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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.144
Lydian(リディアン)

ジャズを明日へとつなぐ本格派ライブハウス
@東京・神田

ここのところ、ライブハウスの閉店が続いている。
ジャズ探訪記でもご紹介した『Tokyo TUC』、渋谷の『バール・ローズ』、横浜の『KAMOME』ほか、46年の歴史を持つ渋谷のジャズ喫茶「メアリージェーン」も店を閉めた。特にライブハウスの場合、お客さまだけではなく、そこを拠点に活動していたミュージシャンにとっても大きな痛手だ。残念だなぁ。
そんな状況のなか、本日おじゃまする『リディアン』は、東京のド真ん中でわずか1年半前にオープン。ジャズ・ミュージシャン&ジャズファンの注目を一身に集めている本格的なライブハウスだ。
地下鉄の淡路町駅と小川町駅からわずか2〜3分。神保町のスポーツ店街からもほど近い、大通りから少し入った裏通りを歩いていくと…。おおっ!でっかいピアノの鍵盤の絵が、じゃ〜んと黒い壁一面に描かれている。横には大きな文字で「Lydian JAZZ LIVE 聴き惚れるジャズ!」と。地味な通りでひときわインパクトを放つ。
地下に続く階段を下ってドアを開けると、外からは想像できない大空間が広がる。濃紺の壁と高い天井。クールですっきりした中、すべての客席とスリムなテーブルが正面のステージに向けてセットされた様子は特に印象的だ。これはライブハウスとしてはけっこうめずらしい。がっつり音楽に向き合ってほしいというお店の姿勢が反映されているのかな。

「以前、ここは印刷工場でした」と出迎えてくださったのはオーナーの中川貴雄さん。
いつかジャズクラブをやってみたかった、とおっしゃる中川さんは、定年を期に『リディアン』をオープン。大学時代にはジャズ研でサックスを、また会社員時代に始めたジャズピアノとボーカルは忙しい今も続けるアマチュアプレイヤーでもある。出演者には自ら声をかけ、また信頼するミュージシャンからの紹介も含め、お店はほぼ連日ブッキングされている。
「著名なベテランの方はもちろんですが、最近の若い音楽家の力量には目を見張るものがあります。中でもピアノのレベルは本当に高い。片倉真由子さん 田窪寛之さん 栗林すみれさん 魚返明未さん、松本茜さんなど、彼らの演奏はぜひここで聴いてほしいですね」。
『リディアン』ではソロライブをはじめ、PAは使用しないことが多い。天井高が3.5メートルもあり、ミュージシャンにもお客さまにも『音響のいいリディアン』が定着してきた。ナルホド、確かに!デリケートな生音を堪能できるハコって都内でもなかなか見当たらないもの。最近ビッグバンドをはじめ、アマチュア・ライブの貸し切りが増えてきたそうだが、ナットクできる。

ところで中川さんは、昨今のジャズシーンを日々どう感じていらっしゃるんでしょう。
「ジャズ以外の音楽の選択肢が増えた、という背景は確かにあります。でも発信する側——アーティスト、メディア、評論家——が、ジャズという抽象的な音楽を解ってもらうための努力をしてきたのかといえば、まだまだ足りていなかったのでは。例えばプレイヤーが演奏する前に、曲紹介や若干の解説をすることは聴き手にとっては有益です。こうしたジャズを聴くための情報を、地道に発信し続けていかなければ10年、15年先にはもっと厳しくなってしまう。そうした危機感から、できることは少しずつ仕掛けていますよ」と中川さん。
『リディアン』では通常のライブのほか、ピアノトリオやボーカルの演奏を行いながら店主自ら解説する『レクチャー・ライブ』を行っている。1月からはクラリネット奏者の谷口英治さんがピアノトリオとともに実演を交えて解説する新シリーズが始まるそう。
また月2回発行している登録無料のメルマガもすでに40回を超え、好調だ。“スタンダードナンバーの作者について” “ブルージーな音とは?”など、テーマはさまざま。ネタ探しと書くことにはかなりエネルギーを使い、けっこうプレッシャー、とおっしゃる中川さんだが、記者をしていた経験もあるというだけあって、筆致はさすが、軽妙でやさしい。メルマガはサイトでも読むことができる。サイトには『聴き惚れるジャズ』を産む『聴き惚れるアドリブ』についてこんな記述も。
「①フレーズがきれいなメロディになっている②ミュージシャンの個性がしっかり出ている③曲調にぴったり合っている④コードワークでの音使いがかっこいい」。これ、すごく解りやすいですよね。
「飲食サービスを効率化することで、30人くらいのお客さまでもひとりで十分対応可能です。人件費がかからないよう工夫することは大事ですね」と中川さん。こうしてお話しているあいだも、ここの看板メニュー、キッシュづくりの手は休めない。
ムダがなくスマート、キリッとした空気は『リディアン』の大きな魅力。ジャズのプラットホームとして、貴重な場所となっていくに違いない。