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ジャズピープル

自然体の音楽性。

今年3月と4月に最新アルバム「Pieces of Color」「the Story Behind」を連続リリースしたピアニスト・栗林すみれさん。さまざまな音楽を取り入れた独創性の高いオリジナル曲を中心に、一本芯の通ったジャズ作品集に仕上がったアルバムはジャズファンのみならず音楽を愛するすべての人に聴いていただきたい逸品です。今回はそんな栗林すみれさんに、これまでの音楽への思いやアルバムについてなどをおうかがいしました。

person

栗林すみれ

栗林すみれ ピアニスト、作曲家。埼玉県立芸術総合高等学校音楽科、尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科 ジャズ&ポップスコース卒。2014年栗林すみれトリオとしてJAZZAUDITORIAにてオープニング・アクトを飾り、その後3回に亘ってブルーノートトーキョーに出演。同年、行方均氏のプロデュースでサムシンクールレーベルからデビュー。 1stアルバム”TOYS”がジャズライフ、ジャズジャパンなどに取り上げられ2014年ディスクグランプリニュースター賞受賞。 2015年早くもセカンドアルバム”Travellin’”をリリース。2017年金澤英明との双頭リーダー作"二重奏"をローヴィングスピリッツから発売。2018年、総勢11名参加のアンサンブル作品とピアノトリオ作品を二ヶ月に渡りリリース。ジャズライフでは3rdAlbum”Pieces of Color”が表紙、巻頭特集でとりあげられる。 溝口肇のジャズアルバムへの参加や、NHKBSプレミアム『美の壺』でオリジナル曲が使用されるなど作曲やアレンジ方面の才能も発揮している。先人への敬意と幅広い音楽性の融合から紡ぎだされるオリジナル曲とインプロヴィゼーションは新たな世界を切り開きながらも心地よく、多くの聴衆の心を掴む。



interview

「嬉しいときも悲しいときも同じ曲で(笑)」。自由にピアノに触れて、音楽への想いが強く。

── ピアノはいつ頃から始められたんですか?

栗林「小さいときは学校のピアノを勝手に触ってた程度ですね。父が筝曲奏者なのですが、『習うと嫌いになるから、やりたいなら勝手にやれば』という感じで。だから楽譜にドレミ振って、一年かけて一曲を自分のものにするという感じで(笑)。一曲覚えたら、嬉しいときも悲しいときもその曲みたいな(笑)。だから真面目に子供の頃からやってたとは言えないんですけど」

── 「ピアノが好き」という気持ちはすごく大切にされてた感じですね。

栗林「そうですね。それで、うちにはお金がなくてグランドピアノは買ってもらえなかったので、すごく憧れがあって、音楽学校に行けばグランドピアノが弾ける!と思ったんですよ。それで中学3年生のときに、受験のために初めてクラシックの曲を練習しました。しかも、試験のときは3分で止められるからって3分をギリギリ譜読みして(笑)。止められてなかったらたぶん落ちてたと思います(笑)。新しい学校で、私が入ったときはまだ3期生とかだったので、成績と実技だけで入れたんですよ」

── それまでは誰かに教わることもなく、グランドピアノのために音楽専門の学校にというのは、すごいですね。実際に高校に入ってみてどうでしたか?

栗林「すっごく楽しかったです、高校は。教則本とか一個もやったことがなかったので、ハノンの試験で落第して(笑)。やったことがなかったので、両手で同じ動きができなかったんですよね(笑)。自分の思いを出すことと、曲のかたちしかできないから。だから先生は『この子絶対プロとか音大とかには行かないだろうから、楽しくやればいいよ』と(笑)。で、ドビュッシーとかバッハとかラベルはすごく好きだったので、そればかり弾いてました。毎日、グランドピアノはなんて素晴らしい音なんだ…と思いながら弾いてましたね。田舎だから窓を開けて弾いてよくて、青い空を見ながら毎日ピアノが弾ける最高の3年間でしたね。なんですけど、大学では一瞬ピアノが嫌いになった時期もありました。」

「無理に好きになろうとしていたジャズが自然と好きに」。大学卒業後にジャズの魅力に目覚めて。



── 大学は尚美学園のジャズ&ポップスコースですよね。ジャズに触れたのは大学に入ってからですか?

