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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.149
Sweet Rain

喫茶+ライブで、ジャズの「今」を聴く
@東京・中野

中野といえば都会的な魅力と庶民的な良さを併せ持つ独特の街だ。古くから『中野サンプラザ』や『中野ブロードウエイ』など有名な大型複合施設がある一方、生活感あふれる商店街も健在、近年では漫画・アニメ・ゲームといったサブカルチャーの聖地としても知られている。また大手企業の進出や大学のキャンパス誘致、駅前再開発が続き、その変貌ぶりは日々加速されているようだ。
本日ご紹介する『Sweet Rain』は、アーケード街から少し入った通りのビルの地下にある。狭い間口の階段を下り奥のドアを開けると、いかにもジャズ喫茶らしく、入り口付近に大量のレコードやCDがびっちりと並んでいる。目を引くのは、テーブルと椅子が正面に並ぶJBLとピアノに向けてセットされている“ライブ仕様”なこと。すっきりした店内は、キレイで居心地がよさそう。
「開店当初は、月に1度程度だったライブが、出演するミュージシャンが増えるにつれ週1から週3となり、とうとう定休日を除いて毎日やるようになったんです」とオーナーの勅使河原淳子(てしがはらあつこ)さん。
勅使河原さんがお店をオープンさせたのは2009年。
勅使河原さんは、幼い頃は兄の影響でジャズやソウルなど洋楽に親しみ、高校時代から“軽音楽同好会”で、プログレからフュージョン、現代音楽に至るまでジャンルを問わずさまざまな音楽を聴いた。ジャズ喫茶で働いた後、自分の店を持つまでに至るが、その後一般企業へ転職。子育てや親の介護が一段落し、自分の将来を考えた時に、「今ここでお店を始めなかったら、後で後悔しそうな気がしたので。思い切ってオープンしました」。

中野はもともと生まれ育った場所。ジャズ喫茶が多い地域だったが、現在はほとんどが閉店しているという。勅使河原さんがかつて通っていたジャズバーの友人たちは今は『Sweet Rain』の常連さんでもある。
「ここでのライブに出たいと言ってくださるプロの方には、基本的にみなさんに出演していただいています。おかげさまでブッキングは年末までいっぱい。ジャズ喫茶としてのこだわりは、新譜は必ず買うこと。ジャズは日々動いていて過去のものではないと思うので。ライブ終了後にCDを聴きに来店するお客様もいらっしゃいますが、リクエストがない限り、新しいものしかかけないんですよ」。
ちなみに勅使河原さんの、今のお気にいりのアルバムをいくつか紹介して頂いた。
『Temporary Kings』マーク・ターナー(ts)+イーサン・イヴァーソン(p)、『TRILOGY 2』チック・コリア・トリオ、『Epistrophy』ビル・フリゼール(g)+トーマス・モーガン(b)、『森の声』加藤崇之(g)、『空の花』池田千夏(p)と、確かにいろんなタイプが…。どれもじっくり、聴いてみたいなあ。
ここで日々新譜を聴き、ライブに出演するミュージシャンの生の音楽に接して、ジャズの現在や将来をどのように感じていらっしゃるんでしょうか、とズバリうかがってみた。

「今の日本のジャズにとても可能性を感じています。特に若い人たちは、技術レベルが高いだけでなく、オリジナリティがあります。誰かの影響を受けたとしても、あっという間に吸収・昇華して自分の音にする。その成長のスピードも速いんですね。そして演奏を観ていると、とても自由。互いの音楽が見えているから、決まりごとをつくらなくても自然なやりとりで輪を広げ、つながっていくことができるんですよ」と勅使河原さん。そしてこう続けた。
「そんな才能ある彼らがせっかくメジャーデビューしても、すぐ契約を解消するケースもあると聞きます。その音楽を従来の方法に当てはめて制作するレコード会社にも責任はあるかもしれませんが、“ジャズとはこうあるべき”という固定観念を破るリスナーが育っていない、ということかもしれません。SNSなどで古いアルバムばかり紹介されているページを見ると、今の、目の前の音楽にもっと向きあってほしいなあと思います。でないと新しい世界を真摯に切り拓こうとする若い世代に失礼なのでは」。
うーん、ホント、おっしゃるとおり。半世紀前の音楽だけを偏愛してちゃあ、イカン。前に進もう!
てなわけで後日、もう一度『Sweet Rain』へ。本日のライブは佐瀬悠輔(Tp)小金丸 慧(G)海堀弘太(P)秋元 修(Ds)新井和輝(B)という新進気鋭のクインテット。ワクワクしながらお店へ向かうと……。うわぁ、人がいっぱい並んでいる!しまった、予約してなかった。順番待ちの若いキレイなお姉さんによれば、待っている人は立ち見で入れるかどうか、なんだとか。今日はだめかぁ……。
でも、これはまぎれもなく若いリスナーが育って、ファンが増えている証拠。ライブは聴けなかったけど、なにか嬉しい、清々しい気持ちでさっき下ったばかりの階段を、地上へと向かって引き返した。