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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.90
荻窪ルースター

看板オーナーが模索するライブハウスの未来
@東京・荻窪

オーナーの佐藤ヒロオ氏には以前からお会いしたかった。著作『荻窪ルースター物語』(ポット出版)はあまりにおもしろく、お店のサイトをみるとフレンドリーかつ真摯な姿勢が伝わってくる。初めまして、と迎えてくださったその人は、本やサイトのイケイケな?イメージとは異なり、シャイな音楽少年の面影色濃いもの静かな方だった。
個性的な街が連なるJR中央線沿線のなかで、荻窪はやや控えめで落ち着いた大人の街。そんな駅にほど近い線路沿いに『荻窪ルースター』(本店)はある。また駅の反対側には貸し切りライブハウス『ルースター・ノースサイド』という2号店もあるが今回は本店におじゃました。
ビルの階段を下っていくと、ぐるりと描かれたミュージシャンの壁画が入り口まで案内してくれる。店内はステージを正面に、明るい木の内装と赤い椅子がアクセントのすっきりしたアメリカ風居酒屋、といった印象だ。ご両親とも音楽家という家庭で育ち、学生時代からバンド三昧、卒業後はベーシスト・歌手・作曲家・マネージャーなどのプロ活動を経て広告制作会社へ勤務。その後、もともとやりたかったライブハウスを開業したのが35歳。資金集めのために自動車工場のラインで過激に働いた経緯は著作に詳しい。そんな経歴を持つ佐藤さんに、改めて荻窪ルースターの魅力についてうかがった。

「音楽に詳しくなくても誰でも気軽に入れる店をめざしました。ジャンルにはこだわりませんが『身内ノリ』をしない出演者を集めようと思ったら自然にジャズやブルースのミュージシャンが増えていきました」。
佐藤さんいわく、「自分のファン向けの演奏やアプローチしかできないミュージシャンが出る店は最悪」。等しくチャージがあるからには、誰にとっても金額に見合うかそれ以上の内容でなければ詐欺であると手厳しい。その言葉どおり、佐藤さんの気配りは徹底している。ライブの前には前説を行い、30分の休憩時間にはなんとオーナー自ら手品を披露。「ひとりで来たお客さんを黙って過ごさせてしまうのが忍びない」というのがその理由。「果たしてそれが本当に必要かどうかは微妙」と笑う。
お客さんを集め、楽しませる工夫はまだまだある。合い言葉入りのメルマガを送り、会計時にそれを言うと10%オフ。例えば「お会計お願いします」のところを「体育会系(会計)お願いします」など、言うのも恥ずかしいギャグを交え、また「今月はミズキさん」のようにまず該当者のいない名前割引制度を実施するなど、シャレで和ませることに抜かりない。手元に配られた月刊スケジュールのライブにはいちいちキャッチコピーが付いているが、これもお客さんが退屈しないための配慮から。ソーシャルメディアも充実。なかでも荻窪ルースターが送るPODCASTというネットラジオはDJロマーリオ(佐藤さん)が出演ミュージシャンにインタビューしたり、『音楽ファン高齢化対策室』や『プロミュージシャンが教えるプロミュージシャンになる方法』など、実にユニークな内容だ。

さて、お話をうかがっていたらもうライブ開演時刻。本日はリーダー・吉野ミユキ(as) 率いる外山安樹子(pf) 若林美佐(b) 鈴木麻緒(ds)によるストレートアヘッドなカルテット。どれどれ、今日のキャッチは『美しい女性JAZZ NIGHT』。男性客が多いのはそのせいかな。「本日はお足もとの悪い中、またお財布事情の厳しい中、『高級ジャズクラブ荻窪ルースター』へようこそおこしくださいました〜etc」ってな具合の前説は笑いとともに会場をいっきにひとつにする。すごい威力だ。
佐藤さんは、これから音楽やライブハウスに対してどのような構想をもっているのだろう。
「生の音楽を聴く、ということがごく普通に楽しめる世の中にするのが最終目標。そのきっかけづくりをしたい。例えば居酒屋やコンビニが全国展開したように、バンドの入った飲食店がチェーン展開する可能性はゼロではない。今話題のフレンチレストランがチャージ300円でジャズの生演奏を入れたのは画期的なこと。音楽を聴いて飯を食い、普通におしゃべりできる場所があったら、ライブハウスでわざわざジャズを聴く必要がなくなることだってありうる。でもそこからまたスタートすることで、新しい聴かせ方や聴く場所が誕生するにちがいない。そうなったらジャズだけでなく、消えていった価値ある音楽—ハワイアン、ブルーグラス、カントリー、シャンソン—なども、復活するチャンスが出てくるのでは。がんばるだけでなく、僕自身がそんな未来を楽しむ時間まで残しておきたいと思うと、もう動き出さなくてはいけないところに来ているんです」。
佐藤さんの未来への模索はこれからが本番ということらしい。荻窪ルースターのファンは、そのチャレンジを熱く応援しているに違いない。もちろん私も!!