栗林「高校の段階で、クラシックでやってくのは間違いなく無理で、それは自分でもカケラも思ってなくて。その頃BGMのアルバイトとかをしてみたいなと思って、近くにあるピアノの生演奏をやっているレストランに『ピアノ演奏のバイト受け付けてますか』って聞きに行ったんです。そしたら今はいっぱいだって言われたので、ウエイトレスをやって、ピアニストが風邪をひいたときに弾いてやろうと思って(笑)。」

── アルバイトがしたいというのがすごく実現可能な願望でいいですね(笑)。

栗林「そうでしょう(笑)。それで、ウエイトレスのバイトを始めたら、たまたまジャズのピアニストの中嶋錠二さんという方がポップスのジャズ風のアレンジをされてて、それが高校生の私にはピッタリだったんですよ。ドビュッシーとかラベルのハーモニーとも少し似てたっていうか。それで、このハーモニーはなんだろうと思って聞いたら『僕は尚美学園ジャズコースを出て、今一年目でピアニストやってます』と教えてくださったので、よし、その学校に入ろうと(笑)。」

── 思って入ったら、違った?

栗林「そうなんですよ。ジャズに惹かれたというよりハーモニー感に興味があったんです。なもんで、学校に入ったらビバップが中心で、チャーリー・パーカーのコピーをしましょうって言われてもまったくピンとこなくて。それで結構苦戦しちゃったんですよね。」

── なるほど。でも学生時代にビッグバンドとかも経験されてるんですよね。

栗林「ちょっとやりましたね。明治大学のBSSOとか早稲田のハイソとか。山野にも出たことありますよ。何もできなかったですけど(笑)。アーロン・パークスのコピーをしたんですけど、『バッキングは88鍵ちゃんと使った方がいいんじゃないのかね』と言われたのを今でも覚えてます(笑)。」

── では、ジャズに目覚めたのは卒業してから?

栗林「そうです。卒業してからイントロ(高田馬場)に通い始めて、ああ、こういうのがジャズなんだなと。イントロは同い年くらいでジャズが本当に好きな研究熱心な若者って感じの人がいっぱいいて、ピアノだと若井優也さんとか菊池太光さんとかがいつもいて。彼らは私の一つ上なので、すごくいい先輩という感じでした。それで、奥の深さや楽しみ方がだんだん分かってきて、大学では苦しいだけだったジャズが自然と好きになってきて。それで、自分の好きな方向で曲を書き始めた頃に、『CD作らないか』と声をかけられて、現在に至るという感じですね。」

── ということは、プロになろう!と意気込む感じではなく、自然な流れでそうなったという感じでしょうか。

栗林「うーん、でも親が音楽家なので、すごく自然なことではありましたね。だから、プロになろうとまでは思ってはいなくとも、なんとなくずっと音楽をしていくんだろうなという確信はあったと思います。高校も大学も、他の同級生より決して上手じゃなかったですけど、当時、自分よりも断然上手かった子たちは今はもう弾いてなくて、私は今こうやって演奏しているっていうのは、やっぱり『やりたい』って気持ちが強かったからかなって思います。」

── なるほど。確かに、栗林さんのお話をうかがってると、本当にピアノがお好きなんだなと伝わってくる生い立ちですね。

栗林「本当にピアノは大好きですね。今、家にグランドピアノがあるのもすごく嬉しいですし(笑)。旅が多いので、帰ってきたときに『ただいま』って感じで家のピアノを弾くのが楽しいんですよ(笑)。もちろん、いろんな場所でピアノを弾くのも好きなんですけど。」

「違う人同士でもポジティブに共存できる」。ロンドンのライブ経験を経て新たな気持ちへ。



── 現在の話になりますが、3月4月にアルバムを連続リリースされました。

栗林「昨年の秋口までは普通に1枚の予定だったんですけど、書いた曲が多くて、二枚にしちゃえば?という感じで、ギリギリの段階で2枚連続リリースになりました(笑)。コンセプトも最初は違ってて、均等に分けるはずだったんですけど、録ってから管楽器が入ってるものと入ってないもので分けられるから、そうしようかという感じに。つまり、やる気が溢れて2枚になったと思ってもらえれば(笑)。」

── 曲はアルバムのために書かれたんですか?

栗林「いえ、2枚目が出てから結構日が経ってて、金澤(英明)さんとの『二重奏』はスタンダードも多かったので、曲自体は書き溜めてたものも結構ありました。今回の録音メンバーの音を考えて書き足したものもありますね。」

── 2作ともジャケットが素敵ですね。

栗林「本当ですか?嬉しい!セカンドアルバムまではレーベルの意向もあったり、自分も慣れてないことなのでおまかせというか、周りが動いてくれるという感じだったんですよね。特に最初はやっぱり顔を覚えてもらうためにも、顔写真を大きくジャケットに持ってくることが多くて。今回は好きなデザインができる!と思って、自分で花火のデザインを考えたんですよ。」

