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カウント・ベイシー/デューク・エリントン

世の中の諸事情もあり、最終回になってしまいました。当面続くつもりでいたので、大御所の紹介を後回しにしていたのが悔やまれます。書きたい人で残ってるのいっぱい居たんですよ。サドとかメルとかレス.ブラウンやグレン.ミラーやグッドマンやギルやバディ.リッチやルイ.ベルソンやあの人やこの人も。ボランティアで書いてもいいくらい(笑)。だってこうして書いて情報を少しでも人目につくところに出しておいてあげないとどんどん埋もれちゃうでしょう。

泣いても笑っても取りあえず最終回、ということで、今回はベイシーとエリントンという二大巨頭を取り上げてシメにしたいと思います。

Breakfast Dance and Barbecue

まずはベイシー。1930年代後半から50余年に渡り、ビッグバンドの代名詞と言ってもいいような存在であり続けた事は素晴らしい事だと思います。このバンドのリズムセクションはフレディ.グリーンやパパ.ジョー.ジョーンズらを含むいわゆる『オールアメリカンリズムセクション』と呼ばれました。ジャズなんて音楽はリズムミュージックなのですから、1にリズムな訳です。リズムセクションが極上であること、これがベイシーの最大の魅力でした。バンド全体のアンサンブルが終わるとふわっとリズムセクションが浮き上がるような感覚は本当に素晴らしかった。このセクションに時代時代で数多くの花形のソリストが居る訳だから無敵です。30~40年代のブルース主体でジャンピーなリズムが強力だった時代、60年代後期からのサミー.ネスティコのアレンジを取り入れた時代、それぞれに良いのですが、個人的にはやはり50~60年代のサウンドに一番魅力を感じます。ネスティコのアレンジも非常に魅力的なのですが、洗練されすぎちゃってる感じが強くて、アーニー.ウィルキンスやニール.ヘフティの泥臭さみたいな魅力に少し欠けるように感じるからです。まぁ、ラーメンは好きで、アッサリしたのが好きかコテコテなのが好きか、くらいの差異なんですけどね。

そんなわけで、コッテリ派の私としては50~60年代のものを推すのであります。そしてやっぱりルーレット時代に行き着いちゃう。しかもライブ盤。データを見てると3トラックのテープをリマスターしたとありますね。ということはマイク3本で録ってるんですね。


なるほど。まずはBreakfast Dance and Barbecueあたりを。

タイトル直訳すると朝食でダンスとバーベキューという実に濃ゆいものですが、これはマイアミのホテルのボールルームでのライブ。残響感から結構広いボールルームであることが想像できます。マニア的に言うと、このアルバムはサド.ジョーンズのアレンジが聴けるのがポイントです(笑)。サドのアレンジは当時のベイシーからはダメ出しされる事が多くて、結局レパートリーとしてはあまり定着しなかったんですよねぇ。確かに吹いてみると微妙に忙しかったりするんですけど(笑)。

リマスターのおかげで、Cuteのイントロのところのメンバーの歌(って言うのかこれ)が、実はフレディ.グリーン(多分)とのコールアンドレスポンスになってるんですねぇ。随分昔にこのバージョンやったことがあるのですが、ここまでカバーしきれてなかったですね(笑)。それからこのアルバムを取り上げたのは、ジョー.ウィリアムスがヴォーカルで参加してるから。こういう黒人のクルーナー.スタイルのヴォーカルって今は本当に貴重になっちゃいましたからねぇ。お、Lil'Darlinではラッパのソロの後ろでソニー.ペインが倍テンで刻んでるなぁ。ライブ盤はこういういい意味での遊びみたいなのが随所にあって良いですね。次の曲は何にするか、っていうのもその場で決めてるみたい。曲の後でタイトル言ったり番号言ったりしてますね。ライブ盤はこういう普段着な感じが見えるので好きです。ところでライナー読んで発見したんですが、このライブの為にバンドが会場入りしたのが午前2時、終わったのが朝7時だそうです。豪勢なオールのイベントですね(笑)。しかもこのあととんぼ返りしてその日の夜にNYCのバードランドででライブがあったそうです。今も昔もバンドのビータっていうのはこういうヘビーなスケジュールがつきものなんですねぇ(笑)。


