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SWR Big Band featuring Bob Florence
今回はヨーロッパのビッグバンドを取り上げてみましょう。60年代後ヨーロッパでは放送局がオーケストラを持っているケースが非常に多いです。
しかもクラシカルなオケだけでなく、ビッグバンドを持っているところも結構あったりします。日本だとジャズはお役所的には大衆芸能とカテゴライズされ、クラシックなどとは一線を引かれている感じがあって(歌舞伎と落語もそうだ)、こと音楽についてはヨーロッパの懐の深さというのは羨ましいと常々感じています。さて、今回紹介するSWRビッグバンドはもはや60年近くの歴史を持つ南西ドイツはシュトゥットガルトにあるビッグバンドです。
Stan Kenton
このビッグバンドは非常に沢山のアルバムをリリースしていますが、今回はバンド設立50周年記念のアルバムであるGoldener Meiensteinを紹介しましょう。タイトルは英訳するとGolden Milestone、即ち金字塔とでも言うのでしょう。このアルバムはボブ.フローレンスに50周年記念の組曲を委嘱し、ピアノでも全面参加というものです。実はSWRはこうしてゲストを招いてそのコンポーザー/アレンジャーの作品集のアルバムを作るというのを非常に積極的に行っています。思えばジャズも100年を越える歴史を持つ音楽様式ですし、時代によって明確なスタイルの違いがあるので、例えばクラシックでモーツァルトチクルスとか、マーラーチクルスを企画するのと同じようなことをしても良い訳で、実はSWRはそうした切り口でこうしたアルバム群を作っている恐らくは世界で最初のビッグバンドではないかと思います。アメリカでもCarnegie Hall Jazz BandやLincoln Center Jazz Orchestraもそうしたことはしていますが、ここまでのアルバム群はないわけで。

ボブ.フローレンスを紹介するのであれば、彼のバンドであるLimited Editionを紹介すれば良いような気もしますが、あえてこっちにしたのには理由があります。音楽っていうのは不思議なもので、アメリカ人がやればアメリカ人の(しかも黒人と白人で違うし)、ヨーロッパ人がやればヨーロッパの、日本人がやれば日本の音がするわけです。が、これはボブの譜面とヨーロッパ人の感覚っていうのが非常にマッチしていて、いつものLimited Editionとは違う高貴な雰囲気が感じられるのです。もしかするとこれは録音するバランス、っていうか音色の特性っていうか嗜好にアメリカとヨーロッパでは微妙な違いがあって、そのあたりも左右しているのかもしれませんが。それと、特筆しておかないといけないのはボブ.フローレンスのピアノの巧さです。技巧的にどうこうっていうんじゃなくて、非常に綺麗に楽器を鳴らすということ。しかもコンピングのセンスも素晴らしいし。昔ニューヨークで普通のアップライトを弾いた時の音色には鳥肌立ったものです。ボブの譜面はオケが鳴りまくってるときでもきちんとピアノが目立つポイントを作ってあって、エリントンやベイシーと違う一つのスタイルがあるわけなんですが、それが案外知られてないように思います。いやはや美しいです。ボブのピアノ。SWRのこのシリーズは相当数があるので、このシリーズを全部揃えると現在のモダン.ビッグバンドの全容が把握できると言っても過言ではありません(http://www.swrbigband.de/)。

アマゾンで見るとプレミアが若干着いているようですが、私は国内で購入しました。日本でビッグバンドと言えば某銀座のお店だと思うのですが、そういうところに行けばあるはずです。SWRのオンラインショップでも購入可能です。Bob Florence Limited Editionのアルバムはまた別の機会にしたいと思います。
収録曲
1 Part 1 8:27
Solos: Klaus Graf (ss), Karl Farrent (trp)
2 Part 2 6:33
Solos: Bob Florence (p), Ernst Hutter (trbn)
3 Part 3 5:39
Solos: Jg Kaufmann (ts). Klaus-Peter Schfer (g), Holger Nell (d)
Composed and arranged by Bob Florence
Published by Russlynn Music (ASCAP)
4 You Must Believe In Spring 9:58
Solos: Bob Florence (p), Jg Kaufmann (ts)
Composed by Michel Legrand
Arranged by Bob Florence
Published by Beaujolais Music
5 Whatever Bubbles Up 11:06
Solos: Karl Farrent (trp), Marc Godfroid (trbn), Andi Maile (ts)
Composed and arranged by Bob Florence
Published by Russlynn Music (ASCAP)
6 Take The "A"-Train 7:35
Solos: Claus Reichstaller (trp), Pierre Paquette (ts), Holger Nell (d)
Composed by Billy Strayhorn
Arranged by Bob Florence
Published by Tempo Music
7 Night Train 9:27
Solos: Andi Maile (ts), Claus Reichstaller (trp), R-iger Baldauf (trp)
Composed by Jimmy Forrest
Arranged by Bob Florence
Published by Carlin Music/Frederick Music
8 A Mirror Image 6:31
Composed and arranged by Bob Florence
Published by Russlynn Music (ASCAP)
9 Some Bad And Beautiful Blues 7:27
Solos: Axel K・n (as), Karl Farrent (trp), Holger Nell (d)
Composed and arranged by Bob Florence
Published by Russlynn Music (ASCAP)
73:00 min
著者Profile
辰巳哲也( たつみ てつや)
DAVE鈴木
神戸市生まれ。10歳から本格的に楽器を始め、大学入学後ジャズに傾倒。卒業後しばらく会社勤めをしてプロに転向。神戸在住時にAtomic Jazz Orchestra, 西山満氏のHeavy Stuffなどにも参加。98年Global Jazz OrchestraでMonterey jazz Festivalに出演。98年、秋吉台国際芸術村でのアーチスト.イン.レジデンスにAssociate Artistで参加、Dr. Fred Tillis氏の薫陶を受ける。2001,2003年にPersonnage Recordingよりアルバム発表。打込みを含むほとんど全てのトラック制作を行い、クラブジャズのフィールドでロンドンや北欧で反響を呼ぶ。2004年にジャズライフ誌にて「トランペット超初級者コース」連載。50年代ウエストコーストジャズを回顧するオクテット、Bay Area Jazz Ensembleを主宰し、それを母体としたビッグバンドも展開している。一方で2005.6年とThe Five Corners Quintetのトランペット、Jukka Eskolaとジョイントし、2008年にはTom Harrellと東京でセッションを行いラッパ関係者の間で大きな話題となった。Eddie HendersonやCarl Saundersを初め、多くの海外のミュージシャンとも親交が深い。Lincoln Center Jazz OrchestraのEducational Programでの通訳サポートなど、演奏のみならずジャズ教育のフィールドにも関与。『ジャズ』という記号のある音楽であればなんでもやるオールラウンダー。IAJE会員。
http://www.myspace.com/
tetsujazz

http://members3.jcom.
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