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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.95
M's hall

ジャズとアンティークとクルマのおもちゃ箱
@大阪・天王寺

駅で言うなら、JR環状線の寺田町と桃谷のちょうど中間ってところ。
しかしその中間点は環状線の真下、つまり高架下にそのお店はあるのである。
それでは…と出かけてみると、そこにあるのはどう見てもカーディーラー。
入り口には欧州車のブランドロゴ、とてもジャズのお店には見えないのだけど、よく見ると「ジャズバー」との表記もある。若干不安になりつつもお店に入ると…。

いきなり出迎えてくれるのはクラシック・フィアット、その隣にはミニカーやクルマのポスターが並んでいる。いや、僕もライセンス持ってないくせにフィアットは好きなクルマなんですよ、とくにルパン三世が乗ってるヤツなんかは。でもなあ、今日はジャズの取材なんだけどなあ。よく見ると、古いクルマのポスターとかハンドルのコレクションなんかも飾られている。まるでカーマニアのガレージを覗いているようだ。ここってやっぱりクルマ屋さんなんじゃないの?
さらに不安になりつつ、左手にあるドアを押す。

おおっと、なんだこりゃ。
高架下と言いながら、想像以上に高い天井。とてもゆったりした空間なのだ。しかもここにはあちこちに(というよりそこら中に)みごとなアンティークやミニカー、楽器やレコードのコレクションが充満している。ジョン・ピッツアレリのサインが飾ってあるかと思うと、BS&T(あえてフルネームでは書かないけれど)のフラッグがあったり、なんというか、ある種の博物館のようなのですよ。しかし、よくありがちな「オレオレ感」がないんですよね。これはなかなか稀有なことかと。

オーナーの首藤博さんはそもそも、お父様の代からの家具屋さんなのだそうだ。事実10年ほどは家具屋さんとして事業を受け継ぎ、経営されていたそうだ。ところが元からの音楽好き、学生時代にはドラムを始めほとんどの種類のサックスを演奏し、ビッグバンドの一員としてステージにも立ったそうなのである。この空間も家具屋さん時代の店舗だったそうで、そこを改造してこのお店ができたというわけだ。
なるほど、当時はビートルズを始め、ビーチボーイズやベンチャーズ、新しい音楽が次々に入ってきた時代だった。そして、そのひとつがジャズでもあったわけで。

首藤さんのお好きなクルマを販売(というか、欲しいってヒトがいれば譲るって感じですね)したりしながら、ジャズの聴ける落ち着いた雰囲気の店を作りたい…との想いがかなって早や20年。
ジャズバーとカー・ブティックと家具のお店との3足のわらじ、それぞれにお馴染みさんもでき、さらにジャンルを超えてのおつきあいも深まっているという。
クルマ好きと音楽好き、アンティーク好き、そんな人々がここに集まっているそうなのだ。そしておもしろいのは、たとえばクルマとアンティークが好きな人、アンティークと音楽が好きな人、クルマと音楽が好きな人、それぞれが順列・組み合わせ的にここに集い、交流しているのだそうだ。人生っておもしろいですねえ。

奥様の薫さんはフード担当、オススメはカウンター中央に掲示されている。ちょうどこの日は野菜サンドイッチがあり、この手作り感がたまらない。アンティーク趣味もご主人の博さんと共通しているそうだ。ライブは毎週金曜日。ジャズに限らず、カントリーやタンゴなんていう時もあるんだそうだ。お酒だけでなく、晩ゴハンを食べながらジャズを聴くなんてのもよさそうである。

それにしてもこの質と量はどうだ。
エエカゲンなものを集めるのはたやすいことだろう。しかし、こんなふうに趣味のいいものをこれだけ集めるというのは並大抵のことではない。ここに座って、ぼんやりとあれこれ考えているとそんなアタリマエのことにあらためて気がつく。
時間という大きな編み目で濾されてしまうことなく、底に光る砂金の粒のような時間がここにはあるようだ。

人生、掘り出し物ばかりじゃありませんからね。だからこそたいせつなものは、思った以上にたいせつなのです。ぜひ一度。