収録曲

Breakfast Dance and Barbecue

1. Deacon

2. Cute

3. In a Mellow Tone

4. No Moon at All

5. Cherry Red

6. Roll 'Em Pete

7. Cherry Point

8. Splanky

9. Counter Block

10. Li'l Darlin'

11. Who, Me?

12. Five O'Clock in the Morning Blues

13. Every Day I Have the Blues

14. Back to the Apple

15. Let's Have a Taste

16. Moten Swing

17. Hallelujah, I Love Her So

18. One O'Clock Jump

At Birdland

というわけで泣く子も黙る大名盤としてバードランドのライブを(上のアルバムで言ったのとは別の日付ですよ)。wikiで見てみると当時のバードランドはキャパ400ということでかなりの大箱なのですね。それはとにかくこのレコード、現場でかぶりつきで見てるようなバランスでゴキゲンなんです。1961年という時代背景や、リズムセクションの音量のバランス(案外ベイシーのピアノが遠い)や客のざわつきなんかの拾い方を考えるに、PA使わないでこのバランスなんでしょうね。ベイシーバンドには『フレディ.グリーンの生のカッティングがメンバーに聴こえていること』という暗黙の掟があるそうです。

全員でffでトゥッティのところは流石にそれは無理なのかもしれませんが、それも納得できる気がします。

いやいやそういうどーでもいいことは抜きにしてもう内容は極上の一言に尽きます。メンバーリストを見て頂けると分かりますが、正に豪華絢爛です。いちいち曲ごとにコメントする必然性を感じません。どこを切ってもビッグバンドジャズのエッセンスが詰まってる感じです。気がついたら1枚通しで聴いてたなんていうレコードはそうザラにあるものではありません。ビッグバンド愛好家にはマストアイテムだと思います。


この時代のベイシーの録音は昔モザイクからコンプリートで出たのを買いそびれたことを非常に後悔しています。それのおかげで単発の再発にもボーナストラックが沢山ついています。日本のレコード会社は出してくれませんが、今はネットで買えるので(タイミングみたいと難しいケースもあります)、みつけたら是非入手して下さいね。


収録曲

At Birdland

1. Little Pony

2. Basie

3. Blues Backstage

4. Blee Blop Blues

5. Whirly-Bird [Vocal Version]

6. One O'Clock Jump [Theme]

7. Good Time Blues

8. Segue in C

9. One O'Clock Jump

10. Easin' It [*]

11. Little Temp, Please [*]

12. Corner Pocket [*]

13. I Needs to Be Bee'd With [*]

14. Discommotion [*]

15. Segue in C [Alternate Take][*]

16. Whirly-Bird [*][Instrumental]

17. One O'Clock Jump [Theme]

Best

さぁそしてエリントンです。

この人も1920年代から亡くなるまで、ジャズという音楽に大きな影響を与え続けたまさに巨人です。曲もいっぱい残ってるし。

ベイシーみたいにメンバーが変わってもベイシーの音がする、というのではなく、エリントンの場合にはバンドのメンバーのキャラありき、みたいな部分もあり、彼自身も言ってましたが、バンドそのものを含めてエリントンなわけです。ハリー.カーネイやキャット.アンダーソンやホッヂスあってのエリントン、みたいな部分は明確にあると思います。A列車やサテンドールなどエリントンの書いた有名な曲も沢山ありますが、それ以外にもエリントンの音楽には魅力のあるものが沢山あります。晩年の組曲ものであるとか、教会で大編成でやったセイクリッドコンサートとか、もうとてもこのスペースで語れるものではありません。とはいえやはりビッグバンドを語るのにエリントンに触らないのはあり得ない話でもあります。

そこで紹介させて頂くのがこのベスト盤です。日本盤のアルバムを紹介するのは初めてですね。

このアルバムは評論家の瀬川昌久先生のコンパイルによるものです。

ジャケットはスイングガールズあたりでハマった人達を狙ったある意味軽い作りですが、そこはチャーリー.パーカーを生で見た唯一の日本人である瀬川先生のこと、実に良く練られています(先生こんな書き方ですみません)。この二枚組のアルバムで、瀬川先生は1枚目に有名な曲の新旧の録音を並べる、という技に出ました。これは秀逸。録音技術の違いによる音質の違いはいかんともしがたいものの、こうすることで初期のエリントンがいかにユニークだったか、というのがきちんと出てます。もちろん新旧の録音でアレンジも全然違っており、常にアレンジに手を入れていたエリントンの仕事の絶倫ぶりにも圧倒される仕掛けになっています。エリントンは同じ曲を沢山録音していますが、アレンジは全部違うんです。

