クリスのワッツ・ジャズ? クリスのワッツ・ジャズ? インデックスへ
クリスのワッツ・ジャズ?
VOL.5  誰がためにジャズは鳴る…観客向けの音楽からミュージシャン中心の音楽へ


ビッグバンドからモダンジャズへ、音楽のスタイルの変化に平行して、楽器編成も大きく変わりました。今回の講義は、その辺りの消息から…。

モダンジャズはここで生まれた…といっていいくらいのハーレムのMINTON'S PLAYHOUSE。夜な夜なここに集まってくるミュージシャンは、ほとんどがビッグバンドの演奏にタイクツしていたわけですね。当時のビッグバンドは、メンバーが16人とか17人もいるような大所帯が中心でした。ピアノにドラム、サックスにトランペット、さまざまな楽器のミュージシャンがひとつの曲を演奏するには細密な譜面(総譜)がどうしても必要だった。でも、毎回毎回、同じ譜面を演奏するのはイヤになっちゃいますよねえ。


そうですねえ、僕だっていつもいつも同じ絵を描かなきゃいけないとなったらメッチャタイクツだし、自分のやってることの意味がわかんなくなっちゃうと思います。


でしょう? それにビッグバンドは商業主義に向かった部分もあります。メンバーが多いと、そのぶん維持もタイヘンですからね、その事情もよくわかりますよね。でも、たとえば、スタン・ゲッツみたいな人がビッグバンドで毎日毎日同じ譜面で演奏しなきゃいけないとなったら、そりゃタイクツしますよね。で、それぞれの楽器を持ってセッションに出かけていったんです。でも、当然、オーケストラのシステムなんかないわけで。ある時はトリオ、またある時はクインテット、たまたまそこにいて、演奏に参加した人数で楽器編成とか、バンドそのものが変わってしまうんですね(笑)。そして、ミュージシャン一人一人がリーダーに、スターになろうとするんです。


同時に、だんだん芸術的な音楽になってくるわけですね。しかしまあずいぶん自由というかルーズというか(笑)


-ここで生徒砂原の自由研究1-
ビッグバンドに在籍していた個性的なミュージシャンの不満はかなりたまっていたみたいです。映画『ブルース・ブラザーズ』にも出演していたキャブ・キャロウェイ。彼は自身のバンドでボーカルもしていたわけですが、めだちたがりというか、関西弁でいうところの「イチビリ」のディジー・ガレスピーと何度も衝突していたらしいんですね。まあ「集団のルールを乱す」という感じだったんでしょうか。そんな鬱屈がきっとあったんでしょう、バンドのメンバーのイタズラがきっかけになって、キャブ・キャロウェイの背中にディジー・ガレスピーがナイフで切りつけるなんていう事件も起こってしまいました。


そうなんですねー。でも、それが、新しいスタイルのジャズが生まれるためのゆりかごになったんです。
ミュージシャン同士のセンスや音楽理論、もちろんいろんな情報のやりとり。自分の音楽を自由に演奏して、同時に練習もできる(笑)。ある時はドラムにピアノとトランペット、別の時にはベースとサックスが加わるけどトランペットは抜ける…みたいに、少人数、多くても6人くらいの編成になっていきました。ミュージシャンだけでなく、ビッグバンドの音楽に飽きた観客も、そんなジャムセッションを聴きに集まってくるようになってきたんですね。タイムズ・スクエアの回りにも、新しいジャズ、ビバップを聴かせるクラブがぽつぽつできてきました。『バードランド』とかね。


