WATANABE TSUTOMU / Satindoll Kobe Owner
神戸ジャズの応援団、神戸ジャズCITY委員会。
中山手通に面した老舗ジャズクラブ「サテンドール」。
連日選りすぐりのミュージシャンによるライブが繰り広げられ、同時にフランス料理やお酒も楽しめるとあって、遠路はるばる訪れるジャズファンも多いお店です。そのオーナーとして多忙な日々をおくる渡邊さんですが、今回のKOBE JAZZ PEOPLEでは、自ら事務局長を務める「神戸ジャズ CITY委員会」と「スインギングナイツ in KOBE 2008 キャンペーン」を中心にお話をうかがいました。
person
神戸ジャズCITY委員会事務局長サテンドール神戸
渡邊つとむさん
神戸市出身。15年前からサテンドール神戸を引き継ぎ現在に至る。ジャズクラブのオーナーとしてだけでなく、ジャズに関わる様々な企画・番組製作など、プロデューサー的な側面も神戸ジャズファンには広く知られているところ。
神戸ジャズCITY WebSiteサテンドール神戸 WebSite
interview
サテンドールのオーナーとしては、渡邊さんは三代目。
先のオーナーは渡邊さんの叔父にあたる方なのだとか。そんな環境で育った渡邊さんにとって、ジャズと出会いは当然で、しかもとても自然な事だったのでしょう。
「まだ幼稚園の頃から、アート・ペッパーやレイ・ブラウン、アート・ブレイキーみたいなビッグネームのライブに連れていってもらってました。そのまま大きくなってずっとジャズを聴いてましたし、サテンドール神戸を引き継いでからももちろんジャズ。だから僕にとっては『音楽イコールJAZZ』、いまだに他の音楽はよく知らなくて(笑)。僕にとって音楽といえば、ジャズ以外ないんです。」
きっかけは風の丘から…
「神戸ジャズCITY委員会設立のもとになったのは、布引ハーブ園で行った野外ライブでした。なんとか神戸のジャズをもっとアピールしたかったんですね。震災のときにいろんな形で協力・応援してくれた人にお礼がしたいとか…、自信をなくした神戸の街を盛り上げたいという気持ちもありました。『地震の後で自信をなくした』なんて、今では笑い話みたいですけど(笑)。

ただ、お店単位ではできることにも限界がある。そう考えて、神戸市役所の都市整備公団(当時)に企画を持ち込み、市の協力を得てようやく実現できました。ところがこれが予想以上の成功になったんです。
お客様のなかには、それまでジャズなんか聴いたこともないという方もたくさんいらしたと思うんですよね。でも、ミュージシャンの素晴らしい演奏とお客様の熱い反応で素晴らしいコンサートになりました。

名付けて『風の丘コンサート』、これを各新聞が取り上げて記事にしてくれたこともあって、広く知られるようになりました。一日に200人以上の方が、わざわざこのコンサートを聴きにきてくださったんです。来場されたお客様から、『楽しいコンサートをありがとう!』とか『初めてジャズの生演奏を聴いて感動しました』なんて、たくさんの手紙をいただいたことも嬉しい思い出ですねえ。
あしかけ3年でしたか、春と秋だけとは言いながら、毎週コンサートを開いていくのはかなりしんどいことでしたが、お客様の笑顔と友人・知人に支えられてなんとか続けることができました。

その後メディアの取材も増え、新しくトアロードに開局したNHKでも神戸発信の番組製作のお手伝いをすることになりました。番組内でもライブ演奏のコーナーがあり、ここでもジャズファン以外のお客様の反応がとてもよかったんです。
風の丘コンサートや、この番組(『カフェ・トアステーション』)を通じての『ジャズを聴いて喜んでくれるのは、ジャズファンだけではない』、この発見は僕にとっても新鮮な驚きでしたし、とても勇気づけられました」
いよいよイメージを形に。
「そんな経験をしていく中で、もっと『神戸発』で発信していきたい、盛り上げていきたい、そう思うようになったんです。
神戸は日本のジャズ発祥の地。僕がやるならやはりジャズです。そして2003年、「神戸ジャズCITY委員会」を設立しました。
考えてみれば、この年は、日本初のジャズバンド「ラッフィング・スターズ」が結成されて80周年にあたる年でもありました」

その後、神戸ジャズCITY委員会は、神戸役所・シティホールや六甲山牧場でのコンサートなど様々なイベントを企画・開催してきました。
そして今回の神戸ジャズCITY・スインギングナイツin KOBE 2008キャンペーンは、僕自身意外だったのは、「小曽根実のおじゃまライブ&トーク」。御大・小曽根実さんが合計16店に及ぶジャズスポットを訪れ、ライブとトークを繰り広げるというなんとも贅沢な企画になりました。

「以前から小曽根さんによく言われてたんですよ。『お客様と友達になりや。みんなジャズが好きな仲間なんやから』って。ジャズクラブってディープな社交場だと思うんですね。音楽だけでなく、食事やお酒、あるいは人と出会い、知り、いろんな楽しみがある。少しでも多くの方にこの楽しみを知っていただきたいんです。
小曽根さんは、ジャズミュージシャンとしての力量は世界レベルですし、軽妙なトークも一級品。その意味ではまさに適任で(笑)、今回のような企画になったわけです。
馴染みの店がある方も、ジャズの店なんて行ったことないという方も、ぜひお気軽に出かけていただきたいですね。どんな方にも喜んでいただけるのは間違いないと思いますよ」
これからの神戸と神戸ジャズ。
「中央から発信される神戸情報が圧倒的に多いのに比べ、地元発信の情報はとても少ない。残念ながら、これが実状です。それを逆転するためには、僕たち自身が神戸の街の魅力をもっと発見しなきゃいけない。たくさんの魅力があるんですよね、実際。パンとか洋服とか、もともと日本になかったものでもどんどん受け入れるという、懐の深さのようなものが神戸のような港町の持つ力だと思います。だからこそジャズも神戸に入ってきたし、発展した。

ニューヨーク在住の友人が、『世界のあらゆる国からミュージシャンがニューヨークにやってくる。そして、彼らそれぞれが、独自のスタイルやアイデンティティを創りあげている』と言っていました。
神戸の街のアイデンティティ、神戸ジャズのスタイルというものを定義するのはなかなか難しいんですが…、スーパーなものである必要はないと思うんです。不完全でもいいから、『これが神戸的ってことだよ』と言えるような、人間的で暖かみのあるものを見つけて育てていきたいですね。
中央で取り上げられ、発信されることももちろんありがたいことなんですが、これからは『神戸発』にしていきたいですね。そう、なんというか…お国自慢になるような。『神戸に行けばあのジャズを聴ける、あの店であの人に会える。神戸に行けば…』そんなふうに思ってもらえるようになれば嬉しいです。
それから、ずっと先の夢になりますが、息子が大人になったら一緒にお酒を飲んでみたいですね。もちろん『神戸ジャズ』を聴きながら…」
神戸ジャズを巡る様々な問題を語る時の厳しい顔も、とたんに緩んで子煩悩なパパの顔に。
ぜひその夢をかなえてください!
特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People