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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.145
JAMMER

ジャズをもっと気軽に。いつでも生演奏を楽しんで。
@兵庫・尼崎

阪神尼崎駅の北側出口を出て、活気溢れる商店街を横目に、五合橋線を合同庁舎の方へ。駅前の喧騒から少し離れた場所にミュージックバー「JAMMER」はある。ドアを開けると、カウンターの中にズラリと並んだウイスキーのボトルが目に入る。バランタイン、マッカラン、イチローズモルト、オーナーズカスク… ヴィンテージものや他ではお目にかからないような珍しい銘柄も。そして、店内奥には、ドラムセットとピアノ。オープンして10年、地元では「音楽を楽しみながら、レアなウイスキーが飲める店」として親しまれている。

中学生の時にジャズに出会い、以来ずっとジャズを愛する店主の杉谷 忠一(すぎたに ただいち)さんが、「趣味が高じて」作った店だ。杉谷さんは、昼間は建築士として現場に立ち、夜はジャズバーのマスターとしてカウンターに立つ。文字通り“二刀流”の日々を送っている。ジャズだけにこだわらず、ロックもポップスも音楽は大好き。一時期はハワイアンにはまっていたこともあるとか。でも、一周回ってやっぱりジャズが耳に心地いいという。「なんせ音楽が好きなんで、お客さん来んでも、ここで好きな音楽を聴けるだけで楽しくて仕方ない」とニコニコと語る表情が、ホントに幸せそうだ。

以前は、仕事が終わるとあちこちのライブハウスに行っていた。「でも、広い店やホールは演奏の息遣いが感じられへん。こじんまりしたスペースで自分の好きなグループのジャズを聴きたいなあ、そんな店を自分でやってみたいなあ」と計画。「嫁さんに黙って密かにお金を貯めて。資金がやっと貯まったから、物件探して借りて、改装始めて、ある程度できたところで、こんな店やりたいねんって。確信犯ですわ」と笑う。2009年、54歳の時だ。さすが建築のプロとあって、店内は杉谷さんの思いが随所に形となっている。

カウンターに目をやると、リトルジャマーのフルセットが! 2001年にバンダイから発売された、ミニチュアプレイヤーの人形がジャズやブルースを演奏する、あのミュージックコンボだ。音楽に合わせた動きやサウンドは臨場感にあふれ、玩具の域を超えて人気を博した品である。2010年に製造中止となったが、今でも愛好家から支持され、オークションでは高値がついているとか。もちろん、店名の由来はここからだ。

JAMMERでは、定休日とノーライブデーの水曜以外は、いつでも生演奏を楽しむことができる。ミュージックチャージはなし、すべてチップ制である。ライブの終盤になると赤いクルマの“チップボックス”が客席に回ってくる。名の知れたプロのベテランも駆け出しの若手も、同じシステムだ。
オープン当初は、2000円くらいのチャージで月2〜3回のライブを行なっていたそうだ。でも「尼崎の人ってお金払ってまで音楽聴かないんですわ」。音楽好きの知人や、ミュージシャンのファンは遠くからでも聴きに来てくれるけど、ふらっと訪ねてきた地元の人は、「飲みに来ただけやのに、音楽聞くのになんでお金払わなあかんねん」と帰ってしまう。「これじゃあかんわ。僕のやりたい店やない、思て。ミュージシャンの皆さんになんとかチップ制でできへんやろかと、相談して…」。誰でも気軽にジャズを楽しめる今のシステムにしたそうだ。コアなジャズファンだけでなく、たまたまJAMMERに立ち寄って、ライブを聴いてファンになったお客さんも増えてきた。ブッキングは基本ミュージシャンに任せ、スケジュールはすでに3か月先までほぼ決まっているという。
初めての人もウエルカムな雰囲気とアットホームな店の心地良さか、ミュージシャンも、お客さんも、この店に来るのをとても楽しみにしているのが伝わってくる。

杉谷さんは、毎年10月に開催する尼崎の音楽祭「尼ソニック」の副実行委員長としても汗を流している。「尼崎にグレードの高い音楽祭を!」と、お客さん、ミュージシャン、飲食店舗、スタッフみんなで創り上げる。「生の音楽を気軽に聞いて、楽しんでほしい」という思いは、店でも音楽祭でも変わらない。「こんないい演奏やってるんやから、もっとたくさんのお客さんが来てくれたらうれしい」という杉谷さん。

そう、音楽はもっと身近なもの。気軽にいつでも楽しんでこそ。ま。あれこれ言うより、今宵はJAMMERに行って心地いいリズムに身を委ねよう。