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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.93
東京倶楽部 水道橋店

大人のジャズ・クラブはクールなビジネス感覚とホットな人間力から
@東京・水道橋

東京ドームのある水道橋駅は、夕方になると混雑がはじまる。『東京倶楽部』はその人波を逃れるように線路沿いの静かな並木道を上ったビルの地下にある。出迎えてくださった店長・奥田 勉さんは黒いスーツにオールバックがよく似合い、シャープな身のこなしが板についている。シックなインテリアと重厚なカウンター。正面ステージを見渡せるハイチェアは特に居心地がよさそうだ。
『東京倶楽部』は、かつてはビジネスマンの集うサロンだったという。知人の送別会でデキシーのバンドを呼んだことがライブハウスとして出発するきっかけに。1990年以降は業態を変更し、以来この水道橋店のほか本郷店・目黒店・千駄ヶ谷店と都内に4店舗を構えてそれぞれほぼ連日ライブを開催している。水道橋店・本郷店はジャズを中心に、千駄ヶ谷店は若手のポップスやロックやジャンルレスな音楽を、目黒店はライブの他に広いスペースを活かしてダンスや演劇系のイベントも開催するなど、各店舗がそれぞれ特色を持っている。

「昔と違い、ITのおかげで仕事もやりやすくなりました」とiPadを手にする奥田さん。だれもがHPを閲覧する時代になったことで新しいアイデアも生まれたそうだ。サイト上で出演者を募集したり、本郷店のようにお店に出演する人気アーティストのリーダーセッションやワークショップを告知・開催し、好評を得て定期的に催されるようになるなど、アイデアは次々仕事に活かされてきた。
「そういうビジネスのコアな部分は、ほかの人間が担当しています。僕の仕事は言いたいことを言って、お客さんとお酒を飲むことだから(笑)。けっこう忙しいんですよ」と奥田さん。本当に忙しそうだ。取材中もしょっちゅう電話がかかってくる。お店を下見するお客さんも入ってきた。丁寧で完璧だけどどこか楽しげな応対、真面目な表情から一変する人なつこい笑顔。奥田さんのそうしたギャップが妙に人を引きつける。
「ミュージシャンを大切にしたいですね。彼らあってのジャズ・クラブですから。いろんな方がいておもしろいですよ。『店長のオレにそこまで本音言う?』って思うことも(笑)。でも僕もいいなと思う人には、つい良くしてあげちゃいますねえ」

そしてカウンターでお酒を楽しみながら、誰よりも奥田さんと話し込んでしまうのはお客さま。きちんと仕事を勤め上げ、家族を愛し、なおかつジャズを聴くひとりの時間を大事にする常連のお客さまが多いという。中には「自分が毎日通える店を作ってくれるなら出資する」とまでいう方も。
「こういったお客さまが店の存続にずっと貢献してくださった。本当に感謝しています」と奥田さん。
入り口には今月のスケジュールが貼ってある。ジャズ好きなら誰でも知っているアーティストから、若手・新人アーティストまで、連日無休で埋まっている。
奥田さんは「24年前はジャズなんてよく知らなかったし、みな必死で仕事を続けたかっただけ」とおっしゃっていたが、ビジネスへの厳しい視点と人の心に響く接客が、音楽とミュージシャンを育てる結果になったことは間違いなさそうだ。
イケメン・バーテンダーのタカムラ君がつくってくれたのは美しいブルー・ダイキリ。オシャレなカクテルと店内を包み込むように柔らかく響くジャズを聴きながら、ゆったり夜が更けていく。
外に出ると外壁に掛けられた「JAZZ」のネオンサインがあたりを明るく照らし出していた。
「そうそう、以前『Z』が2つとも点かなくなった時、電車からそれ見た人が、農協だと思って来ちゃったのよ。ホントホント」
ネオンの下、ニカッと笑う店長の顔が輝いた。