ジャズ探訪記 バックナンバー
●Diggin' the Bar
ならず者は夜汽車でRainy Night In Kobe。
三宮の駅を降りると、さすが週末の夕方。
カラオケに、呑みに、あるいは食事に、長い夜を楽しみに街に繰り出したたくさんの人で駅前はごったがえしている。しかし、こういう時はアレですね、取材なんかより呑み助の野生のカンを頼りに路地の奥深く分け入りたくなるんですが…、約束があるとなるとしかたない。
それに、今日はめずらしくジャズじゃなくてソウル・バーにお邪魔するってことで、ちょいとココロ惹かれるところもあるんですね。
ま、そんなワケで…。夜汽車に乗って、ジョージアならぬ三宮の盛り場(っていう言い方も昭和なカンジですが)を訪ねたわけです。

さて、見つけたビルは阪急の高架が見えるくらいの近間。東口と西口のちょうど真ん中くらいかな、そこからちょいと山側に上がったところ。その2階にあるのがソウル・バー“Diggin' the Bar”なんである。
お、お店のロゴからして70年代のソウルを感じるうねり方。それを見た瞬間、僕のアタマの中には「ソウルトレイン」のテーマが鳴り出したんでした(笑)。

ドアを開けると、こじんまりとしていかにもいごこちよさそうな空間。左にバー・カウンター、奥にソファ席とテーブルが並んでいる。カウンター奥にはLPレコードとお酒のボトルがびっしりならんだ棚。反対側の壁にはスティービー・ワンダーのアルバムがずらりと並んでいる。こりゃあオーナーもアフロヘアに白いスーツか…?と思いきや、お話をうかがったオーナー後藤さんは、白いシャツもさわやかな今ふうのイケメンなんですね、これが。しかも若い! このお店を開いて来年の2月で5年目ということは…? まだ20代の時に作らはった店なんですね!?
なんでも後藤さん、中学時代に出会ったサム・クックがそもそもの出会い。それまで聴いていたロックよりも、ずっと魅力的に響いたということらしい。ただ、「だからソウル・バーを…」ということじゃなく、バーテンダーとして働いた後に独立したとき、お酒のほかにもうひとつ何か…と考えたときに思いついたのがソウル・ミュージックだったのだそうだ。だからソウル・ファンであるよりもまずバーテンダーというスタンスなのだそうだ。
だから、「いわゆる『音バー』、音楽が主な店よりもお酒のグレードは高いと思ってます」という言葉は、バーテンダーとしての後藤さんの矜持だろう。



年中無休で、しかも「朝5時くらいまではたいてい開けてます」ってのも嬉しいじゃあーりませんか。早い時間にどこかでゴハン食べて呑んで、ちょっと呑みたりないナーなんてときも気軽に行けて、なんなら始発まで呑んでてもダイジョーブなのは心強いですよね。
「しんどくないですか?」とお聞きすると、
「いやあ、ウチからウチへ移動してるだけですから」と笑う後藤さん。「音楽部屋とテレビの部屋を往復してるだけなんで(笑)」
ハハハ、なるほど。

水割りなら700円から、チャージが500円…とはいうものの、これは後藤さん手作りの(!)チョコレートや季節のフルーツがつくわけで、料金的にもとてもリーズナブル。もちろんカクテルのオーダーにも応えてもらえる。後藤さんだけじゃなく、バーテンダーの田代さん(超個性的なヘアスタイルですが、これが似合ってるんですよねえ)もクールっぽいのに気さくなナイスガイ。そのせいだけでもないだろうけど、客層も「女性率のほうが高いですね、女性おひとりの方もよくいらっしゃいますよ」というのもナルホドである。

LPのコレクションは3000枚以上。お客さんと話したりしてるうちに、「コレを入れとかんわけにいかんやろなあ…」なんてわけで、いつのまにか増殖してしまったらしい。いまや、「開店資金よりLPの購入額のほうが多い」というからスゴいですね(笑)。ご自分の趣味についてはあまり多くを語らない後藤さんだけど、語れないわけではもちろんないだろう。ただ、そのあたりが、僕なんかにはとても親しみやすく感じるんですね。いい意味でのこだわりのなさというか、風通しのよさというか…。多くのお客さんもそうなんじゃないかなあ。「20代から、上は70代まで」という客層の広さもうなずけるんでした。

あえて、ソウル・ミュージックが今の主流か?といえば、必ずしもそうではないだろう。でもやっぱり、心を打つ音楽は主流・傍流関係ナシ(スティービー・ワンダーの「Isn't she lovely」を聴いて、いまだに涙を禁じ得ないのはワタシです)。
いつもはジャズのお店ばかりを訪ね歩いているわけですが、Diggin' the Barにお邪魔して思ったのは、やっぱり「ジャンルを問わず、いい音楽はステキだ!」ということなんでした。そして、「ステキな音楽を好きな人はやっぱりカッコイイ!」でもあって。
いや、そりゃもちろん「お酒はステキだ!」でもあるわけですが(笑)。

Diggin' the Bar
●神戸市中央区北長狭通2-4-7 瀧西ビル2F
●TEL:078-333-5103
取材日:2009.11.13
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