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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.143
LIVE BAR TAKE FIVE

バーの域を遥かに超えた、大箱の本格ライブハウス
@大阪・吹田

 吹田は大阪からJRで8分ほどの距離にある。JR吹田駅の中央出口から歩道橋を通って昭和の気分を味わいつつ、「わくわくの街バリアフリー旭通商店街」と書かれたバナーを見ると、そうか、平成の今は当たり前なのかと我に返る。でも、雰囲気は昭和そのもの。懐かしい気分にさせてくれる駅前の風景である。そんな商店街を5分ほど歩き、昔ながらの古い本屋さんを通り過ぎたところに、今回、お伺いした『LIVE BAR TAKE FIVE』がある。
地下へ下りて重い扉を開けると、わぁー、広い。ブルーに浮かび上がったロゴが眩しい。ここは吹田のブルーノートか。きれいにレイアウトされたテーブルにはレコードジャケットがさりげなく置いてあり、裏がメニューになっている。右手にバーカウンターがあり、遠くにステージが見えるのは店が広い証拠である。どうぞどうぞと案内してくれたのは、一見、ミュージシャンのようなオーナーの塚口輝さん。「よく間違えられるんです。でも、楽器は弾けないし、音痴なんですよ」と笑う。

 オープンは2017年2月と新しいが、それまではこの近くで、23年間カフェ&バーをしていた。もともと、塚口さんは珈琲専門店の『三番館』に勤められていて、いくつかの店舗で店長を務め、29歳で独立。自宅近くの行きつけだった喫茶店を引き継いだ。最初は普通の喫茶店だったが、レコードをかけて音楽を聴かせるジャズ喫茶になった。
「狭いカウンターのお店でしたが、音楽好きのいろいろなお客さんが集まるようになって、演奏させてほしいとミュージシャンも来るようになりました。プロとは知らず、演奏してみてよと偉そうなことを言った相手が、後で岸部眞明さんだと知って、CD持ってます!みたいな(笑)」
ギターの畑ひろし、ベースの福呂和也は、今も店の看板ミュージシャンとして活躍し、二人がいたからここまでやってこれたと感謝する。今はアコースティックギター界の重鎮、押尾コータローも来たことがあるそう。そんなプロのミュージシャンとのつながりが広がっていく中で、もっと大きなスペースでライブがしたいと移転を決めた。
そして、オープン以来、小柳エリコ、小柳淳子、かづき、阪井楊子、高尾典江、杉山千絵、山内詩子といった、関西を中心に活躍するヴォーカリストの多くがステージに立った。さらに、古谷光広、東原力哉、清水興、村上PONTA秀一、元T-SQUAREの則武裕之、EPO、嘉門タツオなど、ジャンルを問わず錚々たる顔ぶれが、彼の口からポンポンと出てくる。ボサノバが好きという塚口さんだが、ファンである小野リサさんのステージは実現していないようで、秘かにブッキングのチャンスを窺っている。
ジャズ、ボサノバ、ブルース、レゲエ、フュージョンなど、平日を中心にプロによるさまざまなジャンルのライブを開催。週末は貸切のステージや、ピアノ教室などを行っている。ライブがないときはバーとして塚口さんがカウンターに立つ。地元のレコードショップの店長が大学時代につくった自作のスピーカーは、45年物で今も健在。「もらったスピーカーですが、味で鳴らしてます。今日は機嫌が悪いのかなぁ。音が悪いです(笑)」

 スピーカーには少し難があるが(失礼!)いや、味があるが、ライブの環境はすばらしい。グランドピアノをはじめ、PA室も完備し、音響も照明も万全だ。バーというより、本格的なライブハウスである。ライブ会場としての機能は完ぺき過ぎる。5階にはスタジオがあって本番前にリハーサルができる。そして、楽屋にもこだわりが。前室には厨房があり、食事や打ち上げも可能だ。楽屋にはトイレとシャワールーム、仮眠用の簡易ベッドからコピー機、パーティーなどでもらったプレゼントを発送できるように、宅配便の送り状まで揃っている。ここまでミュージシャンのことを考えたライブハウスはないだろう。あるミュージシャンは「俺が見た中で一番すごい楽屋」と言って驚いた。
塚口さんは、かつて、毎週のように『ブルーノート』に通った時期があった。いろいろな店に通った経験からライブを心から楽しみにしている、音楽が好きなお客さんに来ていただきたいと、ライブに集中できる環境を常に考えている。そして、お客さんを大切にする気持ちは、ステージに立つミュージシャンに対するおもてなしの気持ちにも通じる。
「プロもアマも楽しんでほしい。でも、やっぱりお客さんに楽しんでもらいたいですね。ステージの縛りはないのでチャージとドリンク代の500円を持って音楽をゆっくり楽しんでください。お店に行きたいなと思ってもらって『LIVE BAR TAKE FIVE』にお客さんがついてほしいですね」
キャッシュ・オン・デリバリーで明朗会計。チャージ料金よりも食事代や飲み代が超えないように、あくまでも音楽メインを強調するが、料理やメニューのこと、喫煙ルームの設置、音楽関係以外の予約も増やしていくか……。経営者としての悩みも尽きないようだ。
気になる店名の由来をお聞きすると、ある映画の中でバンドマスターが「5分休憩しよう」というシーンがあって、その台詞が「テイクファイブ」だったことから名付けた。そして、もうひとつ理由がある。大阪・梅田の東通りにあった『LPコーナー』で初めて買ったアルバムが、デイヴ・ブルーベック・カルテットの「TIME OUT」だったこと。以来、お店の社長と懇意になり、レコードジャケットの裏をメニューに使いたいと言うと、快く提供してくれたという。
先日、2025年に55年ぶりとなる万博開催が大阪に決まった。吹田は1970年の大阪万博の開催地である。当時はモーレツが流行語になり、みんなモーレツに働いていたらしいけれど、今はそんな時代じゃない。7年後の大阪万博までまだ少し時間がある。まぁ、ここはゆる〜くほどほどに「テイクファイブ」の気分で行こうじゃないですか。