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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.74
ジャズ喫茶 M&M

若き店主のノンポリ・リズム
@神戸・元町

神戸元町。観光スポットとしても人気の高い南京町にもほど近いこの辺りだが、意外にも静かで落ち着いた街なのである。観光客がいかに限られたエリアにしか行かないかという見本のようなものなのだが、今回の本題はそういうことではない。

今を去ること5年近く前、2008年に我らが「ジャズ探」取材チームはこの店を訪れているのである。
ビルの2階にあるこのお店の中がとても静かで落ち着ける空間であることに驚いたものだった。その後、ごく近くまで行きながら立ち寄れないでいたのだった。
ところがつい最近、「エムエムが再開したらしい」という噂が僕の耳にも聞えてきたのである。
再開?
ってことは閉まってたの?
そんなことすら知らなかったのだ。何度も神戸を訪ねていながら。

事情がよくわからないままに再びこのお店を紹介することとなり、古びた階段を昇って行くと、入り口のドアのロゴも懐かしい。ビルの中とは思えない、あの天井が見えてくる。

迎えてくれたのはM&Mの新しい店主、桶口優さんである。
若い!
聞けばまだ31歳なのだとか。店主というより、どうかするとアルバイトスタッフに見えてしまうくらいの若さだ。
我々取材チームがここを訪ねたのが2008年の2月。その後も変わりなくお店は開いていたのだが、前オーナー池之上さんが今年6月に急逝。後を引き継ぐ人もなく、お店は閉まったままだったらしい。そこで立ち上がったのが桶口さんなのである。
桶口さん自身このお店の常連で、週に何度も足を運び、ジャズを聴き、池之上ママと話をしていくのが楽しみだったのだそうだ。それだけにママの急逝と閉店はとても残念だったらしい。
閉店を知らせるポスターにも、「早く再開してくれよ」なんていうジャズファン・M&Mファンのメッセージがたくさん残されていた。
「将来はこんなお店を持てたらいいなあ」とずっと思っていて、計画をあれこれ練っていたという桶口さん、立ち上がってからは早かった。
そう、こういうときって、不思議な縁とか出会いがあるモンなんですよね。池之上ママのご家族とも、なんとも意外な形で出会っていたということだ。それからトントン拍子に話が進み、なんと閉店から4ヶ月ほどでM&Mは再びその扉を開けることになったのである。新聞でもこのことが紹介されたとの事、再開を待ち望んでいたファンの多くがどれほど喜んだことかは想像に難くない。

ところで新生M&M。 カテゴリーとすれば「ジャズ喫茶」なのだけど、ここはあえて、敬意をこめて「ジャズカフェ」と呼びたい。多くの若い人たちがイメージする(つまり、直接には知らない)ジャズ喫茶とは大きく違うのだ。清潔で明るく、難しい顔をしてジャズを聴いてる人なんていないのだ。桶口さん自身もかなりなジャズファンには違いないのだけど、いわゆる「こだわり」がないようなのだ。好きな人が好きなように聴けばええんちゃう?という感じ。
(…しかしアレですね、『ジャズファン=こだわりの人』みたいな図式が僕らの中にいまだにあるわけですねえ、こうして書いてるってことは)
そして、「気軽にジャズに触れて楽しんで、その魅力を知ってもらえれば、うれしいですねえ。まずそれが第一です」とおっしゃる。池之上ママが作った店と雰囲気を大切にしていることはまちがいないけど、たくさんのLPレコードやオーディオも「こだわって使ってる」というよりは「いいものがちゃんと残ってるんだからたいせつに使おう」という気持ちが感じられるのだ。その気持ちに妙なバイアスがかかってないのがとても好ましい。いや、かかっているのはむしろ硬派なジャズだったりもするのだけど、ここでそれを聴くのはとても平明な、自然なことのように思える。ここで聴いているうちにいい曲や好きなフレーズに出会うと、つい笑顔になってしまうような感じなのだ。「ジャズっていいよねえ」と。

営業時間も含め、まだまだ模索中のことも多いという桶口さん。
その桶口さんのジャズ以外のおすすめは、「ギネスカレー」である。
ギネスビールで煮込んだというそのカレーは1日に10食ほどしか出せないらしいのだけど、いやあこれは食べてみたい。そして我々取材チームがちょっと驚いたのは、コーヒーがおいしいことである。
「そんなのアタリマエ」などと言うなかれ。コーヒーにしろ紅茶にしろ、ホントにおいしいところは意外なほど少ないんです。

神戸の街の窓に、しばらく消えていた明かりが再び灯った。
それが僕たちの胸を、なんと明るく照らしてくれることだろう。取材を終え、あれこれ書きたいことはたくさんあるんだけど…、ホントはたったひとこと書けばいいのだ。
「一度行きたまえ」と。