- vol.97
- LUSH LIFE
ジャズもペダルも軽やかに
@京都・出町柳
いまでこそすんなり来れる出町柳。
でもずっと以前には、三条で電車を降り、てくてく鴨川沿いを歩いて来たものだった。それはそれで楽しかったんだけれども、すんなりここまで来るたびに若干『歴史の生き証人』的な気分にもなるわけですよ。あれこれ昔のことを思い出したりしてね。
ちょっとだけ感傷的な気分にひたりつつ出町柳駅の階段を上がり、この辺りかな?と見回すとタクシー乗り場の向こうに、おお!もうLUSH LIFEは見えている。なんとも便利な立地である。
近づいてみるとカフェオレ色のストライプもかわいい、山小屋風とも思える外観。明るい光がさしこむような感じがなんとも気持ちいい。席数も10席あるなしのとてもかわいいお店である。
ジャズのお店と聞いて、雑然とジャズ雑誌のバックナンバーやらレコードやらが積み上げられているのかなあと思っていた予想はみごとに外れた。いや、断捨離的にモノがないというのではない。なんというか、自分の部屋にいるみたいなここちよい感じなのだ。
お店を切り盛りするのは、オーナーの茶木哲也さんと奥様の三千代さんのおふたり。
そもそも茶木さんがジャズ喫茶を始めたのが19際の時だったというから驚きである。
音楽好きな叔父様に「これを聴いてみろ」と勧められたのがアート・ブレイキー。すっかり魅せられ、とにかくジャズが好きになって店を始めた…ということなのだ。「自由に会話のできるジャズ喫茶」というのは当時でも珍しかったかもしれない(これは今でも受け継がれている)。バンドマンやらゲイやら、一癖も二癖もあるお客さんが常連には多かったそうだ。いやあ、そういう時代だったんですよねえ。
その後、三千代さんとの結婚、お店の移転、双子のお子さんの誕生などいろーんなことがありながら現在に至る、ということらしい。
おもしろいのは茶木さんの趣味である。
ジャズ喫茶のほかにも写真家としても活動されていたり、三千代さんとともにかなりの長距離サイクリングなんかも楽しんでいるらしいのだ。しかもかなりのベテランである。ね、ちょっとジャズ喫茶のマスターって感じと違うでしょ?茶木さんの表情とお店の明るさは、どうもそういうところから来ているように思えるんですよ。
「ほとんどモダンは聴かなくなりましたねえ」という茶木さんだが、ジャズ好きは変わらず、いまでは上賀茂神社でのコンサートの企画と運営なんかもされている。
しかし、考えればこれだって楽な仕事ではない。
ご自分の好きなミュージシャンであるとはいえ、海外からミュージシャンを招聘し、コンサートの告知と運営をするなんて、そうとうにキツいことのはずである。それをいかにも楽しそうに、明るく語れるなんて、いや失礼ながらタダモノではない。聞いていると、なんだかとても軽やかな気分になってしまうのだ。
すでに何度も行なったのがRANDY WESTON(pf)のコンサート。そしてこの秋には、場所もおなじ上賀茂でのABDULLAH IBRAHIM(pf)のコンサートを企画しているそうだ。
店内にはLPの販売コーナーもあり、取材中にもレコードを物色しているお客さまの姿が。
ていねいにいれられた熱いコーヒーを飲みながら、のんびりジャケットを眺めたり、もちろん音楽を聴いたり、おなかがへったらカレーライスでも頼もうか。遅くなったらバーボンもいいな。
おいしそうな香りの中を、古き良きサッチモのボーカルが流れている…。
ふと気がついた。
あ、そうか。
こんなジャズの楽しみ方もあるんだなあ。