そうしてモダンジャズはどんどん進化していく、と。

この間、おもしろい写真を見たんですよ。当時の、あるジャズクラブの写真なんですが、ステージと客席の間に柵みたいなのがあって、そこに『このクラブでは踊るな!』って書いてあるんです(笑)。完全に『鑑賞する音楽になった』ということでしょうね。リズムはもちろん、コード進行やコードそのものも変化していきます。即興が基本ですから、ソロの部分も決まっていないでしょう? その結果、ソロもどんどん長くなったりするんです。こんなエピソードがありますよ。
ある時、マイルス・デイヴィスはダブル・ブッキングをしちゃったんです。もちろんうっかりでね。でも、なんとかかけもちをして演奏しようとしたんですね。最初のクラブで演奏して、共演してたジョン・コルトレーンへソロを回して大急ぎで次のクラブへ移動して演奏。なんとか二つのクラブで演奏を済ませ、やれやれ…、と最初のクラブに戻ってきたらまだジョン・コルトレーンがソロをやってる(笑)!!


ーひえー(笑)!

ひとりで30分以上ソロをやってたらしい、そんな伝説も生まれました。小編成の、アレンジを必要としない自由なスタイルならではのエピソードですよね。まあそんなふうな楽器編成になったのは、ミュージシャンの個人主義と後はギャラの問題ですね(笑)。決まったギャラを割るとすれば、分母が小さい方がいいわけで。でも結果的に、そんな事情がジャズの自由度を高めていったということはありますね。


たしかにビッグバンドでそれはできません(笑)。『自由』、それはモダンジャズのキーワードかもしれませんね。


-ここで生徒砂原の自由研究2-
ここでふと思ったんですが…。
この連続講義の最初の回でも習ったように、ジャズのルーツは奴隷としてアメリカにつれてこられた黒人たちが、自分の国のリズムで音楽を始めたことで生まれたわけですね。そうすると、すでに彼らの音楽の底に、「自由の渇望」があったんじゃないだろうか。そして、そのエネルギーが、音楽の手かせ・足かせを外していき、ジャズは進化・洗練していったのではないか…なんて思ったんでした。ずいぶんカタチは変わったとはいえ、彼らの音楽の遺伝子は今でも生き続けているんですもんねえ。


その自由な精神は、ジャズ以外の音楽もどんどん取り入れていきます。たとえばアフロ・キューバンのリズム、R&B、ソウル、サンバ、クラシックすらも。そして、その度に新しいジャズが生まれていったんですね。ビッグバンドという大きな幹に、ビバップという大きな枝が生まれ、成長していった。また、新しいアイデアを取り入れては次々枝を伸ばしていったんですね。クール・ジャズ、フリー・ジャズ、モード・ジャズ…。


あー、モード・ジャズ!これがわかんないんですよー。

-ここで生徒砂原の自由研究3-
ってことでクリス先生に説明してもらったんですが、いややっぱりよくわからないんです(笑)。でも、先生によると、あのグレゴリオ聖歌もモードなんだそうで。モードそのものはむしろ古典的な音楽理論で、それをジャズに取り入れたのがマイルスたちの先鋭的なアイデアだったのだ、と僕は理解しています。


少なくなったとはいえ、ビッグバンドだって今も残ってますもんね。

そう、ビッグバンドも、ビバップの誕生の後、だんだん姿を変えていきます。昔ながらのスタイルで演奏するバンドもありますが、ヴォーカルを主役にしたバンドは今のポップミュージックにつながっていくんですね。その辺りの雰囲気は、この秋に公開される映画『キャデラック・レコード』に詳しいですよ。とてもおもしろい映画なんですが、ジャズ映画でもないから、興味のある人には観ていただくということで…(笑)


はい(笑)。それにしてもジャズって本当に裾野が広い音楽なんですね。優れたミュージシャンやそのエピソード、名盤・名曲もたくさんありますね。たくさんすぎてどこから手をつけたらいいのかわからないくらいです。
…あ、そうか、このへんが、僕みたいな初心者が入りにくく感じるところかもしれませんね。では次回の講義では、クリス先生のおススメとかも教えていただけますか? 『WHAT'S JAZZ?総論』ということで。

わっかりましたー。ではまた次回ネー!





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