スタジオfの録音レポート

Satsuki Nakagawa

中川さつき

no.12

ボーカルクイーン富士通テン賞受賞の
中川さつきさんのファーストアルバム。

昨年2011年の神戸ジャズボーカルクイーンコンテストでの富士通テン賞受賞を機に、制作される運びとなった中川さつきさんのファーストアルバム「Live in Unity」。レコーディングメンバーはコンテストの決勝ステージと同じ顔ぶれということもあり、録音当日は中川さんへの受賞のお祝い演奏会に駆けつけたような和やかなムードで始まりました。
「今回のお話をいただいたときが大震災の直後でした。なので、気持ちが前向きになるようなアルバムにしたかったのが一番の想いでした。選曲も悲しい気持ちになる曲は今回はあえて入れず、気持ちが明るくなれるアルバムというのをテーマにしました」とのこと。そんなテーマのもと、アルバム制作も終始ハッピーな空気で進行していきました。


さりげない心配りが空気感を作る、明るく楽しいレコーディング。

中川さんにとって、本格的なレコーディングは今回が初めて。「自分では意識していなかったのですが緊張が歌に出ていたみたいです。それが解除されて、スイッチが入る瞬間みたいなものがあるらしく、いつもメンバーの誰かが弱りだしたときに私の本領が出るのだそうです。私の良いテイクは、誰かが何回もミステイクを連発した後とか(笑)」と中川さん。その言葉通り、エンジニアブースでは素晴らしい歌声が聴けると、「お、スイッチが入った!」と話していました。結果的に、バンドメンバーは関西を代表するプレイヤーばかりの中で、堂々と明るく生き生きとした中川さんの歌声がとても映えるアルバムが生まれました。
また、レコーディング中に見せるメンバーの皆さんの心配りの細かさも印象的で、「どうすれば演奏しやすいか」「歌いやすいか」「バランスよく聞こえるか」とそれぞれの立場で気づかい合い、そのさりげない気配りが音楽に反映されています。

ミックス終了後、レコーディングの感想を聞いてみました。

中川さつきさん
マスタリング後に聴いてみて思ったのがサウンドが大人だということ。本当にこのメンバーじゃないとこのサウンドは出せなかったと思います。自分たちの演奏に、エンジニアさんの息が吹き込まれることによってそれがもっと素敵になる。またライブとは違う素晴らしさだなあと思いました。
「みんな猫になりたいのさ」は猫が演奏するシーンのイメージでお願いしました。ちょっとデキシーっぽい古い感じで猫の演奏会みたいなイメージとメンバーに伝えると、まさにイメージどおりのかっこいい古いサウンドになっていて、里村さんのソプラノサックスが本当に猫が鳴いているようでかっこいいんです!そういうところも聴いていただきたいです。

万波幸治さん(レコーディングエンジニア)

録音時のヘッドホン越しでのコミュニケーションや隔離された各ブースは演奏者にとって緊張を生んでしまいがちです。その嫌な緊張感を、メンバー全員で最初に吹き飛ばしたことが成功でしたね。ミュージシャンのパフォーマンスを十二分に発揮してもらわないといけないなかで、今回の環境、セッティングはパーフェクトだったと思います。
そのような素晴らしい現場でしたが、我々エンジニアサイドとしては緊張の連続でした。通常なら、録音する曲をリハーサルの後、数テイク録音していき、そのなかでベストなマイクの位置や音作りを試行錯誤していくのですが、今回の録音では1テイク目でOKとなることも珍しくありませんでした。そうすると、エンジニアの経験則から判断して、最初から可能な限りベストな形で録音しなくてはなりません。ミュージシャンが納得のテイクを一発で叩き出すのですから、こちらもそれに付いていく覚悟が必要でした。
ベストな環境でのミュージシャンのパフォーマンスを詰め込めた今回のアルバムは、ステージとはまた違った感動を味わえる仕上がりになったと思います。

コンセプトどおりの暖かいアルバム、
中川さつきさん「Live in Unity」

明るく前向きな気持ちになれるようにというコンセプトから作られた中川さつきさんのファーストアルバム「Live in Unity」。題名には支え合いながら生きるという意味があるそうです。「この『Live』は生演奏のライヴという単語でもあるので、いろんな楽器が融合しあって素敵なサウンドを創り出すというもう一つの意味も含まれているんです。私の中では自分が考えたのではなく、このタイトルを授かったようなそんな気持ちでいます」と話してくれた中川さん。
その題名にあるとおり、アルバムに収録されたどの曲も聴いていると明るく暖かい気持ちにさせてくれます。

