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追悼  Bob Florence  ボブ・フローレンス
ボブ.フローレンス。このCDレビューでは前任のDave鈴木さんもvol.9で取り上げていらっしゃったし、私も前々回に取り上げたばかりなのですが、半月程前に彼が亡くなったというニュースが入ってきたので、彼の追悼を兼ねていくつかアルバムを紹介しようと思います。
彼が世に知られるようになったのは、やはりName Band 1959とい うアルバムでしょう。このバンドはバリトンのいない4saxでの 編成になっています。一拍半系のフレーズの使い方やセクションごとの 絡みには晩年にまでつながる一つの様式みたいなものが見て取れます。 CD復刻に際して、オルタネイト.テイクが多数ありますが、どれも没テ イクとは思えないクォリティです。ギターがカッティングを刻んでいる こともあり、現在の作風よりはむしろErnie Wilkinsあたりを彷 彿とさせるサウンドです。

ボブ.フローレンスの音楽を語るときに外せないのがそのバンド編成で した。バリトン2本の6人のサックスセクション、5トランペット、と 非常に大きな布陣です。しかも番手の並びが対称形になります。バリト ンは両脇に(6番バリの役割が実に面白い)、ラッパはリードが 真ん中で両脇に4番と5番。初期のサドメルでもバストロンボーンが今 の2番の位置だったりしたようなのですが、こういうシンメトリックな 編成というのは非常に面白い。対称形なので、セクションを真ん中で二 つに割って、セクション内でのコール&レスポンス的なことも可能だ し、実際彼の譜面にはそういうパターンがよく見られますが、これは音 の位相という意味で効果的だと思われます。

バンドのフォーマットが対称的だ、と書きましたが、ボブの書法ってい うのは非常に幾何学的であるようにも思えます。彼の譜面には割と同じ ようなリズムパターンをたたみかけるような曲が複数あります。それは なんだか彼の中でのお気に入りのパターンという部品のようなものが あって、それを重層的に組み上げて曲にしてしまうように聞こえます。 これはアップンポの曲で特に顕著ですし、例えばEarthというア ルバムに収録されているEmilyのように、3/4と4/4 を交互に使い、山場で3/2にしてみたり、と,初期の一拍 半、もしくは3拍フレーズの多用によるシンコペーション感をさらに拡 大したような曲の作り方が随所に見えて、全曲で10分以上という恐ろ しく巨大な作品にしてしまう(パート譜面でも一曲で10枚を上回りま す)。個人的には彼のアレンジを聞いたり吹いたりしていると非常に大 きな建造物を見ているような錯覚にとらわれることがあります。

ボブのバンド、もしくはアレンジで特筆すべきことはサックス隊が全員 クラリネットに持ち替えできるということもあるでしょう。クラリネッ トセクションと言えば、古くはクロード.ソーンヒルの専売特許でした が、バスクラとコントラアルトクラまで動員した6本のクラリネットセ クションというのは圧巻です。Serendipity18というアルバムには Tres PalablasやNow Playingなど、そうしたクラリネットセク ションが楽しめる曲が複数あります。私の知り合いのミュージシャンの 話を聞いているとサックスとクラリネットの持ち替えというのはかなり 大変なんだそうです。だとすると、こうして持ち替えも完璧なサックス 隊が6人揃うっていうのはなかなかに大変なことだし、ハリウッド界隈 のスタジオの仕事が多いLAだからこそこういう贅沢ができるのか もしれません。メンバー全員ピッチが完璧なので、ユニゾンの部分は壮 絶に凄いです。

それから、あまり語られないことなのですが、ボブのアレンジメントと いうのは、エリントンやベイシーがそうであるように、ピアノが非常に 重要なところで目立つポイントが沢山書かれていることではないでしょ うか。さりげない高音のシンプルな単音の挟み込み方とか、クライマッ クスに入る前の低音域をゴンゴン弾くこととか、何気にもの凄くピアノ が美味しい場面が沢山あります。そしてそれはボブがピアノの「鳴らし 方」が素晴らしく上手であることもあいまって素晴らしい効果を与えて います。ボブのピアノのタッチがいかに素晴らしいかは FunupsmanshipというライブCDの冒頭のSlimehouseのイン トロ部分を聞けば十分お分かり頂けると思います。そう。彼もビッグバ ンドのダイナミクスの振幅の大きさをとっても大事にしているんです。 あ、それから彼はエレクトリックピアノを意図的に使いますね。「この 曲はエレピ」って決めてから書くタイプです。そして多くの場合ベース もエレベを要求したりします。例えばWith All Bells and Whistlesというアルバムのタイトル曲なんかは典型です。ちなみにこの 曲にはソロが一切存在しません。ラヴェルのボレロのような、ブラーム スの交響曲4番の最終楽章のような変奏曲のようです。素晴らしい色彩 感とダイナミクスのコントロールで飽きさせません。アレンジャーとし て素晴らしいスタイリストであったと思います。

今回は追悼をかねて沢山のアルバムを俎上に乗せました。モダンオーケ ストラルジャズの大きな潮流というのは明確にLAにもあるし、ボ ブはその騎手の一人であったからです。が、残念なことに日本のジャズ メディアはNYCは詳しく伝えるけどLAのことは伝えてくれ ません。私の周囲にいる留学して学んできた人達の多くが、アレン ジャーとしての学生達の間でのボブの人気が高いことを口にします(こ ういう日本で情報の伝わらないアレンジャーは実は一杯いる)。もう彼 の姿を生で見ることはできないけれど、これをきっかけに彼の音楽を聞 き直して頂けたら嬉しいな、と思います。ここに挙げたアルバムは国内 版では出ていませんし、どちらかというと現在入手困難なものもありま す。でも、皆さんが興味を持って探してくれればそれが積もり積もって 再復刻とかいろいろな形でもっと知られるようになるかもしれないし、 そうなって欲しいと思っています。エリントンやベイシーやミンツァー やメル.ルイス周辺とかいわゆるNYCの音楽だけではビッグバン ドを楽しむには片手落ちだと思います。個人的にはこの数年LAの こうした音楽に多く接したことでその思いを強く持ちました。自分の今 の歳を考えたらボブが亡くなるのも仕方ないことです。会って話したこ とはほんの少ししかないけれど、こうした作品群から沢山のことを教え てもらったと思ってます。ありがとう。ボブ。
Name Band 1959

Earth

Serendipity18

Funupsmanship

With All Bells and Whistles
著者Profile
辰巳哲也( たつみ てつや)
DAVE鈴木
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
http://www.myspace.com/
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