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ジャズピープル

貪欲な創造力が、新たな世界を切り開く

待望の初リーダーアルバム「Awareness」が発売されるやいなや、各方面で話題沸騰中、先日のアルバムリリースツアーも盛況に終わった名古屋で活躍中のピアニスト、渡辺翔太さん。現在日本のジャズシーンの最注目ピアニストの一人である渡辺さんにリリースツアーのお忙しい最中にお時間頂き、アルバムの事はもちろん、これまでのキャリアや今後の活動などについて話していただきました。

インタビュー・文 小島良太(ジャズライター/ジャズフリーペーパーVOYAGE編集長)
インタビュー撮影 荒川翔太
Live Photo by Kiyoshi Haraguchi

person

渡辺翔太

1988年2月29日名古屋出身。
4歳からピアノを始める。父、渡辺のりおの影響で音楽に慣れ親しむ。
15歳の頃にJAZZに興味を示し、2003年Donny Schwekendiek氏に師事。2004年から演奏活動を始める。2005年Jazz Funkバンド『赤門』に加入。2009年からjazzに傾倒し、浜崎航、椿田薫、noon、金澤英明のツアーに参加。2010年、noonの「Once upon the summer time」のRecordingに参加。2016年から井上銘Stereo Champに在籍。「Stereo champ」に参加。ものんくる「世界はここにしかないって上手に言って」に参加。
2018年、自身初のリーダーアルバム「Awareness」を発表。現在、自身のtrioや様々なアーティストのサポートで東京、名古屋を中心に全国で幅広く活動中。

interview

“現場叩き上げ”で養った自由な音楽観

── ギタリストであるお父様の影響は大きかったのではないでしょうか?

渡辺「子供の頃からピアノには触れていましたが、本格的にジャズの世界に入ったのは、父(ジャズギタリストの渡辺のりおさん)の付き人をするようになったのがキッカケでした。また手伝いに行ったライブで「お前も弾いてみろ」と言われて、父の難しいオリジナルを初見で弾く機会をもらう事もあって。ある意味スパルタですね(笑)。ただ父もいじめているわけではなくて、私もそれに応えて、「よしやってやるぞ!」とやる気になりましたね。」

── ピアノをダニー・シュエッケンディックさんに師事されたんですよね?

渡辺「父の付き人をしている同時期に父ともよく共演していたピアニストのダニー・シュエッケンディックさんに弟子入りして3年ほどレッスンを受けました。コードも知らない状態で一から教えてもらいました。しかも教本に載っているようなものではなくて、現場でピアニストがよく使うコードの押さえ方、またダニーさんのテイストが入ったボイシングを教えてもらいました。例えばCメジャーセブンスをドミソシではなくて、ミソシレだと思っていましたから。こうだから!と言われて、そういうモノなのだと思っていました(笑)。だから初めは演奏がダニーさんにとても似ていて「ちびダニー」と呼ばれていました(笑)。また、彼の演奏だけでなく、ライブにおける音楽に対する姿勢にも感銘を受けました。 父の付き人と並行してダニーさんの付き人もしていて、彼のライブでジャズのスタンダード曲に触れ、インプロヴィゼーションの方法、人と人との心のやり取りに感銘を受けました。常にオープンマインドで何をやってもOK、可能性を拡げるアプローチが出来る事、それこそがジャズだという事を教えてくれたのはダニーさんですね。基礎を学ぶのはもちろん大事ですが、それを学んだ上で自分をどうアウトプットするかというのが大事だなぁと最近よく思うのですが、常にクリエイティブな心持ちというのもダニーさんから教わりました。彼からの影響は計り知れません。そのレッスンを経て、ハービー・ハンコックやマッコイ・タイナーやブラッド・メルドーなどを聴いて色々な音の魅力に気づき始めて、徐々に独学に移っていきました。」

ストリートの演奏から、さらに広がった世界

── 本格的にジャズシーンへ入るキッカケは?

