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Jazz People

Focus on Challengers Vol.4 中山拓海 インタビュー
~周囲を巻き込み、明るく照らしていく、ジャズ界のニュースター~

20代のジャズミュージシャンにスポットを当てるインタビュー企画「Focus on Challengers」。今回は2019年12月にキングインターナショナルより日本人初のメジャーデビューを果たすなど、注目度が高まっているサックスプレイヤー、中山拓海さんの登場です。プレイヤーとしてだけでなく、今まで様々なイベントを企画主導し、ジャズシーンの新たな潮流を生み出している彼のこれまでや今後の活動に迫ってみました。

Person

中山拓海

1992年静岡県富士市生まれ。
国立音楽大学を首席で卒業。大学時代、早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラに在籍し山野ビッグバンド・ジャズ・コンテスト最優秀賞を2年連続受賞、並びに最優秀ソリスト賞受賞。多国籍ジャズ・オーケストラAsian Youth Jazz Orchestraにてコンサートマスターを務めアジア六カ国でツアーを行う。アゼルバイジャン共和国バクージャズフェスティバルに自身のバンドで出演など国外にも活動の幅を広げる。2019年CD"たくみの悪巧み"でキングインターナショナルよりメジャーデビュー。ジャズ国内アーティストとしてキングインターナショナルからのリリースは史上初。学習院大学スカイサウンズオーケストラ講師。

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Interview

取材・文:小島良太(ジャズライター/ジャズフリーペーパー VOYAGE編集長)

お父さんの策略!?突き進むジャズへの道

── まずはジャズとの出会いから教えてください。

両親が大の音楽好きで、父は趣味でエレキベースを弾いていて、マーカス・ミラーが大好きなんです。私が小6くらいの時に父が図書館でチェット・ベイカーのCDを借りてきたんです。当時情報があまりにも無さすぎて、「チェット・ベイカー」ってバンド名だと思っていました、「ビートルズ」みたいな感じで(笑)。それこそボーカルとトランペットが同じ人というのもわからなかったくらいです。でも、何かよくわからないけどハマったんですよ。それがジャズに触れた原体験かなぁ。
※チェット・ベイカー:アメリカのトランペット奏者。ヴォーカリストでもある。

── サックスを始めたキッカケは?

中学の吹奏楽部からアルトサックスを始めました。アルトサックスに興味を持ったキッカケは、小学校6年の時に新しく赴任してきた先生がサックスを特技とされていたんです。先生が赴任の自己紹介の時にサックスを演奏されたんですよ。その着任式の進行役を私が任されていて、事前にその先生に特技などを聞いたりして、早くから先生と仲良くなった事もサックスに興味を持った一つですね。あと、姉の友達のお父さんもサックスをされていて、本当に身近に多かったんです。そういうのもあって、吹奏楽部に入ってサックスをやりたかったんです。先輩達も私を入部させたいから、「うまいね、天才だね」と乗せてきて(笑)。

── ほぼ同時期に東京の石森楽器店でもレッスンに通い始められましたね。

東京にある石森管楽器店へサックスを購入しに父親と行ったんですが、今考えれば、これは父親の策略かなと(笑)。それはなぜかというと、そのお店にマーカス・ミラーのサインがあるのを見たいから、わざわざ静岡から東京まで行ったのではとないかと思います。その後のサックスの調整でもたびたび東京まで行ったのですが、それって静岡でも出来る事なのに(笑)。石森管楽器店さんのレッスンでは山中良之さんに習ったのですが、山中さんだけレッスン専用の部屋を持っていらっしゃって、これは特別なんじゃないか!?と思って、中1から習い始めたんです。それとほぼ同じ頃に地元静岡のジャズライブハウス、「ケルン」に吹奏楽部のサックスの講師をされていた方がライブ出演されていて、聴きに行ったんです。で、そこから「ケルン」に通うようになって。最初は周りの環境からというのもありましたが、途中から自分で進んで、どんどんジャズの世界にのめり込んで行きましたね。その後、私が進学する国立音大の先輩である中嶋英乃さん(アルトサックス)や、東京から来られていた林栄一さん(アルトサックス )などのライブも強く印象に残っています。ライブ後のアフターセッションなどに参加しながら、ジャズミュージシャンって格好良いなぁ!と憧れるようになりました。中2の時点でプロになろうと決心したんですよ。

── は、早い!!


山野ビッグバンドコンテスト、早稲田ハイソサエティ・オーケストラで二連覇!

── 大学ビッグバンドの祭典、「山野ビッグバンドコンテスト」にて、早稲田ハイソサエティ・オーケストラで二連覇された事は中山さんの大学生活でも大きい出来事だったと思うんですが、その時の事を振り返っていただけますか。