そこに引きずり込まれるとエリントンのアルバムの枚数が増えて行くのですよ(笑)。そして2枚目には1940年代の演奏で固めてきました。つまり瀬川先生は『スイングジャズ全盛期のエリントン』に焦点を絞っています。しかも名曲大会。このコンパイルは非常に素晴らしいです。

エリントン、ということになると大抵は『Popular Ellington』あたりでお茶を濁すのが関の山ですが、エリントン入門にはこっちの方が向いているように思います。

エリントンバンドがどういうものかがわかってきて、メンバーのキャラクターが分かってくるとポール.ゴンザルヴェスが伝説的に語られるNewportとか色々なアルバムの面白さが分かってくると思います。ワインや日本酒などの微細な違いを楽しむ、みたいなのがエリントンの作品群にはあると思います。高貴で下世話でエンターテイメントなエリントンの世界は今も続いているエリントンオーケストラでは逆立ちしても体感できないのです。


収録曲

Best

CD1

1. Black And Tan Fantasy(1927)

2. Black And Tan Fantasy(1966)

3.The Mooch(1929)

4.The Mooch(1966)

5. Creole Love Call(1927)

6. Creole Love Call(1973)

7.Caravan(1952)

8.Caravan(1966)

9.East Saint Louis Toodle-O(1927)

10. Jungle Night in Harlem(1930)

11.Rockin' in Rhythm(1931)

12. Cotton Tail(1940)

13. Take the "A" Train(1941)

14.Take the"A" Train(1966)

15. Jumpin' Punkins(1941)

16. Rain Check(1941)

17. The "C" Jam Blues(1942)

18. It Don't Mean A Thing(If It Ain't Got Swing)(1945)

19. Things Ain't What They Used To Be(1945)

20. Suddenly It Jumped(1946)

CD2

1. Mood Indigo(1945)

2. Solitude(1934)

3. Solitude(1945)

4. Chelsea Bridge(1941)

5. Concerto For Cootie(1940)

6. What Am I Here For(1942)

7. Prelude to A Kiss(1942)

8. In a Sentimental Mood(1945)

9. Sophisticated Lady(1945)

10. Chocolate Shake(1941)

11. I Got It Bad(1941)

12. Jump For Joy(1944)

13.I'm Beginning To See The Light(1944)

14. Kissing Bug(1945)

15. I Let a Song Out Of My Heart(1945)

16. The Wonder of You(1945)

17. Just Squeeze Me(1945)

18. Transblucency(1946)

19. Lover Man(1946)

20. St. Louis Blues(1946)

First Time

さて折角ベイシーとエリントンを並べたので、最後にベイシーとエリントンの共演盤を紹介しましょう。

First Time。

50年代にAtomic Bandと称されたベイシーと、やはり50年代後期のニューポートのライブで完全復活モードにあったエリントンの2つのビッグバンドの共演という極めてゴージャスなレコードなのです。ビッグバンドって言ってもバンドリーダーが違うとサウンドはこんなに違うというのも楽しめます。全編迫力の塊みたいなレコードなのですが、サド.ジョーンズのTo Youを2つのバンドで一緒にやってるトラックには唖然とさせられます。もう説明不要(笑)。


収録曲

First Time

1. Battle Royal

2. To You

3. Take the "A" Train

4. Corner Pocket (AKA Until I Met You)

5. Wild Man (AKA Wild Man Moore)

6. Segue in C

7. B D B

8. Jumpin' at the Woodside

いやぁ、返す返すもここで一旦終了っていうのは残念だなぁ。もし復活する日が来るのであれば、更にカルトに進めたいと思います。ではまた再会を期して。

 

辰巳哲也

 
著者Profile
 
 
 
辰巳哲也( たつみ てつや)
 
DAVE鈴木
 
   
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
 
http://www.myspace.com/
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