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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.86
BLUE LIGHTS

建物が音楽だ!
@大阪・香里園

まあ僕自身も、いわゆる「ジャズ喫茶の隆盛」てのはしらないわけですけどね、でもまだ若い頃にはあちこちに大きなスピーカーから古いジャズを流している喫茶店がまだまだありましたねえ。今はずいぶんすくなくなったジャズ喫茶ですが、いや、ここにもまだありました。

ここは京阪沿線の香里園近く。繁華街というよりは完全に住宅街の中で、お聞きするとこれにもちゃんと理由があるんですが、ちょっと目にはつかない場所ではあります。
たぶん香里園周辺の人なら「ああ、あの辺りね」ってことになるんだろうけど、あまりなじみのない僕なんかにはよくわからない。ましてや人に説明するのはむずかしい。
ということで、場所とアクセスについては住所を参考にしていただく、ということで本題に入りましょう。

こちらのウリは、なんといってもこれでしょう。
お店に入るとすぐに目に入るどでかいスピーカー。しかもコンクリート製です。
ジャズのお店に行くとそこのスピーカーの存在感におどろくことはよくあるんですが…、いや、これはまた別格。
家具というよりまるで建物と一体の構造物という感じなんですねえ。それもそのはず、このお店の建物自体が手作り、そしてこのスピーカーもそのとき同時に手作りされたというシロモノなんです。
そもそも、オーナーである奥村繁太郎さん、御年92歳。
もともとは国鉄職員、その後は対戦車砲の部隊を率いたという、これだけでもう本が書けそうな経歴をお持ちの方ですが、この奥村さんが超のつく音楽好き。
大音量で音楽を聴いていたところ、近隣から苦情が続出、なんとか自分の好きな音で心おきなく音楽を聴きたい…というのがこのお店の造営に(笑)につながっているのだとか。
いきなり作ってしまうというのがスゴいですが、なにせ人手の要る仕事、息子さんである佳弘さんもムリヤリかり出されてしまったという次第。
ここで終われば肉体労働レベルで済むわけですが、なかなかそうは問屋が下ろさない。スピーカーの研究のため、あちこち一緒に行かされたというからなまじっかのハナシじゃあありません。そのなかでもお気に入りだったのが尾道にあったラボというお店、ここのスピーカーを参考にしてマイ・スピーカーを作り、同時にその入れ物である家も造ってしまったというわけなんですねえ。
いい迷惑なのは佳弘さん。
現在、画家としても活躍されている佳弘さんは大学の卒業制作もそこそこにお父様の横暴につきあわされたわけですからね。

しかしそのスピーカーの実力はすばらしく。「全部の楽器の音がちゃんと聞こえるんですよ」とおっしゃる。いえ、シロートの僕が聴いてもそれがよーくわかるんです。音の分離がいいってことになるんでしょうかね、ベース好きなものでいつもベースの音を追っかけてしまうんですが、これが他の音に埋もれてクリアに聞こえることはめったにない。しかしこのスピーカーは…とてもクリアなんですねえ、オドロキです。

CDはなくてLPレコードをかけているってのもいいですね。
(余談だけど…、ジャズ好きとしても知られるイラストレーターの和田誠さんと糸井重里さんの対談の中で、イトイさんが「デジタルはいわば点描。点々を細かく、細密に重ねていけばアナログに近くなりますよってことです」と表現していたのがとてもわかりやすくて印象的。確かにそう思いますね、結局は別物なんです)
そのアナログサウンドが本当に豊かに響く。自然でリッチな低音、こけおどしではない音楽の響きがここからは生まれてくるんです。時々、オーディオメーカーのエンジニアも研究に訪れるというのもうなずけます。

さて先ほどの繁太郎さん、さすがにお店に立つのはキツいだろうということで、現在は佳弘さんと奥様の恵三(めぐみ)さんとがお店を切り盛りされているということです。
前述のとおり、佳弘さんは画家、恵三さんはピアノの先生といういわば2足のワラジ。それでも「なんとかここを守りたい」とおっしゃいます。それもそのはず、この響きはそのまま大きな財産です。繁太郎さんはお元気でご存命だけど「音楽の世界遺産」として登録したいくらいのものです。ちょっとこれは他で聴けない音ですよ。

「クラシックもジャズも、同じ響きで、自分の好きな音で心ゆくまで聴きたい」という気持ちがすべての出発点。そしてそれは、今もそのまま生きているんです。
この音は、ぜひぜひ一度、体験してほしい。
ああ、こんなお店がもっと近くにあったらなあ…、ホントにそう思ったことでした。