スタジオfの録音レポート

Chiaki Ichikawa

市川ちあき

no.27

ヴォーカリストとしてのポイントを伺いました

●練習法、喉や体調などの管理法、気を使っているところ、アピールポイントなど
一番気をつけていることは、風邪をひかないこと。手洗い、うがい、マスクは勿論ですが、風邪の最初の症状を少しでも感じたら、どこにいても、すぐに対応するようにしています。(このすぐというのがポイント。時期を逸すると手遅れになります)喉に違和感を感じたら、水でいいのですぐにうがい。寒気を感じたらストールを羽織る、悪寒を感じたら(多くの場合背中上部の風門というツボ辺り)すぐにカイロを貼る、とか。それでもダメな時は、すぐ葛根湯。だから、外出時は必ず、ストール、マスク、貼るカイロ、液体の葛根湯を持ってます。喉を乾燥から守るため、いつもペットボトルの水も持ってます。
スタジオフォルテで前作「Sunny Swing」を録音した後、アメリカで初めてヴォイストレーニングを受けました。ボイトレの経験なしにプロのシンガーをしてたというのも、図々しい話ですが(笑)・・。その結果、無理なく上から下までの音が同じトーンで出せるようになりました。またシンガーのための英語母音の発音の仕方も学びました。話す時の発音方法で歌うと母音によってトーンが少し変わるのでそれを調整する、話す時とは全然違う発音法です。ボーカルの場合は単語の中のひとつひとつの母音によって音符の音を出しますので、全部の母音のトーンや音の粒が揃うのは、(例えばピアノで弾く指によって音色が変わったらいけないのと同様に)とても大切ですから。習ってすぐにはなかなかできませんでしたが、2年ほど経ってようやく身についての今回のレコーディングでした。もし、前作と少し違って聴こえるようになっていたら、このおかげですね。今後もより確実にできるように、練習していきたいです。
ボーカルは他の楽器以上にダイレクトに精神状態が音に出てしまいます。だから私は自分自身がなるべく幸せな気持ちでいられるよう、常にポジティブシンキングを心がけています。聴いてくださる方の心に何かを伝えるのが私の仕事ですし、そのためには私の心が健康で、エネルギッシュでないとできませんから。
音符と文字で表された歌に命を与え、歌のストーリーを自分の生のストーリーとしてリスナーに届けることがシンガーの役割と思って、それを心がけています。自分は世界で一人しかいないので、そうすることで多くのシンガーが歌っている曲も、世界でひとつの自分の歌になるのでは?と考えてます。

