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ドン・セベスキー

ドン.セベスキー。70年代のCTIのアルバム群でのアレンジメントの仕事で圧倒的に有名ですし、ビッグバンドにも沢山の譜面を書いている人ですが、自己名義のアルバムが非常に少ないので、あまり知られていないのかもしれません。彼の書いた「コンテンポラリー.アレンジャー」という本はジャズのアレンジを勉強する人のバイブルの一つであり、知っている人には非常に有名なのですが、恐らくは日本の学生さんや社会人ビッグバンドの人にはファーガソンバンドで演奏されているA Trainが一番有名なような気がします。こういう人が忘れられるのは極めて勿体ないので、今回は彼が90年代に出したアルバムを紹介したいと思います。

 

さてさて、70年代初頭のCTIのレコードでは本当に沢山のアルバムのアレンジを担当した彼ですが、自己名義のアルバムってのは案外少ないんですよね。CTIのジャイアント.ボックスくらいなもので(持ってない)。80年代中期に今のスタイルがほぼ完成されたと本人が言っているFull Cycleっていう非常にカラフルなアルバムがあるのですが、もうこれは入手が非常に難しいです。が、96年にギタリストのジョン.ピッツァレリのアルバムの為にニューヨークでオールスタービッグバンドを組んだ事がきっかけで自己名義のアルバムを二枚リリースします。それが今回紹介する二枚のCDです。

I Remember Bill

まずはピアニストのビル.エヴァンス.トリビュートであるI RememberBill。このアルバムではビルに敬意を表してピアノを入れてません。ジャコがザヴィヌルに敬意を表して自分のビッグバンドに鍵盤を入れなかったやりかたと同じですね。このアルバムはエヴァンスゆかりのプレイヤーが大勢ゲストで入っていませんし、New York Voicesやストリングスまで入ってくる曲まであって、まず「ライブをやる」なんてことは微塵も考えていない事が伺えます。自分のやりたい編成で作品を作れればライブはどうでも良かったんでしょう。頑固でわがままで素晴らしいですよね。実際問題、普通のビッグバンドの編成でもトロンボーンは全員バリトンホーンに持ち替え、とか、サックスのユニゾンソリでは5人全員ソプラノ、とかもう絶対ライブでできないような編成ばかりです。なんでそんなことが断言できるかと言うと、実は私はこのアルバムでのAll The Things You Areを持っているから。入手はしたものの、持ち替えが大変過ぎてライブにかけられないんです。このアルバムからの譜面は数曲が市販されていますが、演奏されるのでしたらそれ相応の覚悟が必要です(笑)。選曲は、看板曲のWaltz ForDebbyからT.T.T.TやPeace Pieceと言った渋いところまでを含む納得な選曲で、この録音当時に現役だった(その大半は今も健在)エヴァンスのバンドのメンバーがぞろぞろ出てきます。末尾のメンバーリストを見て驚いて下さい。

 

このアルバムは彼の書いたコンテンポラリー.アレンジャーで書いた様々な事を随所に実現している感じですが、スマートで素晴らしいです。そして気がつかされるのですが、マリア.シュナイダーは90年代に木管セクションの持ち替えで非常にカラフルなサウンドを呈示したのですが、実はそれはドンが70年代には既に実践していたことだった、ということです。個人的には80年代にfull cycleに吹き込んだwaltz for debbyがフルサイズのビッグバンドのアレンジに引き直されていることが嬉しかった。full cycleは二十年以上前にFEN(現AFN)のラジオで聴いてからずっと探してて最近入手したのですが、あれが更に完成された感じなのです。



収録曲

I Remember Bill~A Tribute to Bill Evans

1. Waltz for Debby

2. I Remember Bill

3. So What

4. Quiet Now

5. All The Things You Are

6.Peace Piece

7. Bill, Noy Gil

8. Very Early

9. T.T.T.T

10. Autumn Leaves

11.Blue in Green

12. I'm Get Sentimental Over You

13. Epilogue

14. Bill Evans Interview

参加アーティスト

Brian O'Flahty, Joe Mosello, Barry Ries, Glenn Drewes(tp, flh)

Jim Pugh, John Mosca, Alan Raph, Randy Andos(tb) Peter Gordon(frh)

Dave Tofani, Chuck Wilson, Tom Christiansen, Laurence Feldman, Kenny Burger(woodwinds)

 

17piece strng section

Joe Lovano(ts), Tom Harrell(tp, flh), Toots Thielmans(hca), Lee Konitz(as)

Larry Coryell(g), Marc Johnson(b), joe LaBarbera(ds)

John Pizzarelli(g), Eddie Gomez(b), Marty Morrell(ds), Dave Samuels(vib)

Eddie Daniels(cl), Hubert Laws(fl), Joe Passaro(perc), Bob Brookmeyer(tb)

New York Voices(cho), Jeanie Bryson(vo)