渡辺「名古屋で「赤門」というファンクバンドを7年ほどしていました。その時にストリートでもよく演奏していました。チラシも自分達で書いて、とにかく僕らの音楽を色々な人に聴いてほしかった。そこにたまたま通りかかったジャズピアニストの水野修平さんがこんなピアニストがいるぞ!って、名古屋のジャズ界隈に私の名前を広めてくれて。そこからベーシストの徳田智史さんから、サックスの小濱安浩さん主催のセッション(「若者&そこそこ若者セッション」)に誘っていただいて。そのセッションにはピアノの宮川純さん、ドラムの鈴木宏紀さん、サックスの加納奈実さん達がいて、同世代にこんなに凄い人たちがいるのかと驚き、そして大いに刺激になりました。あと、名古屋ってトラディショナルなスタイルのジャズが根付いている歴史もあれば、ファンクなどの他のジャンルとの交流も自然と行われていて。そういった環境がジャズとそれ以外の音楽を自由に行き来できる感覚を身につけてくれたのかもしれません。まさに“現場叩き上げ”で身についていきましたね(笑)。」

ニューヨークで受けた衝撃

── 演奏だけでなく、ライブもよく聴きに行かれたそうですが、その中で印象に残っている事はありますか?

渡辺「21歳から、ずっとインプットに集中する時期がありました。今でもインプットはもちろんしていますし、これからも終わる事はないと思いますが、以前は今よりもそれに集中する時期が長くありました。その中でもニューヨークのジャズサウンドに特に憧れがあって。実際2回現地に行って聴いてきました。大好きなエドワード・サイモンやブラッド・メルドー、アーロン・パークスがリアルタイムでライブをしている場ですからね。そんな彼らが20ドルぐらいでライブをしているのにカルチャーショックを受けて…。僕らと同じ値段で凄まじいクオリティの演奏をしているのが衝撃でした。それが、「このままじゃいかん!」と更に高いレベルを目指す、奮起するキッカケにもなりましたね。」

若井俊也さん、石若駿さんとのトリオ結成

── 今回のアルバムのトリオ結成の経緯を教えてください

渡辺「2年程前に、石若駿君と若井俊也君が名古屋のスターアイズに出演する時に僕に声をかけてくれたのがそもそもの始まりなんです。先日、ライブの打ち上げの時にこのトリオでライブで何回演奏しているか数えてみたら、まだ10回もしてないねって(笑)。」

── 10回もライブしてないのにレコーディングまで!?

渡辺「そうなんです(笑)。でも1回のライブでの“のびしろ”がすごくて。個々の技量、自由にお互いを受け入れる柔軟な所もあると思うんですけど。それぞれがやりたい音楽にフィットして、なおかつ自我も出せて。3回目か4回目のライブの時に駿君が「これ録った方が良いですよ」と言ってくれて。彼は深く考えて言ってなかったかもだけど(笑)、世界を股にかけて活躍している彼のその言葉がすごい自信につながって。私自身も実際ライブ録音を聴いていても今までにない手応えを感じたし、実際の演奏中も浮遊しているような感覚があって。いい意味で無心になれる、それが出来ているバンドだなって思います。」

── このメンバーだからこそ、っていうのもあるでしょうね。

渡辺「以前は自分の技量を上げることに必死だったんですけど、今はそこから解放されてお互いの今起きている事のアプローチをリアルタイムにキャッチして、アウトプットをオープンにして、その場でしかできない事を楽しめるようになってきたかなと思います。」

ジャズ以外からの影響

── ジャズ以外から影響を受けた音楽はありますか?

渡辺「昔から好きなのはジェームス・テイラーですね。感情を持っていかれるというか。赤門で一緒に演奏していたギタリストの小川翔君のおススメでオールマンブラザーズバンドやジミヘンも聴いていましたね。サム・クックやオーティス・レディングも聴いていました。ソウルやブルースからは一音にすべてをかける、魂を込めるっていう部分を教えられましたブルースのすごいミュージシャンは“ド”しか弾いてないのに格好良いですもんね。」

