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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.77
さりげなく

スローペースで北野坂へ、2013年の街の歌を聴け。
@神戸・中山手通

さて今回、ジャズ探としてはちょっとひさしぶりの神戸。
でもしばらく見ない間にもう風景が変わっていたりして、この街の変化は最近とくに早いような気がする。新しい街の展開はさておき、今日訪ねるのは昔からあまり変わらない方の街の消息である。
『さりげなく』。ジャズ探訪記でもめずらしい、ひらがな名前のお店だ。

現在の北野坂に移転してもうすでに28年。移転前の旧店舗にはジャズ好きとしても知られる、あの村上春樹も足しげく通ったというお店なのだ。
三宮から坂道を北へ、ほんの数分歩くだけでもう着いてしまうというバツグンの立地。ちょっと残念なのは路面店でない(といっても2階なんだけど)ことで、探すときには看板を見落とさないよう歩かなければいけない。そう、あまりにもさりげなくあるお店だからだ。

現オーナーの冨山さんが前オーナーからこのお店をひきついで、すでに32年。
昔はバンドもやっていたという冨山さんは、甲陽音楽院の方ともお友達だそうで、スクールコンサートの司会をしたこともあるという音楽好き・ジャズ好きなのである。でも決して趣味を押し付けず、坦々といい音楽とおいしいお酒、居心地のいい空間を作り続けている人…という印象だ。
そんなお人柄を映しているかのように、スピーカーから流れる音もとてもやさしく、暖かい。

「今は吸う人も少なくなりましたねえ」といいながらも所々にはガラスの灰皿が。
きっといろんな人が、ここでジャズを聴きながらいろんな会話をし、いろんなことを考えたのだろう。
そういえば、ジャズ喫茶とか、ライブではないジャズを楽しむ店、レコードを聴かせてくれるお店って、ある一味「物思いにふける」空間だったのでは?…、そんなことをふと思った。。若き日の村上春樹も、ジャズを聴きながらいろんなことを考え、また思索にふけったことだろう。その積み重ねが、彼の文学を作る礎ともなったのだろう(彼の作品が、神戸の街にとても似合うような気がするのは僕だけだろうか?)。

広い、とはいえないまでも狭さは感じない。
茶色のカウンター、やや黄ばんだ漆喰の壁…とくれば、薄暗い印象があるかもしれないけど、カウンター奥の大きな窓からいま見えるのは、にぎやかな街の夜の灯りだ。

「さりげなく」という穏やかな名前は、前オーナーが好きだったアニタ・オデイのある曲の雰囲気に倣っているらしい。
ジャズだからって気負うことなく、老舗だからって緊張しないで。 いつだってさりげなく通ってほしいお店だ。