Joyful Noise

ジョン.ピッツァレリのアルバムは当時結構評判になったようで、私は偶然96年にピッツァレリとセベスキーのビッグバンドをNYCで生で見ることができました。特別編成の素晴らしいバンドで、見られて本当にラッキーでした。上記のエヴェンストリビュートが97年の録音、で、さらに続編で今度はエリントントリビュートの作品を出します。それがJoyful Noiseというアルバムです。これはデューク.エリントンへのトリビュート作品になっています。エリントンが素材だけど全然黒くない。当たり前か。

オープニングのMood Indigoからして近年の彼のトレードマークとも言えるドラム4倍テンですもん。そこから色々変わって行くのですが、タイムモジュレーションの変化の凄さとそれをバッチリ演奏してしまうミュージシャンの実力に呆気にとられます。ここまで凄いとアマチュアでやってみようという風にはならないでしょう。二曲目のCreole Love Callもサウンドは凄くスッキリしてる。ソリストも非常に豪華なんだけど、エリントン的真っ黒な感じとは随分違います。三曲目のChelsea Bridgeもアップテンポで来てます。ピアノはジム.マクニーリーが弾いてます。彼自身相当なモダンな音楽の書き手ですが、きっとドンのことをリスペクトしているから乗ってくれるんでしょうね。4曲目のcaravanもオープニングからカラフル。エリントンは自分のバンドのミュージシャンのイメージを大事にして書いたことで知られていますが、セベスキーは自分の使いたい音色のカラーの赴くままに書いている感じです。メンバーの個性とかよりも自分の考えるサウンドのカラーが先でそれができる人を使う感じ。ライナーのソリストのリスティングでトム.ハレルが抜けてますね。5曲目はwarmvalley。エリントンって基本的にサウンドがスケベなんですよね。そこがとっても魅力なんです。このWarm Valleyてのも実はとってもエッチなタイトルなのですが、セベスキーにかかるとアカデミックっていうかそういうスケベな部分がほとんどなくなっちゃう(笑)。音楽のなかにある猥雑な感覚って実に魅力的(ミンガスもそう)なんですが、そういう部分を差し引いてもたはりエリントンの高貴な魅力(たとえスケベでもそういうものはあり得る)っていうのは見えるのではないかと。続いてはTake The Coltrane.トロンボーンのジム.ピューは70年代のウディ.ハーマンにも強烈なソロがいっぱいある名手ですね。Barry RiesはNYCで活躍している人ですがこの人の兄弟(どっちが上かは知らない)でサクス吹きのTim Riesはマリア.シュナイダーとかストーンズとか色々なところで吹いてますね。で、7曲目はお馴染みSatin Doll。思うに、セベスキーはエリントンのいわゆる百万ドルと言われたサックスセクションに敬意を表したアレンジを書いているように思えます。端的に言えばバリトンにハリー.カーネイ的な仕事を強要してない。逆説的にエリントンのサックスセクションの特異性っていうか、個性の凄さがこのアレンジから透けて見えます。ところで、実はこの曲とベイシーのCornerPocketってコードチェンジが同じなんですよね。そこを意識したアレンジが聴けますよ。ベイシーを知ってる人は思わずニッコリするんじゃないかな。で、ここから三つはセベスキー書き下ろしの組曲。エリントンファンにはタイトルのラインナップだけで『おー』って感じるでしょうね。Gladly, Sadly, Madly。エリントンの口癖というわけではないけど、彼は特にMadlyっていうのはよく使いましたもんねぇ。そして最後には恐らくは41年の有名なファーゴの録音のトランスクリプションを持ってきました。これだけ書ける人が最後にトランスクリプションを持ってくる。ここに彼のエリントンへの強烈なリスペクトを感じます。 ジミー.ブラントンの役回りを昨年早死にしちゃったデニス.アーウィンがきっちり弾いてるのが個人的には非常に印象的でもあります。

 

この二枚のアルバムはセベスキーの凄さと彼の過去に影響を受けた人々への強烈なおマージが感じられる作品で、それを表現するに相応しい人を総動員して作っている感じが伺えます。今入手するのは少し難しいかもしれませんが、これは彼が70年にCTIで表出させたサウンドスケープの一つの総決算として持ってて損は無いように思えます。



収録曲

1.Mood Indigo

2. Creole Love call

3. Chelsea Bridge

4. Caravan

5. Warm Valley

6. Take the Coltrane

7. Satin Doll

 

Joyful Noise Suite

8. Gladly

9. Sadly

10, madly

11. Koko

参加アーティスト

Tony Kadleck, Brian O'Flahty, Joe Mosello, Barry Ries, Tim Hagans(tp,flh)

Jim Pugh, John Mosca, Alan Raph, Randy Andos(tb) Peter Gordon(frh)

Andy Fusco, Chuck Wilson, Tom Christiansen, Scott Robinson, Kenny Burger(woodwinds)

Jim McNeely(p), Dennis Irwin, Ron Carter(b), Dennis Mackrel(ds)

Guest SoloistsTom Harrell(tp.flh), Bon Brookmeyer(tb), Phil Woods(as), John Pizzarelli(g, vo)

 
著者Profile
 
 
 
辰巳哲也( たつみ てつや)
 
DAVE鈴木
 
   
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
 
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