── 素敵なデザインですよね。でもアルバム制作となると、演奏以外の作業が多くて大変ですね。

栗林「そうなんです。こんなに大変だったっけ?って思いました(笑)。特に2枚になっちゃったから作業が倍になって本当に大変で。ブックレットも写真家の方にお願いして、曲のイメージで撮ってもらいました。でも大変だったぶん、すごく達成感がありますね。ことさら愛しいというか。おかげさまで、皆さんから花火良かったよって結構言ってもらえたのも嬉しかったですね。」

── ジャズは特にライブがメインなので、その場限りのもの感が強いですし、それが形に残るとなると思い入れもひとしおですよね。

栗林「そうなんですよ!やっぱり感動しますよね。ライブ以上ってなかなかないし、CDは音質も生より遥かに落ちる部分もあるんですけど、手に取ってもらえて、見えないお客さんに届くというのは嬉しいです。ライブだけだとやっぱり狭いので、だんだん知ってる顔になっていくっていうか。もちろんそれはそれでありがたいことなんですけど、CDを出すことでさらに未知のお客さんに届くというのは嬉しいですよね。」

── そして6月にはイギリス、イタリアに行かれてたんですよね。

栗林「ロンドンに一週間、その後ローマに行って帰ってきました。横浜とロンドンが音楽交流みたいなのをしていて、コンサートとしては初めてのプロジェクトだそうです。初日はイギリスのミュージシャンとライブをして、その後金澤さんと二重奏したりするお仕事だったんですけど。」

── イギリスのミュージシャンはいかがでしたか?

栗林「イギリスのミュージシャンというと勝手に白人をイメージしてたんですけど、二人とも黒人の方で。 mark mondesirさんと最近のマッコイ・タイナーのCDにも参加されたjason yadeさん、お二人ともめちゃくちゃ上手くて。行く前にYouTubeでチェックしたときに『本当にこの二人と?』って感じでした(笑)。かなりどきどきしながら向かったんですけど、いざ行ってみたらリハーサルのときからめちゃくちゃ楽しくて!バックグラウンドが全然違うのに、この人と一緒に演奏したいなって思うんですよ。向こうがすごくオープンなんですね。日本だとどうしても同じ趣味の人たちで固まってしまいがちなんですけど、それがまったくなくて。」

── 音楽ならではの国境を超える体験という感じですね。

栗林「そうなんです、すごくオープンだし、すごい人達なのに謙虚で偉ぶらなくて。全然違う人同士でもポジティブに共存できるんだって思いましたね。それこそ音楽のジャンルも違うし、こっちは神社で寺なのに対して向こうは教会だし、一番大事にしてるものもきっと違うんだろうけれど、ポジティブに一緒に楽しめるんだって思いました。『違くてもいいんだ』っていうのを体感として、しっくりストンときたのは本当にいい経験でした。こういうことが世界中で起きたら、争いなんて起きないのにと思いましたね。」

── そういうご経験がまた栗林さんの音楽活動になっていくと思うと素敵です。最後になりますが、神戸の印象を教えてください。

栗林「私、神戸すっごく好きなんです!まず山と海があるのが最高ですよね。私、埼玉育ちなので、すっごい羨ましいんですよ(笑)。開放感あるし、オシャレだし。最初に神戸に来たときは遊びだったんですけど、フラッと入った教会に蓋に絵画が描いてあるアンティークなピアノが置いてあって。それがすごく綺麗で。ここで結婚したい!って思ったのを覚えてます(笑)。なので、こんなに来れるようになって、すごく嬉しいです。ミュージシャンの楽しみでもありますね。」

── また、神戸でのライブを楽しみにしています。今日は楽しいお話をありがとうございました!

information

[ RECOMMEND MOVIE ]

栗林すみれ「Little Piece」FILM MUSIC Directed by 高山康平(3RDアルバム『Pieces of Color』より



[ Live Information ]

栗林すみれ Live Schedule

8/ 2(木)小川町リディアン(千代田区) 19:15 “Reiko Yamamoto The Square Pyramid"山本玲子(vib) 栗林すみれ(pf) 古木佳祐(b) 木村紘(ds)

8/ 4(土)御茶ノ水ナル 19:45 塩田哲嗣(b) 峰厚介(ts) 曽根麻央(tp) 栗林すみれ(pf) 横山和明(ds)

8/ 7(火)シネマテーク(佐賀) 20:00 "二重奏"金澤英明(b) 栗林すみれ(pf)

8/ 8(水)おくら(熊本) 20:00 "二重奏"金澤英明(b) 栗林すみれ(pf)

8/ 9(木)ファースト(八代) 20:00 WINA(vo) 栗林すみれ(pf) 金澤英明(b) 大久保重樹(ds)