Album Information

Live in Unity/中川さつき

2011年神戸ジャズボーカルクイーンコンテストで富士通テン賞を受賞した中川さつきのファーストアルバム。題名どおり、ぬくもり溢れる明るい気分になれる一枚。全10曲。

Member Information

中川さつきさん (Vocal)
2001年ブラックミュージックに目覚め、ソウルレッスンを受け始める。2002年NYに滞在中 ゴスペルシンガーリチャードハードリー氏のレッスンと地元教会でのゴスペルクワイヤーの経験をする。2003年東京ボブマ-リ ソングスコンテスト3位入賞。2004年ジャズヴォーカルの基礎を小柳淳子氏 溝口恵美子氏、理論 箕輪祐之に師事。ピアノを大野綾子氏に学ぶ。中村剛司氏のボイストレーニングを受けフリーブレス、スピーチレベルでの発声法を習得。現在、ピアノ奏法、ボーカライジングをPhillip Strange氏に師事。2011年 第12回神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテストにて富士通テン賞受賞。
http://satsukingooo.main.jp/
・ジャズとの出会いから将来の夢までを語っていただいたインタビューはこちら
・中川さつきさんが富士通テン賞を受賞した、
 「神戸ジャズヴォーカルクイーンコンテスト」のレポートはこちら

安次嶺悟さん (Piano)
昭和32年9月4日生まれ。岐阜県出身。大学時代にアレンジを勉強するためにピアノを始めて、そのままピアニストとして、プロになる。1985年に、渡米。NYにて修行。帰国後、Real.Music.Studioを設立。作曲・編曲・ピアニス ト・シンセサイザー・音楽講師・コンピューターDTMなど。大阪音楽短期大学教員。2005年第42回 なにわ芸術祭 ジャズ部門 (第13回中山正治ジャズ大賞)受賞。2009年12月に初リーダーアルバム「For Lovers」を発表。現大阪音楽短期大学講師、大阪芸術大学講師、大阪芸術短期大学講師

東敏之さん (Drums)
1963年2月5日大阪府生まれ。22歳でプロ入りし、京阪神の様々なグループで演奏を行う。ピアニスト田村翼氏とともに六本木の老舗ライブハウス「アフターシックス」にレギュラー出演。1991年ヴァイブ奏者の大井貴司氏のバンド「スーパーバイブレーション」で全国ツアーやCD制作、TVやラジオ出演を経験。1994年大阪に戻り、京阪神での活動再開。現在は自己のカルテットの他、高橋俊男トリオ等に在籍。大阪音楽大学・音楽専攻科講師。2004年度第41回なにわ芸術祭第12回中山正治ジャズ大賞、新進音楽家新人賞、大阪府知事賞、大阪市長賞を受賞。

須崎健二さん (Bass)
1954年福岡県生まれ。幼少期はクラシックギターに親しみ、関西大学在学中ジャズベースの虜となり、ジャズベーシスト西山満氏に師事。大阪センチュリー交響楽団坂倉健氏に師事、西山満氏の経営するJAZZ喫茶SUBで4年間働き修行し、その後24歳でプロデビュー。東原力哉、猪俣猛、足立衛&アゼリアジャズオーケストラなどのグループに参加し、現在関西各地のジャズライブハウス、ホテル、録音スタジオで活躍中。
http://suzakikenji.blog70.fc2.com/

里村稔さん (Sax)
12歳頃に兄弟の影響でアルトサックスを始める。 大学に進学し、テナーに転向。独学でジャズを学ぶ。主にビッグバンドで活動。その後コンボの活動に力を入れはじめ、関西のライブハウスを中心に様々なジャンルで活躍。98年には大阪のグローバルジャズオーケストラとアメリカ西海岸のモンタレージャズフェスに参加。フュージョンユニットBLACK CANDY参加時には韓国ツアーを年2回行ったりと活動の場を海外にもひろげている。現在、古谷充ネイバーフッドビッグバンド、MSJQなどに参加。関西中心に様々なプレイスタイルで活躍している。