(前ページからの続き)
——「ステージ上で心がけていること」はなんですか?
- 「それはスマイルですよ」
- 「笑顔は人を幸せにしますからね」
- 「単純に楽しいからですけどね。そうでないときでも極力お客さんには笑顔で、とは思ってますけど。その辺はフロントマンに聞いてみたいね」
- 「僕は…フロントマンとしてはバンドをコントロールできるように。あと、ステージ前はいろいろ考えたりすることはありますけど、当日はそんなでもないですかね」
- 「いい意味で普通でいることですかね。大きなイベントや尊敬する人と一緒に演奏するときはどうしても背伸びしたくなるんですけど、できればニュートラルな状態でステージにいることを心がけてますね」
- 「それは分かりますね。僕も基本は練習は家で終わらせて、当日は何も考えないようにしてますね」
- 「まあ私もそのときの自分をそのまま、というタイプですね。ステージスタイルに関しては、これからもうちょっと考えてみたいなあとは思ってます。」
- 「僕はステージ上は人の音を聴くということに集中してます。ベースという立場もあるんですけど、やっぱりステージ上で対話をしていきたいなと。リズムセクションは最低コードだけでも演奏できちゃうんですけど、僕は相手によって違う演奏になる方が面白いとおもいますし。あとはリズムセクションたるもの、フロントマンのためなら死ねるぐらいの感じで(笑)」
- 「ええ~、それはちょっとどうかな(笑)」
- 「いや、ほんとほんと(笑)。僕はバンドリーダーという立場になることが多いんですけど、それは目立ちたいということではなくて、音楽に一番責任を持ちたいということで。バンドを組む相手はもちろん信頼してるので、その人が伸び伸びと演奏してくれればそれが一番いいわけで、そのためなら何でもしたいですもん。それはステージとか関係ないところで一番気を使いますけど」
——「これは必聴!オススメアルバム」を教えてください。
- 「本当はギター曲をオススメしたいとこですが、聴くのはピアノ曲が好きですね。ジャズで一番好きなのはセロニアス・モンク、一枚挙げるとしたらSolo Monkかなあ。あと、いい歌をいっぱい聴いて欲しいなと思います」
- 「ジャズの名盤はそれこそ星の数だけあって、名盤と言われるものにはハズレはないですけど、あえて言うなら僕はケニー・ギャレットが大好きで。Triologyがアコースティックな感じで、すごいメンバー集めたトリオ編成で聴き応えのある一枚ですね」
- 「武藤くんが言ったようにハズレはないと思うし、聴き方も人それぞれなんで、好きな音楽を一生懸命聴いてれば自然と、とは思いますけどね。それでも、その中で僕がいいなと思うのはやっぱりチャーリー・パーカーですね。ビバップはその音楽ができた喜びみたいなものが感じられて、その時代にしか残せなかった音みたいなものが詰まってるなと思って」
- 「僕はもうチャールズ・ミンガスの直立猿人です。大学の先生に貸してもらった一枚なんですけど、当時の僕はジャズを聴き始めた頃で、オシャレで格好良いみたいな漠然としたイメージがあったんですけど、直立猿人は全然違う音楽で。一曲の中にすごくドラマチックな展開があって、途中フリージャズみたいになったりとか。すごく衝撃的な出会いでしたね。どす黒くて暗い、ドロドロしたものが渦巻いてて、まるで一本の映画を見たような感じで。メロディ、リズム、ハーモニー以外の、感情みたいなものを感じた初めてのアルバムでした。ジャズにもこんな一面があるんだ!みたいな。あとベーシスト的にはチェンバースのベースオントップも教科書的な感じでオススメですね。」
- 「みんなちゃんとタイトル覚えてるんやな(笑)。どの曲がどのアルバムに入ってるかとか覚えてないし、どの段階で影響を受けたかっていうのでも全然変わってくるけど、入口の名盤っていうと僕の中ではシナトラかな。あと、トリオ時代のナット・キング・コール。それから僕はピーターソンが好きなのでそれも」
