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Frank Capp  Juggernaut
今回はLAのベテランドラマー、Frank Cappの率いていたJuggernautを取り上げます。このバンドはベイシーが取り上げたレパートリーをやるバンドですが、私としてはこういうやり方も当然アリだと思うのです。
「IN A HEFTI BAG」&「PLAY IT AGAIN SAM」 Frank Capp  Juggernaut
Play it again, Sam!
ビッグバンドをやっていると「ゴーストバンド」という言葉を良く耳に します。バンドリーダーが無くなった後にそれを引き継いだバンドのこ とですね。今のエリントンやベイシー、グレン.ミラーなんかがその典 型と言えるでしょう。ゴーストバンドに対する評判があまり芳しくない のは、結局のところ「偉大なバンドリーダーだった故人に寄っかかって 商売してる」というイメージが強いからでしょう。実際こうしたゴース トバンドの大半はオリジナルのバンドに比べると変質していると思いま す。ジャズというのはそれだけ個人の才能に負うところが大きいからで す。まぁエリントンの場合はキャット.アンダーソンやハリー.カーネ イやジミー.ハミルトンなんかがいてこそのエリントンバンドだったの で、リーダーのみならずメンバーも大きかったのですが。 しかしながら、ビッグバンドのようにきちんと構築された譜面がありな がら、それを書いた人間しかやっちゃダメっていうのもおかしな話で す。モーツァルトやマーラーの音楽を作曲者以外がやってはならな い、っていうのと同じです。

さて、このFrank CappのJuggernautですが、冒頭に書いた 通り、ベイシー絡みのレパートリーしかやってません。が、ベイシーの レパートリーっていうのはベイシーが書いたものではないですね。ベイ シーがいなくなったらプロが演奏しなくなるという必要は微塵もないわ けです。むしろこうしたアマチュアの方々にも人気のある譜面を「これ でいいんだ」って思わせてくれるという一面もあるわけです。ベイシー 本家の演奏を聞いて「ここは思いっきりレイドバック」とかで苦労した 人、いるでしょう(笑)。そんなわけで、今回は彼の「In a Hefty Bag」と「Play it again, Sam!」を取り上げます。

マーシャル. ロイヤルや、スヌーキー.ヤング、ボブ.サマーズと言ったベイシー関 係者の名前もちらほら見えますが、メンバーはLAビッグバンド関 係の紳士録状態になっており、非常に強力です。どちらのアルバムもヘ フティとネスティコの名曲大会なので、いちいち曲を紹介する必要を感 じません。が、日頃ボブ.フローレンスやビル.ホルマンやゴードン. グッドウィンなどでおなじみのあの人やこの人が嬉々としてこういう曲 でソロを吹いているのを聴くのは楽しいものです。Hefty Bagでは Bag-A BoneでのThrman Green, Alan Kaplan, Andy Martinってい うある意味非常に豪華なソロバトルがありますし、Duetでのス ヌーキーとコンテ.カンドリのプレイなんていうのも貴重です。スヌー キーもこの時76歳ですが、全然衰えてないのが素晴らしい。また、こ のアルバムはマーシャル.ロイヤルの最後のレコーディングともなっており、最晩年の、でも決して衰えていない素晴ら しいアルトも楽しめます。

一方のサミー.ネスティコ作品集であるPlay it again, Sam!もまたビッグバンド関係者では知らない曲がないだろう状態なプログラムです。前作と違うのは、マーシャル.ロイヤルがいないこと、リードラッパがフランク.ザボ一本からカール.サーンダースがスプリットリードで入ったことくらいかな。このフランクとカールのリード分担システムは確か2004年に富士通コンコードでJuggernautが来 た時も採用されていました。ラッパ関係者にはここの聴き比べが興味深いかと。

メンバーがほぼ同じなのにこっちのアルバムの方が演奏の歯切れが良いように感じられるのは、アレンジャーの作風の違いなのかな。Heat's onやWind Machineのエンディングはベイシーのライブみたいな引っ張り方はしないで譜面通りにあっさり行ってますね。前のアルバムでも感じることなのですが、LAの百戦錬磨のスタジオミュージシャンが揃うと、善くも悪くもかっちりしすぎることがあるのですが、中にベテランのソロを配することでいい意味の味わいみたいなのが出るように感じられます。Conte CandoliとかBill Berryあた りが実にいい働きをしています。あとラッパで忘れてはいけないのがBob Summers。晩年期のベイシーでもフリューゲルホーンのソロが印象的な人でしたが、強力です。Freckle Faceのソロでの音色の太さやちょっとしたニュアンスにクラーク.テリーの影が沢山見えました。

ジャズだから常に新しいことは考えないといけないのですが、こうしたアレンジのしっかりしたビッグバンドの音楽というのはレコード限りになってしまうと時代に埋もれて忘れられてしまうので、こうした形で出るのはやはり良いことだなぁ、と感じます。もとろんそういう流れはヨーロッパの放送局系のビッグバンドではあるのですが。 正直言って、この二枚に収録されてる曲はほとんど全部演奏したことがあります。やっぱりベイシーがやるのとはひと味違うなぁ、と感じると同時に、別にベイシーみたいにやらなくてもいいんだなぁ、と気づかせてもくれます。

演奏のグレードは非常に高いので、社会人ビッグバンドをやられている方は持ってるといいような気がします。

収録曲
In A Hefty Bag
1. I'm Shoutin' Again
2. Cherry Point
3. Flight of the Foo Birds
4. Late Date
5. Scoot
6. Teddy the Toad
7. Dinner with My Friends
8. Midnite Blue
9. Bag-A-Bones
10. It's Awf'lly Nice to Be with You
11. Cute
12. Whirlybird
13. Duet
14. Li'l Darlin'
15. Fantail
16. Kid from Red Bank
参加アーティスト
Frank Capp(ds. leader)
Marshall Royal, Lanny Morgan, Danny House, Rickey Woodard, Pete Christlieb, Bill Green, Jack Nimitz(woodwinds)
Andy Martin, Thurman Green, Alan Kaplan(tb)
Frank Zsabo, Bob Summers, Snooky Young, Conte Candoli, Bill Berry(tp)
Dennis Budimir, John Pisano(g), Gerry Wiggins(p), Chuck Berghofer(b)
収録曲
Playit Again, Sam
1. Heat's On
2. Warm Breeze
3. Ja-Da
4. Sweet Georgia Brown
5. Katy
6. Wind Machine
7. Soft as Velvet
8. Ya Gotta Try
9. Freckle Face
10. Satin & Glass
11. 88 Basie Street
12. Night Flight
参加アーティスト
Frank Capp(ds, ldr)
Jacky Kelso, Steve Wilkerson, Rickey Woodard, Pete Christlieb, Bob Efford(woodwinds)
Frank Zsabo, Carl Saunders, Bob Summers, Bill Berry, Conte Candoli(tp)
Andy Martin, Thurman Green, Dana Hughes, Alan kaplan, Wendell Kelly, George Bohanon(tb)
John Pisano, Barry Zweig(g), Gerry Wiggins(p), Chuck Berghofer, Dave Carpenter(b)
著者Profile
辰巳哲也( たつみ てつや)
DAVE鈴木
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
http://www.myspace.com/
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