レッツスタート!Chapter.1
呼吸法講座編「Brass Breath」
管楽器演奏の呼吸法には、いろんなアプローチがあります。実際の演奏状態に近いものから、身体づくりを目的とした基礎的なものまで。非常に複雑かつメカニカルな方法もあれば、シンプルで奥深いものもあります。
本連載は、主にブラス奏者を対象とした、シンプルな基礎的呼吸法をご紹介したいと思います。まじめに取り組めば、おもしろいように身体が変わっていくのを感じられることでしょう。金管楽器を主としておりますが、木管やリズム奏者が取り組んでも役立つ内容です。
四つの腹式呼吸 バックナンバー
第一の腹式呼吸
腹式呼吸を習うとき、以下のように教わる人が多いのではないでしょうか。
 息を吸うとき腹がふくらみ(→ふく) 息を吐くとき腹がへこむ(→へこ)
これが第一の腹式呼吸「ふくへこ」です。
第二の腹式呼吸
腹式呼吸には二種類あるとする文献を見かけることがあります。「順式」と「逆式」です。
順式とは、第一の腹式呼吸「ふくへこ」のことです。一方、逆式とは、
 息を吸うとき腹がへこみ(→へこ) 息を吐くとき腹がふくらむ(→ふく)
この逆式呼吸こそが、第二の腹式呼吸「へこふく」です。
ここで衝撃的な話をしなくてはなりません。残念なことに、第一の腹式呼吸「ふくへこ」も、第二の腹式呼吸「へこふく」も、どちらも管楽器演奏にはふさわしくないと考えられるのです。
第三の腹式呼吸
管楽器演奏に役立つと考えられる呼吸のひとつが、以下に紹介する「ふくふく」です。
 息を吸うとき腹がふくらみ(→ふく) 息を吐くとき腹がふくらむ(→ふく)
つまり、ずっと腹はふくらんだままです。尺八の奏法では、これを「密息」と呼ぶそうです。また、ヨーロッパの管楽器奏者はこの呼吸を使う人が多いとか。
第四の腹式呼吸
もうひとつ管楽器演奏に役立つと考えられる呼吸が「へこへこ」です。
 息を吸うとき腹がへこみ(→へこ) 息を吐くとき腹がへこむ(→へこ)
これは、太極拳の拳勢式呼吸などに見られるほか、クラウド・ゴードンの指導するチェストアップもこれに相当すると考えられます。
ちなみにゴードンによる腹式呼吸批判は有名ですが、これは第一の腹式呼吸「ふくへこ」を批判したものだとすれば理解できます。「ふくへこ」は演奏に適さないからです。
しかしながら、ゴードンの推奨したチェストアップもまた、広い意味では腹式呼吸の一種であると考えるのが合理的だといえます。
そもそも「腹式」は「胸式」に対する概念。呼吸において腹部に影響が及ばないほど浅いものを胸式と呼び、腹部との連動が生じるほど深い呼吸を腹式と定義するならば、腹式には上記の四種類が基本形として存在するからです。
次回は、どうして「ふくへこ」「へこふく」が管楽器演奏に適さないのかについてご説明しましょう。
著者Profile
水行末(すいぎょうまつ)
ハイノート講座「タングマジック」プロデューサー。「まま呼息の発見」「楽呼吸法 ~インナー・ウォームアップの方法~」「ウォーター&ブレス」など呼吸法関連の論文多数。雑誌「楽器族。ブラストライブ」では「音楽家のためのメディテーション "ねこ気功" 入門」を連載中。合奏音楽のための国際音楽プロダクション「ワールド・プロジェクト・ジャパン」代表。
http://www.wpjapan.com/
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