レコーディングの感想

●今回のアルバム制作に対する想い
今回の3rdアルバムは、前2作と違うアルバムを作ろうというところからスタートしました。前作「SunnySwing」は朝お仕事に行く前の支度時間とか、通勤の車の中で一日の元気チャージのために聴いてくださってる方が多かったので、じゃあ次は仕事から帰ってこられてほっとした時、また色々あって心に元気がなくなった時にも聴いてもらえる温かみのあるアルバムというコンセプトを決め、大人の方が楽しめるラブ・ソング・アルバムにすることにしました。
ところが、ハッピージャズをテーマにずーっと歌ってきたので、それまでの私のレパートリーではそんなコンセプトのアルバムが作れないことが判明。でもコンセプトは変えたくなかったので、それから10日あまり、数多くの曲を聴きまくって候補曲をピックアップし、その中から自分で歌える曲かどうかを見定めて、なおかつバラエティに富むように7曲を選びました。従ってアルバム12曲中、7曲は新曲だったということです。無謀といえば無謀ですね(笑)
それからレコーディングまでの3ヶ月半でその7曲を覚えることから始めて、歌を読み解き、自分なりの解釈を加え、自分だけの歌にしていく作業は時間との戦いでした。おまけにコンセプトがコンセプトだし、また地味な曲が多いので派手なアレンジで声高に歌うわけにはいきません。かといって、BGM的なアルバムにもしたくなくて・・。私がさり気なくしかもしっかり印象に残る大人のアルバムにならないかと思ってやったのは、歌詞をいつも以上に深く読み込むことでした。12の様々なシチュエーションのラヴ・ストーリーが、それぞれの顔をもってリスナーの胸にストンと入っていけばいいなあと思います。
●レコーディング裏話
今回の録音では録音前に初めて3本のマイクで録り比べをしてみました。高音から低音まで超クリアに録れる最新型と温かみのある音が録れるちょっと古いタイプとその中間と。マイクによって声の印象が全然といっていいほど変わるのは驚きでした。結局、温かみのある音になる少し古いタイプをアルバムのコンセプトに合わせて選びました。
レコーディングは、ライブで6年間一緒に演ってるメンバーとの2枚目のアルバムの録音だったので、録音中は全員が集中力全開でスムーズに進み、その合間は笑いが絶えないといった感じで、楽しくあっと言う間に終わった印象です。私は3枚目ですが、メンバーはレコーディング経験が豊富なので、その経験からくる的確なアドバイスには多いに助けられました。ただ一回だけ「このまま昼食取らずに続けて録った方がいい」というアドバイスに、空腹になってた私が反抗して(笑)お昼を食べたところ、声が出なくなってしまったのにはただびっくり。やはり経験者の言葉には耳をかたむけるべきですね。
そのレコーディング経験豊富なメンバーたちが今回初体験したのが、マイクの前で歌うということ。コーラスを入れてくれました。初めは3人一緒にということでしたが、結局一人ずつでの録音となり、さすがの百戦錬磨のミュージシャンたちも少し緊張の面持ち。これは珍しい光景でした。でも、マイクの前では緊張気味の彼らも、他のメンバーの録音の時には、調整室でモニターを見ながら賑やかな外野に変わって・・。それを眺めてる私はすごく楽しかったです。
●ミックス/マスタリング終了後の感想
2日かけてミックスダウンしたものを、自宅に持って帰って聴き慣れたオーディオで聴くと気になる点が出てきて、ミックスしたものに万波さんに何度か手を入れてもらいました。今回は私が特に一言一言のニュアンスや表情にこだわった歌い方をしていたので、それが一番いい形で聴こえる音にしたくて、細かく色々お願いしましたが、そのひとつひとつに真摯に粘り強く対応してくださった万波さんのプロ魂はさすがでした。おかげで最終的マスタリングは高音質で、立体感、奥行、ニュアンス、どれをとっても満足のいくものになりました。スタジオ・フォルテで録った音はやっぱりいいですね〜。
万波幸治さん
(三和レコーディングスタジオ チーフエンジニア)

レコーディングに入る数週間前、市川さんには福岡より大阪の私のオフィスまで来て頂いて、3rdアルバムとなる今回作品のコンセプトに関して数時間に渡りお話し頂きました。参考音源を聴きながら今回のアルバムのイメージを具体的に想像したり、選曲された曲への想いとそれぞれの曲のアレンジイメージを伺ったり、イメージする声の質感をどんなマイクで録ればいいかを提案させて頂いたりです。新たな作品を産み出す前のエネルギッシュな市川さんとのミーティングはとても楽しくエキサイティングな時間でした。今思えばその時点で市川さんの頭の中には出来上がるアルバムの完成形がしっかりと在ったでしょうね。
その打ち合わせの中で挙がったアルバムのイメージキーワードとして「夕暮れ〜夜」「リラックス」でした。当然曲毎にそのイメージを表現する方法は違ってくるのですが、市川さんの唄の表現方法として「表情から滲み出る唄の素晴らしさ」と「テクニックから溢れ出る唄の素晴らしさ」の二つの局面があり、それらを巧みに唄い分ける事により、各曲に合ったイメージを完成されています。
録音〜ミックス〜マスタリングとスタジオ作業は進むのですが、今回は特にマスタリングでの微調整(例えばイコライザーのほんの数デシベルの調整等です)の試行錯誤に時間を十分かける事が出来ました。具体的には市川さんにはマスタリング後音源をご自宅で試聴確認して頂くのですが、スタジオモニターでの微妙な変化もご自宅環境でしっかりと把握され、作業のやり取りがとてもスムーズでした。やり取りの回数自体は多かったのですが入稿期限までに市川さんも私も十分満足なマスタリング作業が出来ました。

