スタジオfの録音レポート

Yoshika Kitanami

北浪良佳

no.13

故郷、神戸で作り上げた北浪良佳の3rdアルバム。

今回の録音レポートは、歌唱力、表現力ともに素晴らしい歌声でファンを魅了するジャズヴォーカリストの北浪良佳さん。全国で活躍する北浪さんが、三枚目のアルバム「Love me tender」をスタジオフォルテで録音したのは、今までよりもっと飾らない音を故郷である神戸で録ってみたかったからだそう。
「飾らない音をとは何か、自分が何をしたいと思っているのかを考える事は楽しいできごとでした。演奏する機会が減っていたオリジナル曲はもちろん、ライブで幾度となく大切に歌ってきた曲、自分の青春時代の思い出の曲、歌うたびに人生の喜びや神様に感謝を感じる私にとってのゴスペルソングといえる曲、そんな曲を集めてみました」という今回のアルバムの制作風景をお届けします。


アクシデントを物ともしない、クリエイティブな録音。

録音は昨年の梅雨の終わり頃に行われました。ちょうどその頃、足を骨折するというアクシデントに見舞われた北浪さんですが、打ち合わせからリハーサル、レコーディングまでのハードワークを松葉杖とギブス姿で敢行。「暑い時期で出かけるのも一苦労でしたし、移動にも時間がかかり関係者の皆さんにはご迷惑をおかけしてしまいました(笑)。でも、昔からずっと一緒に演奏してくれているYBTSのメンバーと東京で出会った素晴らしいピアニスト林正樹さん、共演は初めてでしたが、演奏と人格の素晴らしさは色々うかがっていた鈴木孝紀さんも参加してくれることになり、舞台も役者は揃ったなと思いました」と北浪さん。その言葉通り、レコーディングが始まると、スタジオ内は一気にクリエイティブな空気に。
梅雨の時期ということで湿気を含んだピアノに調律師の方は苦労されていましたが、奮闘の甲斐もあって、録音時の気候とは裏腹に透明感のある音に仕上がりました。

ミックス終了後、レコーディングの感想を聞いてみました。

北浪良佳さん
ミックス前からいい感じでしたので、できあがりがとても楽しみでした。ナチュラルでバランス良く、ほぼ問題なしだったのですが、私の歌唱はダイナミックレンジがとても広く、大きな音で歌っているところに合わせると、小さく歌っているところのニュアンスが表現しきれないという問題がわずかに残りました。それからしばらく時間が経ってのマスタリングになったのですが、その間に万波さんがイメージやアイデアを出してくださって、ヴォーカルの立ち位置が絶妙なバランスで決まって、私が歌ったことが余すことなく最良のかたちで表現されたと思います。

万波幸治さん(レコーディングエンジニア)

レコーディングスタジオ内ではそれぞれの楽器配置による音像バランスの調整に加え、互いの直接音の割合調整を行うことにより、更にバランスを整えてみました。実際には各楽器の間に置く遮音パーテーションの枚数、距離、設置角度、等を色々試してベストを探って行く作業です。地道な作業ではありますが、後にアウトボード(イコライザー、デジタルリバーブ等のエフェクター類)の操作では再現出来ない、音楽本来の空間的サウンドが得られます。
また今回、ミックスダウンの作業においてその空間的サウンドの見極めに欠かせなかったのがECLIPSE TDシリーズのエントリークラスに位置する「TD307II」でした。シリーズの中では最小の6.5cmフルレンジユニットのモデルですが、音の空間を確認するには十分なスペックでした。より多くのリスナーの環境を想定するミックスダウン作業ではちょうど良いサイズであることを今回再確認しました。
[ ECLIPSE TD307IIの詳しい情報はこちら

大らかで美しいボーカルと楽器が絡み合った極上の響き。

林正樹さんのアレンジでは北浪良佳さんの表情豊かな歌声に楽器一音一音が絡み合う、巧な音の響き合いがとても印象的なレコーディングでした。特に「MoonRiver」では北浪良佳さんの大らかで幅の広い歌声と相対的に、ピアノ&クラリネットの単音ユニゾンによる間奏アレンジになっており、聴く側に安堵感と心地よい緊張感を同時に与えてもらえる仕上がりになっています。

Album Information

Love Me Tender/北浪良佳

高い歌唱力と豊かな表現力でファンを魅了するジャズヴォーカリスト、北浪良佳の3年ぶりとなるニューアルバム。U2やマドンナのカバー曲にオリジナル曲など全9曲を収めた、自身のゴスペルソングといえる曲を集めたバラエティ豊かな一枚。
[APX1008/エアプレーンレーベル(株)より2012年4月19日全国発売]

