スタジオfの録音レポート

Minoru Satomura

里村 稔

no.25

里村稔さん愛用楽器紹介 — サックス

今回使用しました楽器はテナーがセルマーのmark6、12万番台とソプラノがヤナギサワのS-90のシルバーです。
このテナーは所謂アメセルと呼ばれているもので、1964年頃製造されました。最新の楽器のようなパワーはありませんが、独特な響きとスモーキーなサウンドが特徴的です。
マウスピースはこの録音時はオットーリンクのアーリーバビットの7番でした。いわゆるデッドストック品で未使用、未改造品です!太くザラついた音が特徴です。リードはリコーのオレンジ箱の三番を使用しております。現在はまたラバーに戻りまして、リバイユの8☆を使用しております。
手入れやメンテは特別な事は何もしていません。吹き終わったら管体の水分を取るくらいです。調整も鳴らなくなったら持って行くくらいです(笑)。セッティングやメンテにこだわる時期もありましたが、キリがないので鳴ればいいと考えるようになりました。
音を良くするには身体鍛えるのが一番手っ取り早いかもしれません(笑)。

レコーディングの感想

●今回のアルバム制作に対する想い
かねてから、リーダーアルバムを作る時は全曲オリジナルで録ろうと考えてました。
ようやくオリジナルがアルバム一枚分位たまったので、ミュージシャン、スタジオ、エンジニアに連絡してみたところ、二ヶ月後であるにも関わらず、偶然にも全員空いてるという奇跡!これは天命と感じました!
この作品は全楽器の音が前に出るように意識しました。メンバーの皆さんが本当にアンサンブルと調和が達者な方々なので、その空気感を是非とも伝えたく、一室でほぼ一発録りになりました。
本当に色彩感豊かで美しいタッチのピアノを奏で、私の一番出して欲しいサウンドを創り出してくれる安次嶺さん。
抜群の安定感とセンス。オーソドックスからフリーまでとにかく音楽の幅が広く、全てにおいて最高の音を出してくれる時安くん。
そして、抜群のグルーヴとスイング!完璧な楽器コントロールでバンドを動かしてくれる梶原くん。
本当に全員がそれぞれの役割りを完璧にこなし、全く異なるビート、リズムの曲も見事に演奏してくれております。
●レコーディング裏話
ハプニングらしいハプニングはなかったのですが、録音が三月ということもあり、皆さん花粉症に悩まされていたようですねー。くしゃみと薬の眠気と戦っておられたようです。皆さん録音は三月、四月は避けましょう(笑)。
録った曲のほとんどTake1を採用しました。やはり一回目の緊張感と集中力が一番勢いあるなと実感しました。
今回一番力入れたのはケイタリングです(笑)。いわゆるおやつ、飲み物です。
●ミックス/マスタリング終了後の感想
これだけ自分の演奏聞くことはない位聞きました。およそ一週間後にミックス、マスタリングしたのですが、録音状態がほぼ一発録りという事もあり、とても良く、大幅に変える事もなく行えました。
エンジニアの長島くんはとにかく仕事の早さに脱帽でした!
録音中もミックスもいわゆるシステムのトラブルがほとんどなく、集中力が持続が出来ました!

長島直乗さん(レコーディングエンジニア)

 里村さんの録音は、リーダーアルバムとしては初になるのですが、前回 山田さんのアルバム録音の時にサックスで参加されてましたので、このスタジオでの録音は2度目となるわけですが、里村さんとの事前の打ち合わせの結果 “全員同じ部屋で録音したい!ステージの中で聞いてるようなサウンドに仕上げて欲しい” との事でしたので、マイクの立て方、楽器の配置には心を砕きました。
 楽器同士の距離が離れると、音の遅れが発生しますし、近すぎるとお互いの楽器のマイクにお互いの音が被り過ぎてしまう。ということで、各楽器のベストポジションを探したり、音の被りに強い、ダイナミックマイクを多用したり…と、いつもとは全く違う音作りになりました。
 結果として、ライブハウスで聞いているような臨場感溢れるサウンドになったかと思います。特に再現性の高いコンポなどで聞くと、大変面白い仕上がりになっているかと思います。
 ミックスの段階では、ドラムがフォルテで叩いた時に少し響きすぎる傾向があったので、それをどう押さえるかという事が少し問題になったくらいで、録音したままに近い、ナチュラルなサウンドを求めたミックスになってます。

アルバムの紹介

「Fall」 全曲、里村稔の作、編曲。

1.Caplicious Cat
気まぐれな猫という題名通り、ネコをイメージしました。元はユーモラスなメロディとトリッキーなリズムの4ビートの曲でしたが、メンバーのイメージからアレンジを大幅に変えかなりファンキーでグルーヴなナンバーになりました。
2.Empiezo De Verano
スペイン語で夏の始まりという意味です。夏=Veranoという響きが好きでこの題名にしました。あと、この曲を書き上げたのが丁度7月終わりでした。ライブでもよく一曲目に取り上げる、始まりを予感させる、ハードバップ調のスインギーな曲です。
3.Fall
タイトルチューンです。イメージは都会の夜の空で見える流れ星。もちろん秋もイメージしております。イントロダクションや合間、エンディングで響くコードサウンドがこの曲の最大の特徴であり、魅力です。pからfffまで、圧倒的なダイナミクスを要するこの曲はこのアルバム一番の大作になりました。
4.Blow Up!!
本作で最もUP TENPOのナンバー。この曲と二曲目、なんと言ってもドラムの梶原くんでしょう!普段彼はFunkやPopsでのプレイが多く、彼のストレイトアヘッドな4ビートが聴けるのはここだけでしょう!
5.Gentle Feeling
丁度今頃の春の日中をイメージした曲です。かなり長く演奏している曲なのですが、今回はソプラノサックスでより透明感を出してみました。この曲の特徴は二つのブロックに分かれているのですが、そのどちらでソロ終わっても曲が成立するところです。あえてループするように作りました。
6.Remembrance
これはとても古いナンバーです。10年程前韓国にツアーに行ってた時に作りました。その頃の強烈な印象を音に現してみました!
7.Snow Flakes
その名の通り冬に書き上げたナンバーです。聞きどころはこの曲の美しいメロディーと繊細で美しく、軽やかな安次嶺さんのピアノソロ!まさに彼の真骨頂でございます!
8.R-DeCo
一番新しいオリジナルです!かなりウェストコースト系の曲です。軽やかなメロディーと軽快なスイングです。題名は愛犬の名前とかけております(笑)。

