featuring Kobe Jazz People

[BIGインタビュー]ジャズ・ジャイアンツが語る、数々の出会い、そして音楽の魅力とは

今年6月、ボブ・ミンツァー・ビッグバンドが来日しました。その際、トロンボーンのマイケル・デイヴィスからピーター・アースキンのインタビューを録画してほしい、というオファーがありました。これに併せて私も同席、2人の会話の一部を日本語訳することになりました。多少落ちてしまったところや誤訳があるかもしれませんが、私がアメリカで見聞きしてきたたくさんのクリニックやワークショップと比較しても、内容的に最も素晴らしいものだったと感じました。by 辰巳哲也
※このインタビューの映像はマイケル氏のサイトに9月1日アップされます。そちらも併せてご覧ください。

person

ピーター・アースキン

ドラム奏者。スタン・ケントン、メイナード・ファーガソン楽団を経て、ウェザー・リポートやジャコ・パストリアス・ビッグバンド、ステップス・アヘッド等で活躍。数々の名盤に参加し、自身のアルバムも多数。ストレート・アヘッドなジャズからフュージョン、ロック&ポップスのレコーディングまで幅広く活動を続けるドラム界の巨匠。昨年はジャコ・パストリアス・ビッグバンド、今年はボブ・ミンツァー・ビッグバンドでの来日を果たし、キレのある歌心あふれるドラミングでその健在ぶりを日本のファンに印象づけた。

マイケル・デイビス

トロンボーン奏者。フランク・シナトラ、ローリング・ストーンズ、ポール・サイモン、トニー・ベネット、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリン、スティング、バディ・リッチらのツアーや録音に参加。現在自身のレーベル「Hip-Bone Music」を立ち上げ、アルバム制作・教則本発行など精力的に活動。今年6月、ボブ・ミンツァー・ビッグバンドの一員として来日。滞在中、クリニックを開催し好評を博す。

辰巳哲也

トランペッター。都内を中心に数々のセッションや自己名義のオクテッド、ビッグバンド等を率いて活動。内外ミュージシャンとの親交が厚く、トム・ハレル、スコット・リーブス、カール・サンダースらを招聘し共演。ジャズトランペット、ビッグバンドに造詣が深い。

interview


S・ケントン、M・ファーガソンなどビッグバンドで学んだこと

Michael Davis(以下M):今回我々は東京でボブ・ミンツァー・ビッグバンドで来ているのですが、ジャズ史上有数の名手であるピーターと共演できることは私にとってもとても素晴らしいことだと思っています。まずは幼少時代のことをうかがってもよろしいですか?

Peter Erskine(以下P):私はニュージャージー州育ちで5歳の時にドラムを始めたんですが、7歳の時に隣のインディアナ州でスタン・ケントンのサマー・ジャズ・キャンプがあって、かなり遠い場所だったんだけど、両親が連れて行ってくれたんです。そこで、将来のボスになるスタン・ケントンに会いました。そこにはもう一人の将来のボスであるジョー・ザヴィヌルも来ていました。彼がキャノンボール・アダレイのバンドにいた頃の話です。中学・高校の頃にはクラシカルなトレーニングもしていました。ドラムのほうがはるかに好きだったけどね。で、1年飛び級して17歳の時にカレッジでデビット・ベイカーのバンドにいた頃、ケントンからオーディションの電話をもらったので、学校を休学し、彼のもとで叩くようになったんです。

M:それはすごい。ケントンの後ファーガソンに移りましたね?その頃はどんな感じでしたか?

