。

「僕は器用ではないので好きなことしかできません。スウィングという音楽の、華やかで楽しく人間味あふれる世界観が好きなんです。オリジナル曲で勝負する、ということは音楽を一から組み立てること。だからリハーサルはメンバーとシビアにやりあいますよ。バンドのみんなにまだまだやって欲しいことは山ほどある。次にアルバムを出すときはここをクリアしないと出せないよ、と課題もすでに確認済みです。僕らはバンドとして「とりあえず聴く人を楽しませる」ところはもう終わった。ゴリゴリのカッコいい演奏をしていかないとメンバーもリスナーも納得できないところまで来ているんです。
ジャズって、「他の人とは違うことをやる」ということが基本にあると思う。今後の目標はメンバー一人ひとりのおもしろさが滲み出るバンドにしていくことかな。昔のアメリカのビッグバンドは気が遠くなるほどバスツアーを重ねていましたが、だからこそ個性も一体感も半端でなかった。ホントはバスツアーやりたいんだけど(笑)。
今の時代、そうもいかないから僕らなりのやり方を探していかなくては」。