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ジャズ探訪記関西を中心に、往年の名盤を聴かせるバーから、生演奏も楽しめるレストランまで人気のジャズスポットを紹介!

vol.103
アディロンダック カフェ

古書店街の一角で味わうジャズとハンバーガーのおいしい時間
@東京・神保町

古書店が連なる神保町の交差点から、靖国通りを少し入ったビルの4階。ガラス越しに見える細長い店内から、すでに独特の空気が感じられる。
ドアを開けると予想外に大きな音量で音楽が鳴っていた。壁も床も椅子も居心地の良さそうなダークブラウン。年代もののポスターやレコードジャケット、ジャズメンのポートレートや風景写真が飾られた壁はどこをとっても絵になる眺め。カウンター席には常連風の男性客、テーブル席には遅いランチの二人連れ。音楽にはおかまいなしにおしゃべりしている。
「ウチはジャズ喫茶ではない、というところからスタートしてるからね。ただの食堂ですよ食堂」と笑いながら話すのはオーナーの滝沢 理さん。いやいや、そんな言葉を真に受けちゃあいけません。確かにあの『食べログ』の口コミで高評価、という点はジャズの店らしからぬ快挙ではあるものの、さっきからお店の中にはタダならないジャズの芳香がプンプン匂っていますよ。

滝沢さんはNY在住20年。レコード販売を手がけ、帰国後は九段下で名盤レコードショップを運営。7年前に神保町でこの『アディロンダック カフェ』をオープンした。店の名はよく出かけたニューヨーク州の自然公園の名前だ。
「ホントに普通の喫茶店のつもりではじめたんです。でもここへ来る人がああでもないこうでもないと意見を言うもんで、それを僕のセンスでまとめていったらだんだんこうなっちゃった」。
滝沢さんとお店の雰囲気が、鋭敏なジャズファンを自然に引き寄せているということらしい。神保町という場所柄、古書店の店主・編集者・写真家・大学教授、はたまたシナトラ協会会長ら、「通」同士が勝手にジャズ談義で盛り上がっていることもしばしば。お店の雰囲気に合いそう、とニューヨークで撮った写真を置いて行ったり、気の利いたジャズのグッズを持ってきたり。また引き寄せられるのはお客さまだけではない。お店にピアノを置いたとたん、ミュージシャン自身が売り込みにきたり、人づてに紹介されてやってきたりとこれまた「自然発生」的にライブが始まった。現在は火曜日夜のライブが定着。来日中のアーティストも遊びにくるようになった。なかでもパット・ラバーベラとは親交があり、彼が来店するときにはセッションになることも。「ここに来る人がいっしょに店をつくっている、という感じ。ありがたいですよね。理想的です」。

滝沢さんが棚から1枚のCDを取り出した。板屋 大トリオによる『トプシー』というタイトル。自然でクリアなピアノの響きが店内を満たす。
「実はこれ、店で録音したライブ版。ジャケットの写真は間宮精一さんによるものです。今後アディロン・レーベルの第2弾、3弾が生まれ、間宮さんのジャケットを並べられたらなあ、と思っているんです」。と滝沢さん。間宮精一は写真家で、国産カメラの開発を手がけたマミヤ光機の創設者。彼の孫と滝沢さんが同級生、という繋がりから写真を入手できたそうだ。ジャケットの写真と同じプリントが壁にも掛かっているが、シックな店内にニューヨークの町並みがよく似合う。滝沢さんにとっては懐かしい風景なのかもしれない。お店の話をするときの滝沢さんの表情には屈託がない。人は本当に好きなこととともに生きていると輝きが増すのかなあ。
「おまたせしました〜。」と食事を運んでくれたのは奥様の聖子さん。「もともとのジャズファンもこられるけど、うちはごはんを食べに来てくださるお客様のほうがずっと多いんですよ」。
注文したのは人気のアディロンダックハンバーガー(アボカドトッピング)とフィラデルフィアサンド。ほかほか湯気が立ち、かぶりつけばじゅわっと口の中いっぱいに肉汁が広がる。野菜もたっぷり。セットのスープカップの底からも煮込んだ野菜がざくざく出てくる。芳しいコーヒーをすすりながら、今後どんなお店になりそうでしょうかとうかがってみた。
「流れているジャズを何も知らないまま聴くだけではもったいない。いつ頃どこでだれが演奏しているのか、ほかにどんな曲があるのか、ご飯を食べに来た人たちに教えてあげたいですね。みんなにいいジャズをもっと聴かせたいの」と聖子さん。「まあ毎日が“ING”だからねえ。先のことはわからないけど」とご主人。お店のおいしいこのごはんの中に、「ジャズ好きにならずにはいられない二人の特製スパイス」がたっぷり仕込まれていることは間違いない。