P:ケントンバンドは年末年始の2週間以外はずっとツアーで、バス以外に生活の場所がないという感じだったね。若かったから全然気にしなかったけど。キミもバディ(リッチ)のバンドで同じような生活したでしょ? で、たまたまエレベーターの中でスタンと一緒になって、『そう言えばギャラの話してなかったよね?いくら欲しい?』なんて言われたりね(笑)。ケントンバンドでそんな3年を過ごしてから大学に復学して、卒業するちょっと前にメイナードから電話をもらったんだよ。卒業のことがあったので最終的に引き受けるまで3回ほど電話をもらってたんだけど、引き受けた最初のギグで叩いた時、あまりにも楽しくて学校のことなんか忘れちゃいそうだったね。メイナードのところで2年叩いてからウェザー・リポートのギグに参加することになるんだけどね。

M:バディ・リッチ、ルイ・ベルソン、メル・ルイスなどドラマーがリーダーのビッグバンドはたくさんあります。でも、私は特にあなたと一緒に演奏できることに至上の喜びを感じます。タイムの素晴らしさ、音楽家としてのセンス、ダイナミクスのコントロールも含めた音楽のエナジーのコントロールなど、本当に素晴らしい経験なのです。私は管楽器奏者なので、どうしてもブラス関係の話になりがちなのですが、あなたのビッグバンドでのアプローチやスモールバンドでのアプローチについての一般的なアイディアというか、考え方みたいなことをシェアしたいのですが?

P:参加してきたどのバンドも素晴らしかったし、ビッグバンドで演奏することは楽しかった。若かった頃はドラマーとしてやるべきこと、演奏すべきことについて前もって研究し、準備してきましたが、経験を積み重ねて、自分なりに自信もついてくるにしたがって、演奏しているときに自分を解放するような感覚ができてきました。『制約された自由』って言うのかな[訳者註:ピーターはControll Freeという言葉を使いました。かつてハービー・ハンコックがマイルスバンドを回顧した時にもControlled Freedomって言ってたのと似てるかもしれません]。ドラムっていう楽器は、ダイナミクスをはじめバンドの方向をコントロールしています。昨日のボブ・ミンツァー・ビッグバンドの演奏でも結構面白いことになってたよね。それってとても楽しいことで、ドラムっていうのはほとんど即興でリズムを出しているわけだけど、レゴのブロックを組み立てたり、3Dアートをリアルタイムでいじったりするのに似てるんですよね。叩きながら管楽器とユニゾンして並行的に行ったり、対位法的に絡んだり。このバンドでやってる『Berimbau』なんかでもそういうアプローチをしたりしてね。こういったことに気づかせてくれたのはケントン時代、彼のバンドに沢山のアレンジを書いたジーン・ローランドだったんだよ。それまではビッグバンドのドラミングは、例えて言えばサーカスドラマーみたいなイメージだったんだけど、ジーンのアドバイスはとても衝撃的で、それからメル・ルイスやニック・セロリのようなプレイスタイルの凄さに気が付いたんだ。バンドの管楽器などのセクションはきっちり譜面を吹いて、メルは残りの部分を埋めているだけなんだ。無駄なことはしていない。スペースが十分にあることで音楽が活きていて、すごい、と。例えばボブの曲でブラジリアンファンク的なものであってもそういう発想はすごく活きるんですよ。

M:それは素晴らしい。ドラムを叩きながらアレンジされたフレージングに対して対位法的なアプローチで絡んだりもするわけですね。

P:そうなんです。ドラムも同じなんです。


「常に作曲しながら演奏すること」ジョー・ザヴィヌルの教え

M:ではウェザー・リポート(以下WR)の話を。ジャコとの出会いは?