Member Information

北浪良佳さん (Vocal)
兵庫県神戸市出身、東京都在住。大阪音楽大学音楽学部声楽科卒業。同大学大学院オペラ研究室を修了。在学中光文社「JJ」等の読者モデル、神戸シークイーン・代表クイーンに選ばれフランス・ニースカーニバルに友好親善大使として参加。2000年ジャズ・ポップスシンガーに転向し、神戸・大阪でライヴ活動開始。現在は関東・関西を中心に全国各地で精力的に演奏活動中。第5回神戸ジャズ・ヴォ-カル・クイーン・コンテスト優勝。2005年兵庫県から今後の活躍を期待される女性に送られる「はなだ賞受賞」。2007年1stアルバム「LITTLE GIRL BLUE」、2009年2ndアルバム「SONGS」をリリース。
http://www.yoshika.org/

林正樹さん (Piano)
1978年、東京生まれ。5才よりピアノを始める。1997年、民謡歌手伊藤多喜雄の南米ツアーに参加しプロ活動を開始。現在は自作曲を中心に演奏するソロ・ピアノ、自己のグループ「STEWMAHN」での活動の他、「SalleGaveau」「菊地成孔ペペ・トルメント・アスカラール」をはじめ多種多様なジャンルのバンドに在籍中。自由闊達な精神をもち、独自の情感豊かな音楽を生み出している。2008 年「Flight for the 21st /林正樹 ピアノ・ソロ」、2011 年「Crossmodal / 林正樹STEWMAHN」を発表。ジャズを核にジャンルを超越して活動する実力派ピアニスト。

馬場孝喜さん (Guitar)
京都府出身。中学時代よりギターを手にし、 高校時代はロックを中心としたバンド活動を行う。大学在学中、軽音楽部に所属し演奏活動を開始。ジャズ、ファンク、フュージョンなどのバンドでライヴ、レコーディングに参加。2004年にはN.Y.、ブラジルに渡航し、ギタリストBilinho Teixeiraに師事。ボサノヴァ、サンバ、ショーロなどのブラジル音楽に傾倒する。'05年、ギブソン・ジャズギター・コンテスト最優秀ギタリスト賞受賞。関西から東京に拠点を移し、現在は自己のグループや様々なセッション、レコーディング、講師活動など幅広く活躍している。

時安吉宏さん (Bass)
1978年兵庫県生まれ。大阪音楽大学ジャズ科卒業。高校時代にジャズバンド部でウッドベースを手にする。音大在学中よりライブ活動を開始。京阪神を中心に、最近では全国的に活躍中。ジャズのみならず、ポップスやゴスペルなどのサポート、また有線やCD作品、DVDなどの参加も多数。それ以外にも現代美術との競演など、オリジナリティーあふれるその活動は多岐に渡る。国内外の有名ミュージシャンとの競演も多数。確かなテクニックと独自のセンスでさまざまなアーティストのライブを支えるジャズべーシスト。

佐藤英宜さん (Drums)
大阪生まれ。高校時代にコミックバンド“キューピー”(後のシャ乱Q)を結成。第32回ヤマハポプコン大会にてジュニアグランプリを受賞。その後に解散。パンクバンドやラテンバンドなど、あらゆるバンドのドラマーとして活動するが、都合によりドラムをやめる。23歳の時、ジャズに魅せられ再びドラムを始め 上山崎 初美(B)クァルテットに参加し、プロ活動に入る。大阪音楽大学にて、ピアニスト ハンク・ジョーンズとセッション、その他、宗清 洋(Tb)、田中 武久(P)、タイガー 大越(Tp)、マルタ(Sax)など、あらゆるミュージシャンとセッションをする。現在大阪、神戸を中心に活動中の若手ドラマー。

鈴木孝紀さん (Clarinet)
1977年、大阪生。2000年、大阪音楽大学音楽学部クラリネット専攻卒業。クラリネットを、武田仁、本田耕一の各氏に、Jazzを土岐英史氏に師事。大学卒業後すぐにプロ活動を始め、クラシック奏者として、数々のコンサート、新人演奏会等に出演。2002年頃より、クラシックの演奏を行う傍ら、ジャズミュージシャンである家族の影響を受けてJazzに傾倒、演奏活動を開始する。2006年には、民族音楽とジャズ、室内楽を融合させたユニークなユニット「トラヴェルセ」に参加し、アルバム「バルカン・サンバ」をリリース。現在、あらゆるミュージシャンとの共演を重ね、様々なレコーディングにも参加する等、精力的に活動している。