ジャズ探訪記 バックナンバー
Bar Martini(バー マティーニ)
すこぶるシルキー、でも凛として。
三宮駅から通りを渡って北へ、おなじみの北野坂をゆっくりとのぼる。このあたりには本当にたくさんのジャズ関係のお店がある。今回訪ねるバー・マティーニもそのひとつで、山手幹線の手前をちょいと東に、すぐに見えてくる大きな木が目印になるかもしれない。不思議なもので、いいお店って入り口あたりからすでに「いい店ですよオーラ」が漂ってくるんですよね。
短い階段を降りたらすぐにマティーニのドア。
このドアを開けると、こぢんまり店内には柔らかく暖かい光が満ちている。磨き込まれたカウンター、落ち着いたインテリア、天井近くに飾られたお酒のボトル。BGM はもちろんジャズ、静かな女性ボーカルが流れている。かすかにかすれたようなこの声は…、たしか鈴木重子さんの歌声だ。
半地下だけど大きくとられた窓からは初夏の夕方の光が入り、この声の印象にとてもよく似合っている。これはまるで「おいしくお酒が飲めるバー」を絵に描いたみたいな…、あ、いかんいかん、早くも仕事を忘れそうだ。
迎えてくださったのは真っ白なシャツにベスト、蝶タイといういでたちの飯塚信明さん。キャリア20年超のベテラン・バーテンダーだ。ただし、仕事を始めた時にはジャズにもお酒にも興味はなかったそうだ(笑)。そんなヒトがこういうお店を開くようになったりするわけで、まったく人生はおもしろいですね。
「フレッシュ・フルーツを使ったカクテルが得意」という飯塚さん、バーテンダーとしては神戸市の技能奨励賞も受賞されていて、その表彰状がこっそりと、まるでコンピューターの隠しボタンみたいに控えめに飾られている。この辺りにお人柄がかいま見える気がしますね(笑)。



「いやあ、僕自身はジャズに詳しいわけでもないし、『こだわり』のようなものもないんです」とおっしゃる飯塚さん。「窓から入る光の感じと、夜の一歩手前の時間の、ちょっとけだるいような時間の雰囲気にこんな曲が合うかなあと思いまして…」
いやー、いい選曲ですねえ。僕もピッタリだと思います。まだあまり混んでいない時間の、どこかの静かなバーで、キリっと冷えたシャンパンでも飲みたくなるような。でも、アーティストで選んだり時代やムーブメントで曲を選ぶお店はたくさんあるけど、以外に少ないんじゃないかな?こんなふうに、雰囲気とか季節感とかを考え合わせて選曲してくれるところって。
お話をうかがっていると、実は飯塚さん、鈴木重子さんのファンで、一時は「追っかけ」をしていたとか。声と違って、意外に天然キャラのヒトですよねーなんて話していると、CDラックから出してきてくださったのは鈴木さんのサイン入りCD。サインの部分を見ると、『at Fukuoka』とある。…え、福岡まで追っかけはったんですか!
「ハービー・ハンコックとかも好きなんですけどね」と飯塚さん。
全然タイプ違うやないですか(笑)!
店内にはピアノも置かれ、月に何回かはライブも行っていて、セッションデーも設けられている。
「綾戸智絵さんにも2回ほど演奏してもらったことがありますねえ」
へー、あの綾戸さんですか!そりゃ見たかったなあ!
…と、なかなかビックリの話題だけど、まあここまではよくある話。でもここからが違うんですね。
なんと飯塚さん、客船をチャーターしての「Sunset Jazz Crusing」を企画・プロデュースされているのだそうだ。しかも当日の運営まで!しかも今回で第7回!
見せていただいたアルバムには、クルージングとジャズ・ライブ、美味しそうな食事を楽しんでいる人々の笑顔・笑顔。実に楽しそうだ。
夏の黄昏の潮風の中でのライブ演奏…。なるほど、港町神戸、ジャズの街・神戸ならではの楽しみかもしれませんね。素敵だなあ、夏の日のおもいでがひとつ増えそうだ。
「特別ジャズが好きというわけでもないんです」なーんていう飯塚さんだけど、これは照れというか韜晦というかなんじゃないかなあ、そんな気がします。だってこの企画力・実行力はタダモノじゃありませんから。
もうひとつ印象的だったのは、ライブのこと。
「セッションの日には、その辺のスーパーでフツーに買い物してるような女性が、『この曲歌いたいんやけど』なんて言って譜面を出してくるような…。そんなふうだといいなと思うんです。ジャズがもっと広く愛されるようになって、そんな風景がアタリマエになるような店にしたいし、神戸がそんな街になったらいいなあと思ってるんです」
一見クールであまり多くを語らない飯塚さんですが、ジャズにかける思いは…。
いや、熱いぜ。
Bar Martini(バー マティーニ)
●神戸市中央区加納町4丁目8-15 A・M・U-PLAZA B1
●TEL:TEL:078-322-1117
取材日:2008.06.04
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