最先端のジャズシーンが感じられる音楽 ジャズピアニスト・山中千尋
ニュー・ヨークを拠点にワールドワイドに活躍されているジャズピアニスト・山中千尋さん。6月21日にセロニアス・モンク生誕100周年を記念したオマージュ・アルバム「モンク・スタディーズ」をリリースし、注目を集めています。今回は、そんな山中千尋さんにニューアルバムにまつわるお話と神戸の思い出などをうかがいました。
「今考えるとすごいメンバーですよね」、バークリー音楽大学時代の神戸での思い出。
── 山中さんは以前、弊社(KOBEjazz.jpを運営する富士通テン株式会社)ともご縁があるそうで。当時の思い出などあれば聞かせてください。
山中「そうなんですよ、バークリー時代に。ちょうどバークリーの選抜メンバーということで私と、今回のアルバムに参加したマーク・ケリーというベーシストと、スナーキー・パピーというバンドで今年グラミー賞を貰ったボブ・レイノルズ(サックス)というメンバーで日本で演奏させていただいたときに私もメンバーだったので。そのご縁で」
── その頃、神戸でバークリー選抜メンバーでの公演が神戸であり、その流れで弊社のチャリティーコンサートにご出演いただいたんですね。
山中「そうだったのかもしれません。確かゲイリー・バートンとかタイガー大越先生とかみんな一緒に出していただいた記憶があります。そのときに学生バンドで出させていただいたんです」
── 改めてすごいメンバーですよね。
山中「ええ本当に。今考えるとすごいメンバーですよね。みんなはすごく出世しましたね(笑)」
── 山中さんも存分にご活躍されてるじゃないですか。でも、学生さんの頃からご縁があったなんて光栄です。ちなみにその後、神戸に来られたことはありますか?
山中「そうですね…どうしてもブルーノートさんとかビルボードさんが大阪にあるので、大阪止まりになってしまうことが多いですね。あ、でも先日西宮の兵庫県立芸術文化センターでコンサートさせていただきました。外国人はみんなどうしても神戸っていうとビーフのイメージがあって(笑)。それにKOBEって言いやすいので阪神間は全部神戸って感じになる気がします(笑)」
── 現在ニューヨークを拠点にされてるんですよね。
山中「そうですね。ブルックリンとボストンと。バークリーで教えてるので。あと、バークリーが休みの5月から8月の間に桐朋学園大学でも教えてます」
── 日本とボストンの学生さんで共通点とか違いはありますか?
山中「まずクラシックの学校とジャズの学校なので、そこがまず全然違うは違うんですけど。やっぱり今は情報も多いので、とても上手だし、いろいろなことが器用にできる子が多いように思いますね」
「この三人だからこそできる面白い音楽を」、ニューアルバム「モンク・スタディーズ」について。
── 先程もおっしゃってましたが、6月21日にリリースされたアルバム「モンク・スタディーズ」についておうかがいしたいと思います。
山中「はい。神戸に初めて来たときのメンバーでもあるマーク・ケリーとディーント二・パークスと一緒に演奏してまして。今回セロニアス・モンクが生誕100周年を迎えますので、それを記念した一枚になってます。やっぱりモンクってジャズにとって非常に重要なミュージシャンなので、今回は彼の作品をそのまま追うのではなくて、すごく自由な発想を持ってた方なので、その自由な発想にトリビュートして私も自由なアレンジをさせていただいて作品づくりさせていただきました」
── 正直なことを言いますと、モンクを初めて聴いたときに難しいというかよくわからないなって思ってなんとなく苦手意識があったんですけど、「モンク・スタディーズ」はすごく聴きやすくて、新しい山中さんたちの音楽だなと思いました。
山中「私の作品は、アメリカのヒップホップだとかアメリカのポップスで一番キーになるような二人をフィーチャーしてるので、モンクが難しいというのではなくて音楽の勢いとか流れとかエネルギーといった源流のようなものに着目してるので、聴いてすぐに面白いと思っていただけるようになってると思います」
── 配信サイトのジャズチャートでも好評を得ているようですね。
山中「そうなんです。今回のアルバムはいろんな音楽番組やピーター・バラカンさんにも取り上げてもらったこともあって、ジャズを知ってる人も知らない人も、普段はジャズを聴かない人もたくさん聴いてくださってるようなので、それがとても嬉しいですね」
── そういう意味ではジャズも変わってきてるという感じでしょうか。
山中「昔ながらのフォービートという感じではないですよね。improvisation(即興)のかたちも変わってきてますし、いろんな音楽と融合していくという感じで、現在のジャズの雰囲気をわかっていただけると嬉しいですね。あとまたモンクの演奏している音楽ばかりを集めたコンピレーションも出るので、モンク自身の魅力はそちらで聴いていただければと思います」
── 確かに、モンクが聴きたかったらモンクを聴けばいいですもんね。
山中「で、三人で演った音楽は今三人とも違う音楽に取り組んでて、だからこそ面白い音楽ができないかなと思って作ったので、やっぱりジャズを聴く人のクセとして『これはジャズなのか、そうでないのか」という…(笑)、そういうジャッジもすごく楽しいんですけど、今は若いアーティストのものでも『えっ、これがジャズなの?』というものもたくさんあるので、是非いろんな音楽を聴いていただければなと思います。もちろん、そのジャッジは聴く人に委ねたいと思いますが、私たちはimprovisation musicとして、ジャズのミュージシャンとして演奏してるので、そういう気持ちで聴いていただければなと思いますね」
「伝統はあるけれど、制約があるものではない」、未来のジャズミュージシャンに向けてのメッセージ。
── ところで、KOBEjazz.jpはジャズのなかでも、とりわけ学生さんのビッグバンドを応援しているのですが、山中さんご自身はビッグバンドのご経験はありますか?
