ジャズ探訪記 バックナンバー
Jazz Club St.James
ジャズクレイジーは入院必至
いつのまにかひっかけ橋もずいぶん姿を変えた。でも、あいかわらずカニはわっさわっさと動いているし、たくさんのハデハデな若者たちも行き交っていて、道頓堀は今日もにぎやかだ。ただ違うのは、「あの人」がいないこと。そう、いつも明るい笑顔をふりまいていた「食いだおれ太郎」君の姿がもうないことだ。道頓堀のランドマークでもあった彼のステージの真ん前に、今回の目的地・セント・ジェームスはある。
周囲の喧噪とミニスカートの脚に気もそぞろだと、セント・ジェームスのシックなサインはうっかりすると見のがしてしまいそうだ。注意注意。

エレベーターを降りてドアを開けると、そこにあらわれるのは意外なほど広々とした空間。中央奥にはピアノと左手にはドラムス。巨大なスピーカーが目を引くけど、これはシューヨークのレコーディングスタジオでも多く採用されている逆輸入品だそうだ。うーん、この広さなら40人ほどは楽に入るんじゃないかな?木の梁と漆喰っぽい壁は、古い古いパブとかクラブのようだ。例によって僕は知らないんだけど、「セント・ジェームス」とは、古いジャズの歌詞にも出てくるニューオリンズの精神病院の名前なんだとか。ってことはニューオリンズ風なのかもしれないなあ。

お話をうかがったのは、オーナーでありピアニストでもある田中武久さん。
細面のお顔にすっきりなでつけた髪、真っ白いシャツが似合ってとてもダンディーである。
「もう33年になりますねえ、ここで店を始めてから」
何気なくおっしゃる田中さんだけど33年!いや、どんな仕事だってそれだけ続けるのはカンタンではない。しかも田中さん、いまでもほぼ毎日ピアノの演奏をされているんである。ピアニストだからアタリマエ…ではない。こんなにも長い期間、モチベーションを持ちつづけるのは至難のワザである
しかし、これで驚いていてはイケナイ。
田中さんのピアニスト歴はもう57年(!)なんだそうだ。17歳のころには岩国の米軍基地にピアニストとして通い、日本の重役並みのギャラを稼ぎ、それで大学の学費もまかなっていたというから素晴らしい。とんでもない勤労学生である(笑)。



小曽根実さんや大塚善章さん、北野タダオさんなどみんな同い年なんてことや、昔のLPが高値で取り引きされていることを知ってCD版で安く再発したこと(笑)、エルビン・ジョーンズとの出会い、ニューヨークでのレコーディングのこと、そしてこの道頓堀界隈の移り変わり…。
終始おだやかな笑顔で、タバコをくゆらせながら聞かせてくださる話はまさにジャズの歴史である。

音楽ソフトのコレクションはおよそ2000枚。映像ソフトも豊富で、現在500本ほどあるそうだ。BSなどでチェックした映像もだんだん増殖しているようで、アニタ・オデイとかの珍しいものあるのだとか。こちらは謹一郎さんの担当で、お二人の分担(?)がお店の雰囲気に相乗効果を及ぼしている…といったところかな。音だけでなく、映像もコミで楽しめるってのは楽しそうだ。さらにまた、映像からのマニアネタも増えそうだなあ。

お店のコンセプトは?とお聞きすると、
「楽しくジャズを聴いてもらうことですね。初心者の方が来られても充分に楽しんでもらえるように考えています」と田中さん。
そう、この感じなんですよ。
以下は、あるインタビューの受け売りなんだけど、その中で田中さんはこう語っている。


「とにかく世の中を明るくしたいーということですね。表現のベースは明朗さです。明るさの中に美しさがあり、優しさや激しさもある、そんな表現でありたいと思います。 ~中略~ 40歳を過ぎてから演奏を通じて人を喜ばせてあげたい、元気にしてあげたいと強く思うようになりました」


僕の好きな作家の一人も、作中の人物に「本当にいいものは光の方を向いているものだと思うよ」と語らせている。そして僕は、強さや激しさ、深さも、明るさの中にこそあるんだ、と確信している。


ピアニストとしての田中さんやセント・ジェームスというお店に感じる穏やかさや優しさは、こういう考え方から来ているに違いない。

店内でも販売されている田中さんのニューアルバム、タイトルは「Too Young」。言わずとしれたナット・キング・コールの名曲、共演のお二人は若手の実力派だけど、大ベテランの田中さんが「若すぎる」なんてう人は誰もいないはず(笑)。でもこういうセンスがカッコイイんですよねえ。
「もう古希を過ぎましたから」なんて言いながら笑う田中さんだけど、「でもまだまだ前進・前進・前進ですよ(笑)」とも。
なんともカッコイイ田中さん、人生の師と呼ばせていただきます!
Jazz Club St.James
●大阪市中央区道頓堀1-6-12 ニコービル4F
●TEL:06-6211-1139
取材日:2009.5.11
●http://www7.ocn.ne.jp/~st-james/
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