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ラッセル・ガルシア

1916年生まれの93歳。今尚現役でmyspace.comまでやってる。この人は1960年代のTimeMachineとAtlantisという2本の映画音楽の成功によって映画音楽の人という顔が圧倒的に大きいのですが、実はウエストコーストのアレンジャーとして非常に重要な人なのです。ホントはジョージ.ラッセルの次に俎上に上げたかったのですが、諸般の事情で今回となりました。っていうかジョージ.ラッセルを取り上げたら絶対この人も書きたかったんです。

 

ちょっと前のジョージ.ラッセルのところでジャズとクラシカルとのフュージョンとしてのサードストリーム、みたいなことをちょこっと書きましたが、1940年代のロサンゼルスというのは非常に特殊な場所で、そんなジャンルなんかを飛び越えるようなことが普通だったのです。というのは第二次大戦でのファシズム台頭を嫌気してロスに移住するクラシカルの作曲家が大勢いて、彼らが映画音楽などに携わるようになったからです。ラッセルはイタリアから移住したイタリア人のクラシカルの作曲家マリオ=カステルヌーヴォ.テデスコに作曲法を学びます。またこの時期にはシェーンベルグもロスにいて、当時のクラシカルの最先端の理論、即ち無調であるとかセリエル.ミュージックなどの技法についても学んでいるのです。色々なライナーノーツを読んでいるとビル.ホルマンも、マーティ.ペイチも、ボブ.フローレンスも、ジミー.ジュフリーも、この人の薫陶を受けていることが分かります。なんでウエストコーストジャズについて一部の評論家が「頭デッカチ」だの「スイングしない」みたいなネガティブな評価をするのか、というのはこういう背景があるからだと思われます。今、ボストンの音楽学校で教えられているシステムもこの時代のLAから伝えられたものだと思われるのです。だからこそこの人のことは紹介しないとダメだと考えたのです。少々マニアックですが、オーケストラルジャズを考える時に非常に重要な存在なので、お付き合い下さい(笑)。

Russell Garcia's Wigville Band

さて、この人は1950年代に”Professional ComposerArranger”という本を出しました(70年代に続編が出ました)。ほぼ絶版状態ですが、これは名著で、すぎやまこういちさんの座右の書でもありますが、ジャズの本ですが、セリーなどにも当然言及しており、二十世紀の音楽理論書として非常に優れたものです。勿論私も持っていますが、トム.ハレルもこれで勉強したって言っているので、向こうでは結構影響力のあった本だと思われます。おそらくはこれの発表と相前後して、ラッセルはWigville Bandというバンドを組んで非常に実験的なアルバムを出します。それが今回紹介するレコードです。編成的にはスモールビッグバンドなのですが、これはオーケストラル ジャズのレコードとしては重要なものだと考えています。

 

このwigville band,基本的にジャズのフォーマットで4ビートをやってはいますが、出てくる音はバルトークとかあの時代のクラシックの作曲家がやりそうなことのオンパレード。しかもソリストもこれは書き譜かもしれない、というようなかなりエキセントリックなソロを吹きます。しかもセリー(12の音を重複しないように並べ替えて、その音列の配置に基づいて作曲する技法)で書いた曲まであります。1954年でこれっていうのは相当面白いです。最近でもジャズとクラシカルの融合だのなんだの言う人は大勢居ますが、そんなものはこの人達はとっくの昔にそんなことは超越してるんです。1950年代としては非常に先進的な、リディアンスケールを軸にした調性の曖昧でフローティングする感覚、横溢るユーモア感、これは実に面白いレコードだと思います。本人は「出した当時はそんなに売れなかった」って本人は言ってましたが、今の耳で聴いても非常に面白いです。メンバーも凄腕かつ曲者っかり。コンテ.カンドリなんかもいつもと全然違うソロですし、ビル.ホルマンとジミー.ジュフリーが一緒に吹いてたり。正直メンバーを見てこれを買ってこの人の凄さが分かった次第で。前半に収録されたインストのトラックはピアノもギターも居ないのにこの色彩感ですもん。



収録曲

Russell Garcia's Wigville Band

1. Rocky Road

2. Floating

3. Wigville

4. Butter Duck

5. Then The Lid Blew Off

6. Mellow Bone

7. Livin' It Up

8.Tone Row

9.Smogville

10. Lonely One

11. That Old Black Magic

12. Every Time We Say Goodbye

13. Travellin' Light

14.Alone Together

15. Gentleman Friend

16. Fools Rush In

17. I Got Plenty O' Nothin'

18. Ev'ry Time

19. Why Shouldn't?

20. It Never Entered My Mind

21. What Is There To Say

22.He Was Too Good To Me

参加アーティスト

track1~10
Russell Garcia(arr,cond), Conte Candoli, Pete Candoli(tp), Russ Cheever(ss), Charlie Mariano(as),
Bill Holman, Jimmy Giuffre(ts), Max Benette(b), Stan Levey(ds)

 

track11~22
same as track 1~10
Peggy Connely(vo), Al Hendrickson(g)
replaced Stu Williamson for Conte Candoli

