HIROFUMI OKAMOTO / Guitarist
旅が好きで、海が好きで。
京都を拠点に、内外を問わず精力的に活躍するギタリスト・岡本博文さん。
前作『Grand Blue』に続いて、海と旅にまつわる人間ドラマをテーマとした最新作『You Are My Sunshine』をリリースしたばかりの岡本さんに、旅のこと、海のこと、そしてもちろんご自身の音楽のこと、たくさんのお話をうかがいました。
person
ギタリスト
岡本博文さん
1960年生まれ、京都在住。ジャズギタリストとしてスタートしながらも、幅広いジャンルで活躍。エレクトリック&アコースティックとも、内外で高い評価を得ている。
代表作にアコースティックギターを全面に押し出した村上ポンタ秀一プロデュースの『Jawango』、エレクトリックを中心にした自身のバンドOkamoto Islandを率いた『Grand Blue』がある。2008年には、赤木りえ(フルート)のプエルトリコツアーにも参加。現在もOkamoto Islandを始め数々のユニットで活躍中。
岡本博文 Official Website
interview
ギターとの出会い、ジャズとの出会い。
「高校頃まではフォークギターばかり弾いていました。でもその頃の仲間がジャズがいいぞ、と教えてくれて高校三年生のときに渡辺香津美さんのライブを観たんです。さだまさし好きだったその友人はアレンジャーとして活躍していますが、それをきっかけにしてジャズとかフュージョンっぽいギターを弾くようになったんです。
ちょうど大学二年のときに宝塚ジャズフェスティバルというイベントがあって、そこで「最優秀ギタリスト」賞をいただいちゃったんですね。で、まあそれでかなりいい気になっちゃいまして(笑)。ただ在学中にデビューするつもりだったのにうまくいかなかった。もうギターを辞めようと思って…、就職してフツーの社会人として生きることにしました。一度は、ね。
会社員として暮らして丸三年ほどだったでしょうか、その間はまったくギターを弾きませんでした。でもちょうどその頃、同年代のミュージシャンたちが次々にデビューしたんです。おりしもその時、つきあっていたカノジョにもフラれまして(笑)。もう一回ギタリストとしてがんばろうと、まあそう思って会社を辞めまして…。」
出会いの連続が切り開いてくれたプロの道。
ジャズ喫茶「RAG」が北山にあった頃から常連だったんですが、京都に戻って、またよく通うにようになりました。そしてある時、ひょんなことから渡辺香津美さんや東原力哉さん、清水コウさんなど錚々たるメンバーのライブに参加することになったんです。それがきっかけで人脈が爆発的に拡がりまして。まあそんなこんなでパーカッションのヤヒロトモヒロ君とも知り合いました。なんというか「わらしべ長者」的に(笑)プロの道を歩けるようになったんです。
なぜか海外のミュージシャンとも縁があって、ホルヘ・クンボという南米でもっとも優れたケーナプレイヤーの足かけ二年に渡るジャパンツアーにもヤヒロ君とともに参加しました。赤木りえさんとのプエルトリコツアーも思い出深いです。ベテランエンジニア・デビッド・ベイカーとの出会いも、今の僕の音楽には欠くことができません。」
ようやく見つけた僕の音楽。
「ずいぶん長いあいだ、ジョン・マクラフリンみたいにアバンギャルドなものが好きでした。でもその頃、「どんな音楽をやってるの?」と聞かれて「いやー、僕の音楽はマニアックだから…」なんて答えるのがとても嫌になってきていたんです。誰にでも「聴きに来てよ!」っていいたくなった。そんな音楽をやりたくなったんですね。「岡本はバラードがうまいんだからもっとバラードやりなよ」っていわれていたこともあって…。
デビッド・ベイカーにもたくさんのことを教えられました。彼はマイルス・デイビスとも関わりの深いエンジニアなんですが、彼にあるときこんこんと説教されたんです。
「有名ミュージシャンと共演して喜んでたらアカン。仮に無名でも、お互いにリスペクトできるミュージシャンと、曲の最初の4小節をエンエンと練習するんや。朝から晩まで。それがバンドや、それがニューヨークスタイルなんやで」とね。いや、もちろん英語で、ですけど(笑)。
理屈や流行がどうであっても、何をやっても出てきてしまうが僕の音楽のはず。理屈で考えたカッコよさよりも素直にやることをめざしてみよう、と思うようになったんです。
そんな気持ちと、結婚後に家内と始めたダイビングがつながって「海」というテーマを見つけました。
すると、その瞬間にパキッと視点が定まったような気がしました。自分の心から生まれた音楽であれば、どんなものでもそれが自分の音楽なんだということに気がついたといったらいいでしょうか。」
海と旅と人と…。
「荷物運んでいるときもチェックインするときも、離陸を待っているときも、もちろん目的地の空港に降り立ったときも好きなんですよね。リゾートに向かうときの浮き立つような気持ち。知り合った人と交わすお酒。こんにちはとさよならのドラマ、人がいてこそのドラマ…。
そんなことを感じるようになって、音楽に魂が入るようになったような気がするんです。「海」というテーマを見つけたからこそアコースティックギターが弾けたんじゃないかな、とも思います。
僕にとってアコースティックギターは「風」。水面がキラキラする光。裸足で砂浜を歩くときの砂の感触。僕のアルバムを聴いてもらったとき、もしそんな風が吹いたら、音楽として大成功と思います。
それに対してエレクトリックは「メロディー」。こちらは僕にとっての「歌」です。人が歌う歌というものの力。ギターにはどうしても越えられない力があるような気がしまして…。アドリブやら技巧をヌキにしてもメロディーを弾くだけでいいものにならなきゃダメじゃないかと思っています。
そんな思い入れがあるものですから、今回のレコーディングでは桑名晴子さんにもたいへんたいへんご迷惑をおかけしました(笑)。まあそのおかげでスタッフの総合力みたいなものが出せたとは思うんですが。
レコーディングを通して、人と向き合って、世界と関わって、アクションがあってレスポンスがあって…ということの中にしか自分という存在はないんだな、と思うようにもなりました。
僕の音楽はフュージョンというよりエレクトリック・ジャズと思っています。あらゆる要素を取り入れていかなきゃ自分の音楽は成り立たないように感じています。その要素のひとつが、海であり旅であり…なんですが。一方で、ミュージックシーンの中での自分のポジションを求めるために何かをしようという気持ちはとても希薄になりました。」
光と風があふれるOkamoto Islandのお土産。
「このアルバムが新たなスタートラインといっていいかもしれませんね。
なるべく生々しい音、リバーブは少な目に…というのが音づくりのコンセプトでした。でも透明感を失わないような音づくりには苦労しましたね(笑)。
ミュージシャンとしては、「このギター一本!」というシンボルみたいなのがある人が好きなんです。その点でエンジニアには苦労をかけたんですが(笑)、探し回ってようやく見つけたこのストラトキャスターの音をぜひ聴いてください。
ハッピーなアルバムでありながら、心のどこかで号泣しているような、そんなアルバムになってるといいなと思います。いい気になっていいますけど(笑)これは最高傑作です!ぜひじっくり聴いて、音楽もその残り香も、存分に楽しんでいただきたいと思います。」
ー最新作『You Are My Sunshine』をリリースして、もう次の旅に出かけるためにスーツケースを開けているかのような岡本さん。今度の旅のお土産もとても楽しみです。ありがとうございました!



特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People