── アルバムのボーカルナンバーがとても印象に残りました。

渡辺「アルバムのボーカルナンバーを日本語詞にしたのは、以前から日本語で作ってみたいというのがあって。せっかく自分達の言葉があるのだから、想いをリアルタイムで伝えやすいですし。 「キリンジ」が昔から大好きで、最近は「大橋トリオ」もよく聴きますね。「大橋トリオ」はもう本当に大好きです!それと「はっぴいえんど」にもずっと感銘を受けていて。「はっぴいえんど」は声と歌詞のバランス、景色感がうまいなぁと。“青い”という言葉には“青い”サウンドがとても良くハマっていて。今回のアルバムに収録されている“かなめ”や“Color of Numbers”はそういったイメージを持って作った曲なんです。あと歌と演奏は別物、ではなくて互いが音楽を作っていく事をしていきたいですし、 そういう意味では吉田沙良さんに是非歌ってほしくて。吉田沙良さんは音楽を表現したい、という強い意志があって。歌詞がなくてもハミングでサウンドするし。だから彼女と共に音楽を作っていくのはとても楽しかったですね。どうやったら曲と日本語がハマるか、色々試行錯誤をしていますし、沙良さんともそこはよく話し合いました。曲先行なのに歌詞の重みも乗せて聴かせる沙良さんの素晴らしさにビビりましたね(笑)。」

今後してみたい事

── 今後の展望を教えてください。

渡辺「今回のアルバムはやりたい事(コンテンポラリージャズ、フリージャズ、トラディショナル、日本語の歌など)が多くて、それを全て詰め込んだ形になったのですが、次に作品を発表する際は一つ一つの事柄を深く掘り下げたアルバム、曲作りをしたいですね。例えば、超高速の変拍子なのに、その上でゆったり自由にアンサンブルするとか。このトリオ(若井俊也さん、石若駿さん)だからこそできるかな、っていうものですが(笑)。今のトリオに、ギターなど他の楽器を加えた編成も考えています。ギターは特にチョーキングの音が好きだし、父の影響もあるのか、頭の中のサウンドにはギターの音がけっこう鳴っているんですよ。他にはソロ演奏を少なくして、もっと曲を聴かせる、という作品も発表したいですね。あと今年の目標は、ジャズスタンダードと同じコード進行で自分の曲、いわゆる替え歌っていうイメージで作りたいです。ちなみにそれは今年のお正月に決めた目標です(笑)。」

<インタビューを終えて>
ピアノの類まれなる技量はもちろんの事、その幅広い音楽性が魅力の渡辺さん。ジャズを中心にして、あらゆる音楽の融合を自然な形で、しかもハイクオリティで創造していく彼の活躍はまだまだ始まったばかり。きっとまた、刺激的な唯一無二のサウンドを我々の耳に届けてくれる事でしょう。その世界をライブで体験し、心を奪われた人間がココにいます(筆者です笑)!

information

[ Live Information ]

渡辺翔太ライブ情報
■8月1日 (水)
渡辺翔太(p,keys)Group
清水行人(g)
島田剛(b)
橋本現輝(ds)
名古屋Swing
http://www.jazzspotswing.sakura.ne.jp/
OPEN 18:00 START 19:30
Music Charge 3,000円

■8月18日 (土)
渡辺翔太Trio「Awareness」リリースライブ
渡辺翔太(p)
若井俊也(b)
石若駿(ds)
高田馬場Cotton Club
http://tb.cafecottonclub.com/
OPEN 19:00 START 20:00
Music Charge 3,000円



[ Release ]

渡辺翔太「Awareness」
[内容紹介]
新世代のジャズシーンを牽引する、ものんくる、井上銘らが厚い信頼を寄せ、イスラエル、NY の現在進行形 Jazz と並立走行するピアニスト渡辺翔太 待望のリーダーアルバム完成! ファースト・アルバムにして緻密に構築された執念の全オリジナル曲と、好奇心溢れる繊細かつ優美なソロは圧巻! 光と闇を往き来する潜在意識がついに解放される!

[musicians]
渡辺翔太(P/Keys)
若井俊也(B)
石若駿(Ds)
吉田沙良(Vo) ※M4,7

[収録楽曲]
01.North Bird(7:14)
02.Ants Love Juice(7:59)
03.Aruku(6:07)
04.かなめ(7:24)
05. Saga of Little Bear(6:48)
06. Sign(6:45)
07. Color of Numbers(6:33)
08. Goodbye and Hello(4:35)

All Songs Written by Shota Watanabe Lyric Written by Sara Yoshida(M4,7)