水: |
前回は、人間にとって吸いよりも吐きのほうが難しいと習いました。
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寿: |
うむ。人間にはおもに吸うための筋肉として、外肋間筋と横隔膜がある。しかし吐くため専用の筋肉というのはニャいんじゃ。 |
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水: |
え~!? じゃあ、どうやって息を吐くんです? |
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寿: |
安静にしているときは、ふくらんだ肺が自然にもとに戻ろうとする力によって息を吐くニャ。 |
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水: |
じゃあ、一生懸命吐くときは? |
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寿: |
内肋間筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などが使われる。しかしこれらは呼吸補助筋群と呼ばれ、意識的に使おうとしなければ呼気動作には参加しニャいんじゃよ。 |
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水: |
前回、老師は吐くほうが難しい理由を二つあげられましたよね。身体の構造として吐きにくいという解剖学的理由と、ふだんあまり深く吐いていないという習慣的な理由と。 |
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寿: |
そうじゃニャ。すでに二つ目の理由も述べたようなものじゃが、人間はふだん意識的呼気動作をしていニャい。つまり深く吐いておらんのじゃ。 |
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水: |
だから、先の呼吸補助筋群がうまく使えないわけですね? |
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寿: |
その通り。しかし、多くの人はそれがあたりまえの状態になっているから、吐くことの難しさに気づきにくい。むしろ「たくさん息を吸えない」と信じ込んでおる。 |
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水: |
吸うのは簡単なんですか? |
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寿: |
イエスともノーともいえるニャ。 |
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水: |
また~、いじわるなんだから…。 |
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寿: |
ニャはは。たしかに吐きと比べれば吸いはやさしいが、現代人の多くは吸いも浅くなっているので、深く吸えニャいんじゃ。その意味では、吸いもまた難しいといえるじゃろう。 |
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水: |
ぼくたちは何から練習すればいいんですか? |
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寿: |
前回やったように、まず立ち方を改善すること。重心の位置ひとつで全身の筋力バランスは大きく変わるのじゃ。 |
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水: |
内くるぶしの間に体重を落とすだけで、ずいぶん呼吸が楽になったのには驚きました。 |
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寿: |
そのうえで、まず徹底的に「呼気」の練習をすることじゃ。 |
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水: |
吐きの練習ですね。 |
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寿: |
まず呼吸を大きく二つの領域に分けて考える。ひとつは「満息域」、もうひとつは「空息域」じゃ。 |
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水: |
マンソクイキ、クウソクイキですか? |
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寿: |
思いっきり息を吸ってごらん。 |
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水: |
はい。(ス~~…) |
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寿: |
もっと、もっと、吸って。肺が満杯になるまで。 |
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水: |
… |
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寿: |
それくらいでいいじゃろう。仮にその状態を空気が100%肺に入ったものと考える。では、次にその息を全部吐いてみよう。 |
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水: |
ぷはあ~~! |
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寿: |
もっと吐いて、もっと吐いて、肺が空になるまで。 |
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水: |
んんんん… |
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寿: |
よし。それで肺が0%の状態と考えよう。実際にはまだまだ残気はあるが、主観的に吐き切ったと思えるところまで吐いたらそこを0%とする。 |
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水: |
はあ、はあ、はあ、はあ…。 |
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寿: |
ニャはは、苦しかったかニャ? |
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水: |
ぜえ、ぜえ、…。 |
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寿: |
ふつうの呼吸で、いまの「100%」から「0%」までを使い切っている人は、まずいない。 |
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水: |
そりゃ、そうでしょう! こんなキツいことを日常ではできないですよ。 |
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寿: |
100%と0%のちょうど中間あたりを50%と考えたとき、ふだんの呼吸はだいたいどのあたりでしておるかニャ? |
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水: |
え~と… |
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寿: |
もちろん個人差もあるし、場面によっても異なるので、だいたいで構わんぞよ。 |
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水: |
60%から40%くらいですかね。 |
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寿: |
まあ、主観的にはそんなもんじゃろうニャ。実際には、吸気で60%、呼気で50%くらいになることが多い。つまり吸うほうの領域をおもに使い、吐くほうの領域はあまり使わニャいんじゃよ。 |
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水: |
へえ、そうなんですか。 |
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寿: |
この「吸うほうの領域」のことを満息域、「吐くほうの領域」を空息域と、ねこ気功では呼ぶのじゃ。 |
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水: |
肺の中に空気がたくさんあるのが満息域、少ないのが空息域ですね、 |
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寿: |
うむ。そして、今日の呼吸トレーニングは、まず空息域から始める。 |
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水: |
浅く吸って深く吐くということですか。 |
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寿: |
その通り。最初は「ヨゴヨゴ」じゃ。 |
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水: |
ヨゴヨゴ? なんですかそれは? |
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寿: |
肺の中の空気量を、40%になるまで吐き、50%になるまで吸う。ヨ(4)・ゴ(5)・ヨ(4)・ゴ(5)とニャ。 |
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水: |
なるほど、こりゃいいや。40と50の往復で、ヨ・ゴ・ヨ・ゴね。 |
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寿: |
やってごらん。 |
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水: |
はい。(ヨゴヨゴに挑戦) |
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寿: |
なにか気づいたことはあるかニャ? |
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水: |
けっこう浅い呼吸ですね。なのにわりとストレスがかかります。ふだんの呼吸で自分がいかに空息域を使っていないかがわかりました。 |
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寿: |
おお、ニャかニャか優秀なレポートじゃ。この練習はいろんなバリエーションが考えられる。たとえばミゴミゴ(30%と50%の往復)、ニゴニゴ(20%と50%の往復)のように、振幅を大きくしていく。 |
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水: |
空息域での呼気に、より大きな負荷をかけるわけですね。 |
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寿: |
もうひとつは、振幅そのものは変えないで、より深い空息状態で呼吸する方法がある。ミヨミヨ(30%と40%の往復)、ニミニミ(20%と30%の往復)などじゃニャ。 |
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水: |
(それぞれやってみる) |
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寿: |
どうじゃ? |
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水: |
うわあ、それぞれに全然違った感覚ですね。呼吸法って奥が深いなあ。 |
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寿: |
管楽器奏者は特にじゃが、打楽器や弦楽器、あるいは普通にねこ気功を学ぼうとする人にも、これらの呼吸法は役に立つぞよ。 |
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水: |
ふだん使わない空息域を活性化するわけですね。 |
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寿: |
正確には、空息域で使われる筋肉群、神経群の活性化じゃよ。また、内蔵のマッサージ効果もある。 |
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水: |
たしかに、内蔵の血行が良くなる気がします。 |
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寿: |
空息域をじゅうぶんに鍛えたら、次回は満息域に取り組もう。 |
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水: |
はい。 |
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(つづく) |
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