若きエネルギーが日本のジャズを明日へとつなぐ

猛暑と大型台風に見舞われた今年の夏。そのエネルギーすべてを吸収・昇華させたような熱い演奏が繰り広げられた第49回　山野ビッグ・バンド・ジャズ・コンテスト（以下YBBJC）。今回は9年ぶりとなる古巣・府中の森芸術劇場 どりーむホールで開催されました。
錬磨を重ねて出場権を得た全35校のうち、頂点に輝いたのは12年ぶりの快挙となる同志社大学ザ・サード・ハード・オーケストラ。5月から角松敏生ライブツアーにも参加していたという抜群の演奏力に、「最高。褒めるしかない」と内堀 勝審査員長も手放しに絶賛。挾間美帆氏、兼松 衆氏の両若手作・編曲家のオリジナル曲の魅力を十二分に表現して会場を沸かせました。
ここ数年、日本人現役プレイヤー、コンポーザー、アレンジャーの手によるオリジナル楽曲を演奏するバンドは半数以上にものぼります。その筆頭ともいえる2位の早稲田大学ハイ・ソサエティ・オーケストラ､3位の慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサエティなどが、常に優勝争いに絡んでいる結果からみても“メイド・イン・ジャパン“のジャズは、ますますクオリティを上げていると言って間違いないでしょう。興味深かったのは､審査員・前田憲男氏の作品で全曲固めた愛知学院大学スインギング・オール・スターズの演奏です。中でも「さくらさくら」は1967年に原信夫とシャープス＆フラッツのために書き下ろした力作。こうした日本のジャズの足跡が、今日のYBBJCの発展へとつながっていることを実感できる感慨深いステージでした。
今大会でもうひとつ印象的だったのは、初出場校や、まだ出場回数の少ない“ニューフェイス”バンドの健闘ぶりです。敬和学園大学ジャズ・クエストは新潟とゆかりの深いエリントンのナンバーで初出場し、明るい音色のみずみずしい演奏を披露。同じく初出場の筑波大学ネオポリス・ビッグバンドもYBBJCではめずらしいボーカル曲のオープニングで注目を集めました。また2回目となる琉球大学モダン・ジャズ・オーケストラはコントを交えた楽しいステージで場内を沸かせ、昭和音楽大学リリー・ジャズ・オーケストラは出場3回目にして初のベストテン入りを果たしました。
「風景が移り変わり、長い旅をするような雰囲気」（国府弘子氏）のコンテンポラリーや複雑な和音・変拍子などのモダンアレンジが主流になりつつあるなか、王道の4ビートで入賞するバンドももちろん健在。慶應義塾大学K.M.P. ニュー・サウンド・オーケストラは疾走感あふれる硬派な演奏で特別賞、最優秀ソリスト賞、学バンアワードと見事3冠を手中に収めました。
表彰式では「演奏レベルは高く､ジャンルも広範囲ですが審査員は直感的に聴いています｡音質や安定したリズム、といった音楽の基本的なことが見直されています。基本に戻って練習を続けてみてください」と内堀審査員長。
さて来年はいよいよ50回という大きな節目を迎えます。首都圏近郊の学生バンドだけではなく、全国各地でYBBJC参加を目標に演奏するビッグバンドは増え続けています。来年はまたどんな演奏に出会えるのか、今から楽しみでなりません。