8/10(金)ラグタイム(鹿児島) 19:00 WINA(vo) 栗林すみれ(pf) 金澤英明(b) 大久保重樹(ds)

8/13(月) body&soul(南青山) 20:00 栗林すみれ(pf) 金澤英明(b) G.ジャクソン(ds) 

8/18(土)コバトン食堂(伊奈町) 18:00 西尾健一(tp) 堤智恵子(as) 本川悠平(b) 栗林すみれ(pf)

8/21(火) Swing(銀座) 19:00栗林すみれ(pf) 西口明宏(ts) 伊東佑季(b) 木村紘(ds)

8/22(水) APOLLO(下北沢) 20:00吉田つぶら(tap) 栗林すみれ(pf) Marty Holoubek(b)

8/27(月)シャギー(豊橋) 19:30 "二重奏"金澤英明(b) 栗林すみれ(pf) + 今岡友美(vo)

8/28(火)サテンドール(岡崎) 20:00 "二重奏"金澤英明(b) 栗林すみれ(pf) + 今岡友美(vo)

8/29(水)バード&ディズ(土岐) 19:30 "二重奏"金澤英明(b) 栗林すみれ(pf) + 今岡友美(vo)



[ Release ]

4th Album “the Story Behind"
“作・編曲家”栗林すみれによるWリリース企画 第2弾は、デュオ&トリオによる小編成作品集 プロジェクト第1弾の『Pieces of Color』(SCOL1026/3月21日発売)では、最大3管に加え、マリンバやヴォイスといった楽器も投入するアンサンブル編成でそのマテリアルを披露した栗林すみれの第2弾「The Story Behind」は、うって変わっての小編成。2枚のトリオ・リーダー作で既に折り紙つきとなっている、小編成とは思えない不思議で鮮やか、そしてメロディックなピアノに、何も考えずに身を委ねたい。

1. Waltz Step
2. Children’s Mind [Trio Version]
3. Imbalance
4. Endless Circle
5. Make The Man Love Me
6. Halu
7. Lovely Place
8. 霧氷の譜
9. Talk About Bill
10. 蘭越のうた

【メンバー】
栗林すみれ(pf, el-p)
ヤヒロトモヒロ(perc)
伊東佑季(b)
金澤英明(b)
木村紘(ds)
小前賢吾(ds)

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3rd Album “Pieces of Color”
“作・編曲家"栗林すみれによるWリリース企画 第1弾
ジャズ・アンサンブル新時代に贈る、サウンドとマテリアルの結晶
デビュー作『TOYS』での瑞々しい鮮烈、そして続く2NDアルバム『Travelin'』ではそのリリシズム溢れる楽曲群にも注目が集まったピアニスト栗林すみれ。2018年3月&4月に、満を持してその集大成となる2部作を発表する。
その第一弾となる今作『Pieces of Color』は、自身初となるアンサンブル作品。かねてより、その“誰にも似ていない"ながらも“一本芯の通ったジャズ"の演奏や音色が、デビュー以来注目を集めてきたが、そんな彼女のボーダーレスで万人に語りかけることのできる世界観と技術の結晶といえる作品だ。
作曲家・栗林すみれの瑞々しい世界を体現する1にはじまり、壮大ながら物哀しさもたたえる3~5の組曲、万物の流転に身を任せるかの7、純粋に音楽を楽しむ童心を描く9、さらなる高みを目指し弾ける10・・・など、ジャズという音楽を通じて世界を抱擁する、鮮やかな世界へ身を投じさせてくれる作品に仕上がった。
全曲を自作曲で描き出し、その物語の演者として日本~オーストラリアの精鋭たちが集結。「色とりどり」なイメージのタイトルどおり、色彩が眼前に浮かび上がるかのような楽曲群を、演奏者たちの豊かな音色や感情が描きあげてゆく。
そんな唯一無二のピアニズムとアレンジ、そのサウンドが織りなす心地よくも刺激的なマテリアルを全身で体感していただきたい。

1. Waltz Step
2. Children’s Mind [Trio Version]
3. Imbalance
4. Endless Circle
5. Make The Man Love Me
6. Halu
7. Lovely Place
8. 霧氷の譜
9. Talk About Bill
10. 蘭越のうた

【メンバー】
栗林すみれ(pf, vo)
ニラン・ダシカ(tp, flh)
吉本章紘(ts, ss, fl, cl)
ジェームズ・マッコーレイ(tb)
山本玲子(vib, marimba)
ヤヒロトモヒロ(perc)
伊東佑季(b)
金澤英明(b)
木村紘(ds)
小前賢吾(ds) 黒沢綾(vo)

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