- 「ピータソンで思い出した。ビブラフォンに限るとミルト・ジャクソンがピータソンとジャズフェスティバルで一緒にやったライブアルバム(Peterson 6 at Montreux '75)が、演奏しててすっごく楽しそうなんですよ。聴いてる側もワクワクしてくる感じでめっちゃいいので聴いてほしいですね。あとアカデミックな感じだと、ゲイリー・バートンとチック・コリアのデュオがスピード感があってすごくいいですよ」
——最後に「関西ジャズシーンのこれからのこと」について。
- 「これは権上先生にうかがいたいですけど(笑)。でも本当に権上くんが認知度を広げていってくれたり、それは本気ですごいことだと思ってます。まあ認知上げるだけだったら無料ライブとかガンガンやればいい話ですけど、それはそれで我々もジャズでお金を稼いでる身としては軽い音楽だと思われすぎても困るし。そういう意味ではプレイヤーサイドとプロモーターサイドを両立させてる存在という意味では非常に大きいですよ」
- 「そうですよね。関西のジャズって広いようでそんなに広くない。東京だと裾が広すぎるし、地方だとシーンとして成立しない。そういう意味で、関西はちょうど良い範囲だから一致団結してて、お互いの音楽性についても深く話し合える感じはしてるんですよね。それがもっともっとできれば、関西にしかないものっていうのが生まれるんじゃないかなと思ってますけど」
- 「僕はもっともっと若い人にたくさん聴いてほしいなと思ってますけど。こないだも大学に行って後輩と新歓ライブみたいなのをやったんですけど、ジャズ聴いたことないっていう人がすごく多いんですよね。そういう人に響くライブとか、権上くんがやってくれてたりしますけど、そういうのをしていきたいですね」
- 「それは本当にそうで、僕も若い人に聴いてほしいなと思いますね。どうしても若干年齢の高いジャンルだなとは思いますんで。だから時間があるときはストリートとかやってみたりとかしますね」
- 「そういえば、僕も桑田佳祐のCM見た頃に、ストリートのライブめっちゃ聴いてたわ。今になったら誰かとかは分からないけど、格好良いなあ、あんなんええなあって思った記憶はすごく残ってますね」
- 「でしょ?それで若い子に『なんていう音楽なんですか?』って聞かれたりするんですよ。だから、正直面倒ですけど、そういうのもアリかなあって思ったりしますね」
- 「そうですよね。街歩いてると老若男女いて、こんなに人がいるんだったら、とは思いますね。ライブに来てくださるお客さんは好きだから来てくれるわけですけど、来ない人も嫌いだからではなくて、ちょっと興味があるけど勇気がないとか知らないとかだったりするわけで。そういう人たちにどうアプローチしていくかという部分だと思うんですよね」
- 「ジャズクラブは入りにくいって言われてますもんね」
- 「そうなんですよね」
- 「でも本当難しい問題ですよね。僕らだってやりたい音楽はあるけど、それがお客さんが求めてるとは限らないですし。初めて来たときにめっちゃコアなのやってたら、そのお客さんはもう来なくなるし、かと言ってスタンダードばっかりやってても僕らも進化が止まっちゃうし、そこはジレンマですよね」
- 「そもそも『スタンダードやって』って言われても、プレイヤースタンダードとお客さんのスタンダードは違いますしね(笑)」
- 「本当にそこは悩みどころですよね」
- 「そうですね…一昔前はお店があって、お客さんが出入りしてたという状況で、今まではそれで良かった。でも今はジャズシーンもすごく経済的に厳しい状況で、僕らの世代は自分たちで切り開いていかなくちゃならない。だから今そのためにいろんな活動をしてるんですけども。たとえば『ジャズが聴きたいからお店に行こう』ではなくて、杉山さんのピアノを、武藤さんのサックスを聴きたいと思ってもらうというのも一つの手だと思うんですよね。個人やバンドにファンが付けば、さっき言ってたスタンダードの話もまた変わってきますしね。それが自分たちのためにもなるし、それが広がればジャズのためにもなるし、後輩のためにも道を作ってあげられるし」
- 「試行錯誤しながら、みんなで盛り上げていきたいですよね」
- 「本当にそうだと思います」
(Fine)