国立音大に進学しますが、ジャズ研に関して最初は早稲田大学のダンモ(早稲田モダンジャズ研究会)に参加していました。2年生の時に同じダンモに在籍していた同期から、今年のハイソがピンチなので、ぜひ助っ人で来て欲しいと声をかけてもらって。当時のハイソがちょうど代替わりになった頃で苦しい状況だったんです。既に5位以内なら狙えるかな、という力はあったのですが、当時は国立音大ニュータイドジャズオーケストラが6連覇していたので、それをなんとか倒そう!絶対優勝!というのが目標でした。しかし準備期間が短いのも影響して、最初に参加した年は4位だったんです。まぁ準備期間が短い中、ビッグバンドでジョン・コルトレーンの「至上の愛」をやったのによく4位だったと思いますが(笑)。でも、その時に優勝を逃したのがよかったのかもしれません。当初は参加した最初の年に優勝して、そのままバンドから抜ける予定だったのですが、優勝できなかったのが自分もすごく悔しくて、バンドの勢いも山野の前と変わらない熱いモチベーションを保てていたので、来年こそは優勝する!と燃えましたね。その年の群馬県太田市の冬のジャズフェスティバルで優勝もできて着実に力をつけて、来年こそはハイソが山野優勝だと周りからも期待されたんですが、翌年まさかの国立ニュータイド出場辞退で…(笑)。結局、結果はわからずじまいでしたが、もし国立が出ていても勝てたんじゃないかなぁと思います。とはいえ、その年と翌年2連覇できたのはとても嬉しかったです。それと各大会、イベントの趣旨に沿うように選曲の趣向を変えて臨んだので、その時の経験が自分の音楽性の幅を広げてくれたと思います。

── その後、卒業されてから遂にプロミュージシャンとしてデビューされて、実際に苦労した事、難しいと感じた事はありますか?

基本的に周りに恵まれているので、自分にとってストレスがかかることはやらずに出来ているかもしれません。私の考えとしては、音楽家として、どんな場でも自分が出せる場面にいたいという思いが強くあります。いちサックスプレイヤー、ではなく、「中山拓海」として表現できるようにしていきたいと思っています。ミュージシャンとして、そうでないと音楽自体がとても窮屈なものになってしまうし。やりたい事がやれる所か、とりあえずまずは行ってみて判断しますけど(笑)。


待望のファーストアルバム「たくみの悪巧み」について

── 2019年12月に遂にアルバムをリリースされました。メジャーレーベルのキングインターナショナルからのリリースというのもあり、注目されていますね。

イベントプロデュースなどがここ数年忙しい事もありましたが、近年は自分の活動メインにシフトしています。自分自身の知名度をアップさせると、そういったイベントの企画も動きやすくなるのもありますし。いざアルバムを作るとなって、どの形で出そうと考えて、やはり4年ほどメインのプロジェクトとして活動している「たくみの悪巧み」で出そうと決めました。アルバムの中でストーリーを表現できたと思いますが、それはライブの進行を意識して作ったからというのもあります。ライブしていく中で厳選されたセットリストを収録曲にしたイメージですね。アルバムのサウンドバランスも狙っていたわけではないのに、凄く良いバランスになりました。各メンバーお互いが気にならない、無関心ではないけど、心許しているからこその良い関係がサウンドに現れていると思います。小曽根真さんがおっしゃっていて印象に残っているのが、「ジャズは融合ではなくて、共存」という言葉です。本当その通りだと思いますし、私の目指し続けるテーマでもあります。そういった想いも自然と作品に込められているかもしれません。また、リリースしたことによって、圧倒的に露出が増えました。メディアへの見せ方をこだわっているので、世に発信できる引き出しが増えたのは大きいですね。一つ一つの発信を小出しにしながらできますし(笑)。ライブになかなか来ることができない方もこういったリリースがキッカケでまたライブに足を運んでもらえるかもしれないし。今回のアルバムリリースで今まで撒いてきた種が実ってきたような気がします。


2020年に初開催!画期的な大学生のコンボイベント、「COMBO JAZZ CRUISING FESTIVAL」

── 6月に中山さん主導で開催される、「COMBO JAZZ CRUISING FESTIVAL」、とても画期的なイベントだと思います。開催の経緯を教えてください。

いくつか考えている大きな問題意識の一つとして、ジャズミュージシャンとスタジオミュージシャンの間に隔たりがあるという事です。アメリカに短期間ですが何度か行ったうちの一つ、グラミーキャンプに参加した際、「アース,ウィンド&ファイアー」や「タワー・オブ・パワー」などに参加していたトランペッターのレスリー・ドレイトンが先生で、当時レスリーに「君は知っている事をやっているだけで即興じゃない、君が感じている事を吹いてみて。」と言われたんです。レスリーが試しに見本で吹いてくれたのがもうとにかくジャズで。彼はどんなスタイルでも何でも完璧に吹けて、衝撃でした。その時の経験も含めて、現状の日本のジャズシーン、特に学生ジャズシーンは難しい状態にあるとさらに痛感したんです。ソロを吹ける人が少ない、譜面通りにしか吹けない人がとても多く感じて。ビッグバンドの指導をしている時にもよく感じていたんです。その問題に関して、似たように危機意識を感じていた日本在住のドラマー、スコット・レイサムさんによる発案で共に企画しています。今回のコンテストには関東だけでなく、全国から是非応募して参加してほしいですね(コンテストの詳細はこちら→ https://combojazzcruising.wixsite.com/home)また、このコンテストだけでなく、学生達の生活の中にジャズをどれだけ落とし込めるか、ライブの場に足を運んでもらえるようになるか、我々をもっと身近な存在にしていく事、例えば高校に指導しに行くとか、そういう事を考えるのもジャズの裾野の広げ方として大事な事だと思っています。

── 自身のミュージシャンとしての活動はもちろん、ジャズシーン全体に常に問題意識を持って、より良い方向にすべく奮闘する中山さん。中山さんの生み出す音楽、そして活動を我々ジャズファンが見聞きする事が「令和」という新時代に増えていくのは今後間違いありません。これからの彼の「企み」に注目すると日本のジャズシーンの進むべき方向が見えてきそうです。