Los Angeles River

ビッグバンドのアルバムではやはり50年代に出したLos Angeles Riverっていうのがあります。実はネットで注文したのですが、このレビューを書く時点で届いてません(涙)。myspace.comで聴いてみたところ、非常にオーソドックスな譜面なようです。タイトル曲はネットで聴けるのですが、非常に無駄のない譜面で、「抜く」ところはちゃんと抜く、みたいな部分のコントラストが素晴らしいです。恐らくはビッグバンドアレンジメントのお手本のような作品であることが予測できます。ケントン周辺、というか往事のロスのトッププレイヤーが集結しており、安心して聴ける正統派なアルバムのようです。このコーナーは基本的にビッグバンドのことを書きたいのでホントはこのアルバムもレビューしたかったのですが、こういう形でしか紹介できなくてすみません。



収録曲

Los Angeles River

1. Worry-Go-Round (R.Garcia) 2:43

2. Carefree (Heyman-Henderson) 3:10

3. Palo Alto (R.Garcia) 2:23

4. Aren’t you Glad You’re You? (Burke-Van Heusen) 2:34

5. One Love (Robin-Rose) 3:22

6. Good Humor (R.Garcia) 2:13

7. When I Go, I Go all the Way (B.& R.Russell) 2:49

8. Coronado (R.Garcia) 3:54

9. The Boy Next Door (Martin-Blane) 3:30

10. I’m Confessin’ That I Love You (Dougherty-Reynolds-Neiburg) 3:41

11. Never Never Land (Comdon-Green-Styne) 3:42

12. I Lead a Charmed Life (B.& R.Russell) 3:34

13. Music City (R.Garcia) 2:56

14. Fish Tail (R.Garcia) 3:42

15. Smoggy Day (R.Garcia) 3:17

16. Los Angeles River (R.Garcia) 2:45

17. Number Four (R.Garcia) 2:48

参加アーティスト

Tracks #1-12:
Russell Garcia and His Orchestra: Maynard Ferguson, Don Fagerquist, Buddy Childers,
Wes Hensel, Cappy Lewis (tp); Murray McEachern, Harry Betts, Lloyd Ulyate, James Henderson,
Frank Howard (tb); Herb Geller (as); Bill Ulyate (bs); Howard Roberts (g); John T. Williams (p);
Max Bennett or Curtis Counce (b); Alvin Stoller (d); Red Norvo (vb #6,10);
Jack Costanzo (bgo #8).Radio Recorders, Hollywood, July 5 and 23, 1956.

 

#13-17:
Russell Garcia and His Orchestra: Maynard Ferguson, Don Fagerquist, Buddy Childers,
Ray Linn (tp); Milt Bernhart, Frank Rosolino, Lloyd Ulyate, Tommy Pederson (tb);
Art Pepper, Bud Shank (as); Ted Nash (ts); Chuck Gentry (bs); Gerald Wiggins (p);
Howard Roberts (g); Max Bennett (b); Alvin Stoller (d)
Radio Recorders, Hollywood, November 2, 1956.

Porgy and Bess

こういう変なのばかり紹介してるのもアレなので、これもビッグバンドとは少し趣が違いますが、有名なレコードとしてこれを挙げておきたいと思います。サッチモとエラをヴォーカルでフィーチャーしたPorgy and Bess。ある意味歌モノですが、フルバンドにストリングスが加わるという非常に豪華なアレンジがなされており、あたかもガーシュインによるヨーロッパのオペラへの回答のように聞こえます。ちゃんとスイングするべきところはスイングするし、アレンジも正統派かつゴージャスで、正に大作、っていうかハリウッド全盛期の凄さを感じるレコードです。ラッセルは、クレジットはされていないものの、チャップリンのライムライトのアレンジも一部担当しています。弦の使い方も流石です。ミュージシャンのクレジットがないのが残念ですが、当時のLAの超一流で固めていることは容易に想像がつきます。ある意味ジャズのレコードでもっとも贅沢なものの1枚と言えると思います。

 

個人的にこの数年間、いわゆるウエストコーストな音楽は随分演奏したりして実際に触れたりしたのですが、日本ではあまり話題に上らないウエストコーストのジャズというのは案外幅広く、奥が深いものだと思います。ラッセル.ガルシアっていうのはジャズのアレンジャーとしてはちょっとあまりにも重箱の隅、みたいな感じですが、どう考えても20世紀の音楽、特にジャズというカテゴリーの音楽を考える上でこの人は極めて重要な存在だったのでこうして挙げてみた次第です。この時代のウエストは面白いものが多いので、イメージに囚われないで聴いてみる事を強くお勧めします。



収録曲

Porgy and Bess

Louis Armstrong and Ella Fitzgerald with Russell Garcia Orchestra

1. Overture

2. Summertime

3. I Wants to Stay Here

4. My Man's Gone Now

5. I Got Plenty o' Nuttin'

6. Buzzard Song

7. Bess, You Is My Woman Now

8. It Ain't Necessarily So

9. What You Want Wid Bess?

10. Woman Is a Sometime Thing

11. Oh, Doctor Jesus

12. Medley: Here Come de Honey Man/Crab Man/Oh, Dey's So Fresh and Fine (St

13. There's a Boat Dat's Leavin' Soon for New York

14. Oh Bess, Oh Where's My Bess?

15. Oh, Lawd, I'm on My Way!

参加アーティスト

Louis Armstrong(tp,vo), Ella Fitzgerald(vo), Russ Garcia(arr, cond) and his orchestra

 
著者Profile
 
 
 
辰巳哲也( たつみ てつや)
 
DAVE鈴木
 
   
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
 
http://www.myspace.com/
tetsujazz

http://members3.jcom.
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