P:ジャコとのきっかけはトランぺッターのロン・トゥーリーなんですよ。メイナード時代のバンド仲間なんだけど。彼はジャコの最初のアルバムにも参加してるんだけど、彼が私のことを『いいドラムがいるんだ。見に来いよ』って電話で紹介してくれて、それからWRに誘われたんです。忘れもしない34年前の6月19日。WRの東京のライブで記者会見したんだけど、そのときはまだこのバンドで叩いてなかったんです。日本はケントンとファーガソンで来たことはありましたが、事前情報がなくて私には質問はまったくなかった。で、あるリポーターが、『ピーターさんはケントンなどのビッグバンドのドラマーというイメージですが、WRではどんな風に演奏されますか?』という質問を投げて来たんです。で、私は『こういう機会をくれた神様に感謝します』という紋切り型なことをまず言って『いい音楽はフォーマットに関わらず、いい音楽だから』って言ってたら横からザヴィヌルがマイクを奪って『WRはビッグバンドだよ。みてくれはスモールバンドだけどね。はい、次』って(笑)。実際WRは非常にアンサンブルを重視したバンドで、ジョーが私に語ってくれたのは、「常に作曲しながら演奏すること “Always compose when you play”」でした。WRのトリックはアンサンブルオリエンテッドな中に随時即興を織り込むことで、聴衆に「どうなっちゃうんだろう?」っていう混乱した感覚を与えるようなところにあって、その感じはビッグバンドのドラミングとも通じる部分があるなぁ、と。それは例えて言うと、オモチャなんかでもどれくらい力を入れたりいじったりすると、どんなハプニングがあるか、みたいなのがあるでしょ。ああいう感じ。WRは素晴らしい経験だった。WRのメンバーは実は全員ビッグバンド出身なんですよ。ジャコもだし、ウェインとジョーはファーガソンで一緒だった。誰も私のドラムのスタイルについて悪く言わなかったし、むしろビッグバンド的、50年代のケントン的なアプローチはみんな気に入ってた。
じゃあなんでビッグバンドなんだろうかって?
今も昔も我々は音楽教育の現場でまずそのスタイルから学ぶからです。もちろん数多くのプロのビッグバンドもありますが、我々はビッグバンドで『音楽的チームワーク』を学ぶんです。フレージングから何から多くのことをね。そこで学ぶことはデュオからシンフォニーオーケストラまで、どんなフォーマットでも有益なんです。私にとってビッグバンドはアンサンブルのスタイルを学ぶ場所でした。もちろんピアノトリオみたいな小さなフォーマットも大好きですが、そういうスタイルが好きになればなるほど、同時にビッグバンドでの満足感が忘れられなくなる、っていうのかな。

M:WRでは5枚のアルバムを残しましたね。その中で印象深い曲はありますか?

P: (即答)ウェインの書いた”Sight Seeing”。8:30に収録されてる曲。スタジオバージョン。WRの曲でいい曲なんだけど、うーん、なんていうのかな、何かに捧げてる、って感じ[訳者註:音楽に取り憑かれて途方もないものができた感じ、という印象]。そのころもいろいろな音楽を録音したけど、これは別格なんです。

M:WR脱退後にニューヨークに残ってマイケル・ブレッカーやマイク・マイニエリやドン・グロルニックなどとステップス・アヘッドなどの仕事をしましたね。この時代の思い出話などは?

P:彼らと仕事をしたことも私には大きな財産になったね。マイケル・ブレッカーは素晴らしかったしジャコとも時々仕事をしてた。ジャコはエキサイティングなワイルドカードみたいな存在だったしね。病んじゃう前まではね。
それにランディ・ブレッカー。あ、そうだ、私とボブ・ミンツァーはハイスクール時代の1969年からの仲間なんだよ。

M:高校時代の有名なツーショットの写真がありますよね。ボブがベース弾いてる.....

P:そうそう。NY時代は色々なミュージシャンと入れ替わり立ち替わりみたいな感じだったけど、エディ・ゴメスとは大親友になったなぁ。ドン(・グロルニック)の後にウォーレン・バーンハートが来て、トム・ケネディ、ヴィクター・ベイリー……。最後には自分もNYを離れてカリフォルニアに移ったんだけど、NYではジョン・アバークロンビーとも色々やったんだけど、キーボードなしでアレンジ的な決め事もナシで、そういう音楽をやることもすごく自分のためになった。決め事の中でやっていると、クリシェっていうか手癖的なものがどうしても出てくる。手癖ってのは筋肉の反射的な記憶みたいなものでね。でも、アレンジの制約のない中なので意図的に手癖を排除することですごくクリエイティブになれた。アバークロンビーのところで得たものって『意図的に仕掛ける』[訳者註:intendという言葉を使う]みたいなものに関係してるんじゃないかな。止めちゃうと「間違った!」っていう感覚になるけど、音楽としてはグルーヴの感覚は継続しているでしょう?ジョンが気が付かせてくれたのはそういう感覚。ジョー(・ザヴィヌル)もそういうことについていろいろ考えていたんだけど、どうすればいいかっていうところは説明できていなかったように感じるなぁ。