3rdアルバム「Moments Together」

今回のアルバムは市川さんの三作目ということになり、エンジニアの万波さんと入念な事前打ち合わせを経てレコーディングが開始されました。アルバムのコンセプトに沿ったマイクの選択とレイアウトを綿密に調整したあとは一気に録り続けるという流れで作業が進みました。どのテイクもほぼ2テイク、多くて3テイクでどちらかイメージの合うほうを選択します。すなわち全テイクOKを次々と叩き出すという演奏クオリティの高さはすさまじいものがありました。
ミキシング〜マスタリング作業も綿密なやり取りをされながら進行し、表情豊かに仕上げられていきました。
音楽の演奏技法において、音の形を整え、音と音のつながりに様々な強弱や表情をつけることで旋律などを区分するアーティキュレーションという言葉がありますが、歌唱や演奏からマイクセッティングやミキシング〜マスタリングでの音作りに至るまで巧みなアーティキュレーションによって表現された今回のアルバム、是非その音をお楽しみください。

Album Info.

「Moments Together」市川ちあき
[ SFP1410 2014.10.22発売 レーベル/SFP Records 発売/ディスクユニオン ¥2,400(本体)+税 ]

  1. 01.
    Haven't We Met?
    3:07
  2. 02.
    A Nightingale Sang In Berkeley Square
    5:51
  3. 03.
    Like A Lover
    5:06
  4. 04.
    Too Late Now
    4:58
  5. 05.
    Watch What Happens
    3:42
  6. 06.
    P.S. I Love You
    4:17
  7. 07.
    Eleanor Rigby
    3:43
  8. 08.
    Ooh-Shoo-Be-Doo-Bee
    3:02
  9. 09.
    Someone To Watch Over Me
    5:36
  10. 10.
    All The Way
    5:16
  11. 11.
    Cheek To Cheek
    4:21
  12. 12.
    A Time For Love
    5:16

Live Info.

2014.11.14(金) 福岡ニューコンボ
2014.11.19(水) 横浜BarBarBar - 「Moments together」リリースライブ
2014.11.20(木) 吉祥寺メグ - 「Moments together」リリースライブ
2015.01.19(月) 神戸ソネ
2015.02.20(金) 神戸ベイズンストリート

Member Info.

市川ちあき (ヴォーカル)
福岡市出身。交換学生としてアメリカのミズーリ州へ留学し、英語音声学、朗読劇、声楽を学ぶ。ラジオアナウンサー、通訳者を経てジャズボーカルを学び、2007年「神戸ジャズヴォーカルクィーンコンテスト」で準グランプリを受賞。ハッピージャズをテーマに、卓越した英語力、歌への鋭い感受性と豊かな表現力を持つ日本では数少ないストーリーテラータイプの本格派ジャズシンガー。福岡を拠点に関西をはじめ各地で活躍し、その独自のスタイルで多くのジャズ・ヴォーカル・ファンを魅了している。2010年スタジオ・フォルテ録音の2ndアルバム「Sunny Swing」は「ジャズ批評」ジャズ・オーディオ・ディスク大賞ボーカル部門にノミネートされる。

石川武司 (ピアノ)
1963年生まれ。ジャズ、フュージョン、ラテンとジャンルを問わないスタイルで関西を中心に活動するピアニスト。これまで「Thoughts」「Thoughts2」「Door 2 You」「Road 2 You」、そして2013年には「Get Here」と5枚のリーダーアルバムをリリース

荒玉哲郎 (ベース)
87年竹下清志氏のグループに参加、ミッキー・ロウカーやオテロ・モリノウらと共演し、94年より単身渡米。帰国後は、ルイス・ナッシュやミゲル・アンヘル・バルコス等、国内外のミュージシャンと多数共演し、綾戸智絵をはじめ様々なレコーディングに参加。09年全曲オリジナル・アルバム「ヘーザ」を発表。

高野正明 (ドラム)
1965年生まれ。大阪府出身。Drumを20歳から始め、YAMAHA 8.8 Rock Dayにおいて最優秀Drummer賞に輝く。独特な音色、ニュアンス、卓越したテクニックや音楽性は、あらゆる演奏者のニーズに応える。