山中「バークリーのときはレインボーバンドっていう小曽根真さんとかジョン・スコフィールドがいたビッグバンドに4年間ずっといましたし、ニュー・ヨークにいたときはディーバっていう女性ばっかりで編成された素晴らしいビッグバンドにもいたので、私はビッグバンド育ちです。だからビッグバンド大好きです」
── それは嬉しいですね。
山中「アメリカでも子どもたちが最初に触れるジャズはコンボよりビッグバンドが多いんですよ。だから各地でコンサートをやるときも、コンサート前に学校のビッグバンドにクリニックをして、夜一緒に演奏するみたいなこともよくありますね。いつかビッグバンドの曲も書いてみたいですね」
── それは楽しみです。やっぱり日本よりもアメリカの方がジャズが溢れてたりするんですよね。
山中「ニュー・ヨークでは溢れてますね。でも田舎に行くとジャズ知らないっていう人も多いです。ニューオリンズとかニュー・ヨークとかボストンぐらいですよ。なのでやっぱり音楽が勉強できる環境ってとても大事だなと思います」
── 最後になりますが、ジャズを演奏する学生さんたちにメッセージをお願いします。
山中「少し前までは限られたバンドの中でしか勉強できなかったですけど、今はいろんな人がいるしインターネットもあるので、みんなが自分の音楽を共有できるっていう恵まれた環境にあるので、自分がやりたいなって思うことをジャズの中でやっていただきたいなと思います。ジャズって確かに伝統はあるけれど制約があるものではないので、自分の世界を広げていって、いろんな個性を伸ばしていってくれることがジャズにとっても幸せなことなんじゃないかなと思います」
── 今日は本当にどうもありがとうございました。
[ RECCOMEND MOVIE ]
- 『モンク・スタディーズ』告知映像
- 『モンク・スタディーズ』収録「ハッケンサック」スタジオ映像
[ ライブ情報 ]山中千尋エレクトリック・トリオ「モンク・スタディーズ」スペシャル・ライヴ 2017
- 東京 丸の内コットンクラブ
- 日時:2017/8/25(金)26(土)27(日)
- 愛知 名古屋ブルーノート
- 日時:2017/8/28(月)
- 大阪 ビルボートライブ大阪
- 日時:2017/9/9(土)
[ リリース ]
- モンク・スタディーズ山中千尋
- ジャズの偉人セロニアス・モンク生誕100周年を記念し、モンクを敬愛するジャズ・ピアニスト山中千尋がセレクトしたモンク集。山中本人によるモンクについてのエッセイや楽曲解説付き。
-
1 ストレイト・ノー・チェイサー
2 ラウンド・ミッドナイト(Live At The Five Spot, New York) / 1958 / セロニアス・モンク・カルテット
3 フォア・イン・ワン(Live At The Blackhawk, San Francisco, USA / 1962 / Take 2) / セロニアス・モンク・カルテット
4 エピストロフィー / セロニアス・モンク・セプテット
5 アイ・ミーン・ユー(テイク4) / セロニアス・モンク,ジェリー・マリガン
6 ブリリアント・コーナーズ
7 ブルー・モンク / セロニアス・モンク・トリオ
8 ハンフ
9 ベムシャ・スウィング
10 オフ・マイナー(テイク4)
11 イントロスペクション
12 リトル・ルーティ・トゥーティ(Album Version) / セロニアス・モンク・トリオ
13 スキッピー
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- モンク・スタディーズ山中千尋
- 山中千尋が敬愛するジャズ・ピアニストで、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンなどと並び、ジャズの歴史における偉大なミュージシャン、セロニアス・モンク生誕100周年を記念したオマージュ・アルバム。山中自身が以前より温めていたセロニアス・モンクの再解釈というアイデアを実現できるリズム・セクションと共演する機会を得たことにより、このプロジェクトが始動。そのリズム・セクションには、ドラマーにマーズ・ヴォルタやフライング・ロータスのドラマーとしてや、サンダーキャットの最新作に参加し注目を浴びている元祖・人力ドラム・マシーン、ディーント二・パークス、ベースにはアメリカのレジェンダリー・ヒップホップ・グループ、ザ・ルーツのレギュラー・ベーシスト、マーク・ケリーといった、エクスペリメンタル・ジャズの最先端ともいえるミュージシャンが参加。ジャズの新たな未来へと挑戦する、エッジの効いた野心作となっている。山中自身の作曲によるオリジナル曲も3曲収録。初回限定盤はレコーディング・スタジオで撮影された楽曲3曲を収録したDVD付。さらに7月26日にはこのアルバムのアナログ盤リリース!
- 1 ハートブレイク・ヒル (Chihiro Yamanaka)
2 パノニカ(Thelonious Monk)
3 ノーバディ・ノウズ~ミステリオーソ(Chihiro Yamanaka / Thelonious Monk)
4 ニュー・デイズ、ニュー・ウェイズ(Chihiro Yamanaka)
5 イン・ウォークト・バド(Thelonious Monk)
6 リズマニング(Thelonious Monk)
7 ルビー、マイ・ディア (Thelonious Monk)
8 クリス・クロス(Thelonious Monk)
9 ハッケンサック(Thelonious Monk)
10 アバイド・ウィズ・ミー (Traditional)
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