「僕が今思う音楽へのアプローチ」

M:あなたのバイオグラフィーを見ているとその膨大で幅広い共演者に驚かされます。フレディ・ハバード、パット・メセニー、ジョニ・ミッチェル、スティーリー・ダン、ロンドンシンフォニーオーケストラ、ジョー・ヘンダーソン、イエロージャケッツなどなど。どんなスタイルでもこなしてしまう柔軟性は素晴らしいの一言なのですが、そうした様々なスタイルの音楽に対するアプローチについての考えなどはどうなんでしょう?

P:まずそれは自分が今まで聴いてきた、影響された音楽との繋がりがあると思います。アート・ブレイキー、ビバップ、ビートルズ、ジェイムス・ブラウン、学生の頃に勉強したクラシック音楽にある繊細さ、そうしたものが『私』の中で渾然一体となっているんです。音楽には様々な独特な方言[訳者註:ピーターはdiarectsという単語を使った]があります。例えばオスカー・ピーターソン的なスタイルのピアノトリオだと最初のうちはどう受けていいのか分からないようなこともあるだろうし、私の叩くファンクビートは偉大なファンクドラマーみたいに完全にドンピシャ(in the pocket)ではなく、微妙にスインググルーヴの影響のあるものになっています。そういう意味では私は全部のスタイルを完全に叩ける、というドラマーではないと思っています。

M:もちろん我々は学校などで技術的なことなどもたくさん学んでいますが、それでもなお、音楽の流れの中での即興的なリアクション、マジカルな瞬間みたいなことが起きたりしますよね。こういうことについて何か考えみたいなものはありますか?

P:ジャコが割とフリーなセッションの時によく言ってた言葉があってね。『あんまり考えすぎるな。音に集中しろ。よく聴け』って。あとは、例えば、俳優さんが流れの中でめちゃめちゃ怒ってて、見てるこっちも怒ってるなぁ、って見てると実は演技で全然違ったり、とかあるでしょ。今回の演奏でも、ソフトに積み上げたアンサンブルをやっている時に突然トランペットがラウドにブロウし始めたりすると、そこで感情的な大きな動きが起きることによって、更に音楽が変化していくようなこともある。そうしたエモーショナルな抑揚なんていうのも大事なのではないかなぁ、と。感情的な変化を引き出すっていうのかな。

M:あなたはドラマーとしてだけでなく、プロデューサー、コンポーザーとしても素晴らしい才能をお持ちですが、作曲に当たって意識していることはありますか?

P:大抵の曲はCのキーで考える(笑)。私はドラマーですが、シンプルなメロディは好きですね。
これは私からのアドバイスですが、もしあなたが学生なのであれば『対位法を勉強しなさい』というでしょう。ピアノの弾き方、低音譜も高音譜もちゃんと読めて、オーケストレーションも出来て、コード分析もできること。もし私が学生に戻れるならば対位法を勉強します。なぜなら対位法こそが全ての音楽の大きなヒミツだと思うからです。ミンツァーもヴィンス・メンドーサも対位法のマスターです。そういえばこの間妻とディズニーランドに行ったんだけど、そこでWhen you wish upon a starが流れて来て、ホルンのカウンターのメロディが素晴らしくて鳥肌立っちゃったんだよね。まさしく対位法の魅力。私は正式には習っていないんだけれど、ドラムを叩くときにも常にこのことは考えてるよ。

取材協力・文責・対談撮影:BIGBAND!編集部/ライブ写真撮影:佐藤拓央
※本インタビューの著作権はすべてHIP-BONEMUSICに属するものです。