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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.133
rompercicci(ロンパーチッチ)

ジャズを共有し、心静かに過ごす
@東京・中野

JR中野駅からのんびり歩いて徒歩15分、西武新宿線「新井薬師駅」からなら10分くらい、こじんまりした商店街の道沿いに、本日おじゃまするジャズ・カフェ『rompercicci』(ロンパーチッチ)は位置する。
すぐそばの、駅名にもなっている新井薬師(梅照院)は、1586年に創建、江戸時代以降は眼病治癒の仏さまとして今でも地域住民に親しまれているそうだ。
「お正月、節分、お花見、お盆の時期は、遠方から参拝にみえるお客さまもいて、周辺は結構賑うんですよ」と迎えてくださったのはオーナーの齊藤外志雄・晶子ご夫妻。紅白ストライプのキュートなシェード、細長い透明なガラスが並ぶ白枠の窓と小さなドア。美味しそうなスイーツやカフェご飯が並ぶメニュー。光あふれる明るい店内は、随所に本棚があるから読書にぴったり。『ロンパーチッチ』という店名も、お気に入りの絵本の主人公からふとひらめいた晶子さんの造語だそう。入り口の『coffee&JAZZ』の案内がなければ、どこをみてもレトロでオシャレなフツーのカフェそのもの。

外志雄さんは高校時代からジョン・ゾーンなどフリー系ジャズを聴いていたが、晶子さんの父上から結婚祝いにレコードプレーヤーをプレゼントされたことをきっかけに“レコードでジャズを聴く”楽しさにハマって、会社帰りにレコードを買うことが日課のようになっていった。「ジャズ喫茶をやりたかったというより、会社を辞めようと決心したとき、ほかに思い浮かばなかった」と外志雄さん。一方晶子さんはマル・ウォルドロンのライブを聴いて以来「暗いピアノ」に心惹かれ、二人の好みはかなり違うのだとか。お店は今年で7年目を迎える。
外志雄さんいわく、ジャズ喫茶には大別して3種類のお店がある、という。1.ジャズが時代を先取りした頃から今日まで、一貫して営業を続ける“プロ”の老舗。2.博識なマスターと、ジャズやオーディオへの知識欲の高いお客さま(ほぼ常連さん)との接点を主体にしたジャズ喫茶。そして自分たちは第三のタイプなのかも、と。
「お店とお客さまとの間に一定の距離が保たれ、さばさばした居心地のよさの中で過ごせるというか。スターバックスにもいそうなお客さまに、同じようにいらしていただければいいのかなと最初の頃は思っていました」。
Wi-Fiと厨房前のカウンターに電源も用意され、通信や充電もできる。しかしここで問題発生。
「イヤホンを使う方が思いのほか多く、ノイズキャンセリングタイプのヘッドホンを付けたお客さまが入ってこられたときには、さすがにジャズの店としてはなにかルールをつくらなければと思いました」と晶子さん。イヤホンを外すようお願いしたらそのままパソコンから音を出しちゃったお客さま、当時流行ったスカイプまでやり始めるお客さま、キーボードをカシャカシャ大音量で操作するお客さま、開店からずぅ〜と居続けて仕事を続けるお客さまなどなど。なんだか笑い話みたいだけど、いや〜、世の中ホントいろんなヒトがいるわいるわ。その一方で「このお店があったから本が書けた」と分厚い自身の著作を届けてくださったお客さまも。うむむ、こっちは嬉しいですよね。

現在はメニューの裏表紙に、「会話は小声で控えめにお願いします」「イヤホン、ヘッドホンはご遠慮ください」「2時間毎に追加注文をお願いいたします」といったお店からのお願いが書かれている。ここに至るまで長い道のりだったと外志雄さん。
外志雄さんは毎日のように休憩時間にレコード店へ足を運んで購入しているそうだ。そしてその“新譜”がお店でかかり、SNSによってお店の中だけでなく外にも情報発信される。ナルホド、朝市で仕入れた新鮮な野菜をその日のランチに登場させ、同時にみんなにチラシを配ってる、みたいな感じかな。もともとは常連さんに同じものばかりを聴かせないようにする工夫だったという。そんな外志雄さんがかけてくれたのはドロシー・ドネガン(p)のライブ盤。司会のトークや演奏中のうなり声など、ライブならではの臨場感、スタンダード曲満載の聴きやすさなどがお気に入りだとか。カウンター前のスペースは、スピーカーの響きが充満し、聴く人の心も体も包み込むような、なんともいえない気持ちよさだ。
「今のお店の考え方は、流れているジャズを共有しながら、それぞれが“自分自身を静かにする”ということでしょうか。かかっている音楽が何であるかは、そのことに次ぐ重要さであって一番目ではない。そんなお店があってもいいのでは」と外志雄さん。
音楽を介したゆるいつながりのなかで、自分もヒトも大事するってことなのかなあ。
「好きな音楽を聞きながら、それなりにやっていけることは私たちにとっても幸せなことですよね」と晶子さん。
お店のツイートはとても素敵だ。
「貴重なご来店ありがとうございました。お店の備品がよく消えると嘆く同業者の声を耳にしますが、当店まったくものがなくならない優良店で、今日に至っては本棚に見覚えのない冊子が増えているという謎事態が発生してます。お心当たりの方取りにきてくださいね。明日もがんばります」。
がんばれ、第三世代。