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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.128
サテンドール

「お客さまを喜ばせたい」。リニューアルオープンした六本木の名店
@東京・六本木

夜の六本木交差点の賑わいは、東京を代表する風景のひとつ。その交差点から坂を下ること1分。ビルの5階に『サテンドール』はある。
ジャズを好きだったり、演奏した経験がある方は必ずどこかでこのお店の名前を聞いたことがあるはず。
前の六本木店時代にはサラ・ボーン、メル・トーメ、MJQ、カーメン・マクレエら海外アーティストがステージに立ち、渡辺香津美、マリーン、寺井尚子ら第一線で活躍する顔ぶれが今も定期的に出演する有名店だ。『サテンドール』は今年3月に同じ六本木交差点の向かい側から移転し、ちょうどリニューアルオープンしたばかり。
エレベータを出て一歩店内に入ると……、おおっ、広い!客席のデザインとレイアウトがすっきりしていて、どこにいてもステージを見渡せる。窓全面に設置されているおびただしい数のグリーンポットが壮観だ。そこから常に新鮮な酸素が送られているせい?なのか、店内の空気がひんやりさわやか、いきいきとした流れをつくっているように感じられる。
「いいでしょう。でも植物の手入れは大変なんですよ」。そう言って現れたのは、代表の井上修一さん。細身で飄々とした風貌、人懐こい笑顔が印象的だ。

井上さんは神戸のご出身。大学1年生の時、先輩に大阪のジャズ喫茶『バンビ』に連れて行かれ、すっかりジャズに魅せられたのだそう。もともと飲食業に関心が高く、在学中からすでに一軒の店を任され、その後‘74年、ジャズレストラン『サテンドール』を開業した。
「吞むこと食べること、ひとを楽しませることが大好き。それがまた大好きなジャズと結びついたから、ほんとうにこの仕事に向いているんですよ。いまでこそきちんとした料理を出すジャズスポットは増えましたが、フレンチを出すジャズの店は、当時東京にもなかったのでは」。
神戸の『サテンドール』は外国人客を中心に繁盛したが、一年半後にはより多くのジャズミュージシャンが活動する東京へ移転。銀座時代を経て開業43年目の現在、6軒目の店舗になるという。これだけ長い間、継続してこられた原動力はなんでしょう。
「少しでもリーズナブルにお客さまに楽しんでいただきたいという気持ちです。『サテンドール』は今でもどこよりも低価格な設定になっていると思いますよ。あとは企画力でしょうか。たとえば通常のライブのほかに、現在「Satin Doll Crystal Voices 10」というアマチュアとセミプロのボーカリスト10名が出演し、新しいお客さまに足を運んでいただくための企画を毎月行っています。優秀なボーカリストには単独ライブを任せ、トークショーが加わったりダンスが入ったりと、また発展していくチャンスを広げています。ただ集客するだけではなく、いろんなやり方でお客さまを喜ばせたい、という気持ちからなんですけどね」。

出演するミュージシャンに対してはどのようなことを感じていらっしゃいますか。
「結局は人柄、ではないでしょうか。すぐに天狗になってしまうようなひとはだめですね。人柄がよく、お客さまを含めた人への気配りのできるミュージシャンが生き残っていくように感じます」。
本日のライブはSatin Doll Special Session。椎名豊:P,リーダー、上村信:B、濱田省吾:Ds、近藤和彦:As、篠原正樹:Tp、三木俊雄:Tsというこれまた豪華なメンバーだ。ゆったりとしたシートで食事を楽しんでいたお客さまも、ひとたび演奏がはじまると集中して耳を傾けている。ステージと客席の緊張感の行き来が音楽とともに店内を満たし、独特の心地よさを生み出している。ライブの楽しみってこういうところにあるんですよねえ。
「僕は興味のあることには研究熱心。意志も強い。それは自分のためでもあるけど、いいと思ったことは他のひとにも教えてあげたいですからね」。
井上さんはその好奇心にしたがって現在3冊の本を出版している。中でも最新刊『飲食店のオーナーを目指す若者よ大志を抱け!』は興味深い。長年の実績で培った経営ノウハウを公開、トラブル事例や対処法の記述には説得力がある。井上さんの穏やかな物腰からは想像できない、筋の通らないことには徹底抗戦する経営者としての強靱さがあったからこそ『サテンドール』は今日まで続いてきたにちがいない。
最後に井上さんからみた神戸の魅力とは?と尋ねてみた。
「瀬戸内で捕れる魚のゆたかさとおいしさ。点在する洋館をはじめとするエキゾチックな風景。そして背後から迫る山と目前に広がる海の美しい対比。坂を上れば北、下れば南と分かりやすかったおかげで東京にでてきて方向音痴になっちゃった(笑)。あのちいさな街にすべてがあるんですよ」。
六本木のはるか彼方、井上さんのまなざしの向こうに神戸の街灯りが揺れている気がした。