1stアルバム「Fall」

 音質重視でスタートしたレコーディング。ファーストアルバムとなる里村さんの今回の録音はセッティングの段階からすでに目指す音のイメージが明確でした。各楽器の音色や響き、空気感にこだわり、音の一体感を重視して思い切ったレイアウトでセッティングがおこなわれました。
 音の調整が完了すると、一気に録音が進み午前中で各2〜3テイクで3曲分を録り終えることが出来ました。和やかな雰囲気の中にも、常にいい音、良いテイクにに集中した緊張感がありました。
 録音の段階でエンジニアの長島さんとじっくり意見を交換されながら録音当日のラフミックスが確認用として作成され、本番のミキシングに向けて慎重に確認されました。更に磨きをかけるミキシング作業に移行し、クリア感や空気感の調整が施されました。ミキシングで調整されていく音は逐次、イヤホン、ラージモニター、そしてTD-M1と順次切り替えながら作り込まれていきました。各楽器の音色や配置、微妙なニュアンスの再現など、緻密に調整されていきました。
 楽器の音色や音の鳴り方、部屋の響き、演奏内容すべてについてリアリティーにこだわって作り上げられた里村さんのFirst Album。できればイヤホンではなく、ちょっといいオーディオシステムでそのリアリティーを体験して下さい。

Album Info.

「Fall」里村 稔

  1. 01.
    Capricious Cat
    7:55
  2. 02.
    Empiezo De Verano
    4:45
  3. 03.
    Fall
    8:08
  4. 04.
    Blow Up!!
    5:25
  5. 05.
    Gentle Feeling
    5:40
  6. 06.
    Remembrance
    6:40
  7. 07.
    Snowflakes
    8:37
  8. 08.
    R-DeCo
    5:24

Live Info.

2014.08.06 サンケイホールブリーゼ小ホール ジャズ講談
2014.09.06 このCDメンバーで京都のキャンディーにてレコ発ライブ

Member Info.

里村 稔 (サックス)
12歳頃に兄弟の影響でジャズやフュージョンを聞き始め、アルトサックスを始める。大学に進学し、本格的にジャズに取り組みテナーに転向。独学でジャズを学ぶ。主にビッグバンドで活動。コンテストで様々な賞を受賞。
その後コンボの活動に力を入れはじめ、関西のライブハウスを中心に様々なジャンルで活躍。98年には大阪のグローバルジャズオーケストラとアメリカ西海岸のモンタレージャズフェスに参加。フュージョンユニットBLACK CANDY参加時には韓国ツアーを年二回行ったりと活動の場を海外にもひろげている。
これまでケニーワシントン、ルイスナッシュ、クリフトン・アンダーソン、ボビー・シュー、ビル・ワトラス、渡辺貞夫、村上ポンタ秀一、東原力哉、原大力、多田誠司、MALTAなど内外の有名アーティストと共演。
現在、古谷充ネイバーフッドビッグバンドや自己のカルテット、クインテットを中心に活動。オーソドックスなジャズを基本にしているが、そのプレイスタイルは幅広く、ジャンルを問わない。

時安 吉宏 (ベース)
1978年兵庫県生まれ。大阪音楽大学ジャズ科卒業。高校時代にジャズバンド部でウッドベースを手にする。音大在学中よりライブ活動を開始。京阪神を中心に、最近では全国的に活躍中。ジャズのみならず、ポップスやゴスペルなどのサポート、また有線やCD作品、DVDなどの参加も多数。それ以外にも現代美術との競演など、オリジナリティーあふれるその活動は多岐に渡る。国内外の有名ミュージシャンとの競演も多数。

梶原 大志郎 (ドラム)
1972年10月6日大阪生まれ。11歳からドラムを始め、佐々木晴夫氏に師事。中学時代からバンドを始める。高校卒業後ヤマハ音楽院大阪にて金子敏男氏に師事。卒業後、講師、およびジャンルを問わず、ライヴ・レコーディングなどで活動中。

安次嶺 悟 (ピアノ)
昭和32年9月4日生まれ。岐阜県出身。大学時代に、アレンジを勉強するためにピアノを始めて、そのままピアニストとして、プロになる。1985年に、渡米。N・Yにて修行。帰国後、Real. Music. Studio「リアル・ミュージック・スタジオ」を設立。作曲・編曲・ピアニスト・シンセサイザー・音楽講師・コンピューターDTMなど。
2005年、第42回なにわ芸術祭ジャズ部門(第13回中山正治ジャズ大賞)受賞。
2009年12月 初リーダーアルバム「For Lovers」を発表。
現 大阪音楽短期大学講師/大阪芸術大学講師/大阪芸術短期大学講師