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マイク・バローン・ビッグバンド
マイク・バローンは、L.A.のジャズシーンに大きく貢献しているアーティストで、トロンボーン奏者である一方、作編曲を得意としており、バディ・リッチ、カール・サンダース、バド・シャンクらのビッグバンドを初めとする多くのビッグバンドに曲を提供しています。最近では自身のビッグバンドのライブレコーディングを行っており、その編集も自宅のパソコンでこなすマルチぶりを発揮しています。今回ご紹介するのはそのライブレコーディングの第3弾となるもので、非常に多彩なプログラムをお楽しみ頂けます。
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マイク・バロン。この人の譜面は色々な現場で何度か目にしていて、個人的には非常に親近感があったのですが、こうしてアルバム単位で聴くのは初めてです。メンバーを見てみると、リー・ソーンバーグがいてビックリ。この人は初期Tower of Powerでグレッグ・アダムスと並んで吹いていた人で、久しぶりに名前を見たなぁ、という感じなのです。メンバー全員を知っている訳ではないのですが、LAビッグバンド界の常連さんな名前が多数見られ、聴く前から安心感があります。本作は、マイクが仲間内から「これ録音しなよ!」って言われてきた曲ばかりを集めたらしく、それでこういうタイトルになったそうです。よく見るとミックスを本人が自宅のPCでやったと書いてます。なんだか凄い時代になったものです。

1曲目「My Melancholy Baby」はいわゆるスタンダードですが、1912年に書かれたものだそうです。それはそれとして、音が出た瞬間に「これは凄くいいバンド」と直感しました。この音は日本のビッグバンド関係者であればプロアマ問わず参考にすべきです。それは音量の問題。決して過剰にブロウすることなく、お互いが良く聴き合って響きのバランスを取っている感じを受けます。しかもこれはライブ録音なのです(学校の一室を使った、セッション録りではなく、一発録り)。多分マイクが「ソロ後に拍手しないこと」を要求したのでしょう。曲が終わって拍手が出たのでビックリしました。マイクとアーニー・ワッツがソロを取ります。

2曲目「Slide-O」は60年代終わりに自分のバンドの為に書いたオリジナルだそうです。キム・リッチモンドがソロを取ります。一曲目に続きフルートの存在がいい味を出しています。アンサンブルでフォルテになるような場面でもバンド全体の余裕がありありで、非常にゴージャスな感じを受けます。

3曲目「No Man's Land」はスパイロ・ジャイラの曲。個人的にはスパイロはキーボードのトム・シューマンよりも、この曲を書いたジェレミー・ウォールの方が好きでした。当然アーニー・ワッツにソロが回ります。ピアノのJohn Proulx氏は初めて見る名前なのですが、写真を見る限りバンドでは相当若い人のように見えます。この3曲まではリードトランペットはリー・ソーンバーグがクレジットされています。Tower of Power時代とは相当キャラクターが違いますが、実にいい仕事です。

4曲目「Peachy」は昔のNBCのテレビ番組、Late Night Showのエンディングテーマだそうです。本人はLil' Darlin'にインスパイアされたと書いていますが、むしろJa-Daに近い感じがします。ソロはボブ・サマーズ。ビル・ホルマン・バンドのレギュラーでもありますが、この人も巧いんだよなぁ。

5曲目「Five Foot Two」は1914年に書かれた曲で、当時は別のタイトルだったというエピソードがあるそうです。マイク本人が「コイツらには一体何が起きてたんだ?」という驚きのコメントを作曲者に対してしていますが、冒頭8小節のコードチェンジはGeorgia on My Mindとほぼ同じ、しかもある程度リハモされているとは言え、とても1910年代の曲とは思えません。ここからリードトランペットはビル・ホルマン・バンドで2番を吹いているピート・ディシエナに変わります。この人もラウドに力で行かないタイプ。日頃カール・サーンダースの脇で吹いてるからでしょうか。

6曲目「Elkhart」はIndiana(Donna Leeのコード進行の元ネタ)のコード進行に基づく曲。IndianaをもじってElkhartというタイトルの意味が分かったあなた、間違いなく金管楽器をやっている人ですね(笑)。ソロはアルトとピアノに回ります。これのアンサンブルは吹き堪えありそうです。冒頭に音量のことを触れましたが、この曲のエンディングで彼らがどういう風に吹いているかというのは、ビッグバンド関係者には非常に勉強になるものです。

7曲目「Tobiasse」のタイトルはマイクの自宅の壁に掛けてある絵の作者なんだそうです。どんな絵なのでしょう?ソロはピアノとトランペット。個人的にはボブ・サマーズはベイシー時代のフリューゲルホーンでのソロワークとかが好きだったので、ここでもフリューゲルで行って欲しかったですね。トランペットのパリっとしたトーンは魅力的なんだけど、ボッサだし、自分だったらフリューゲル持っただろうな。まったり哀愁系なボッサです。

8曲目「While You Are Gone」はビバップ期から活躍していたテナー吹き、ラッキー・トンプソンの書いたバラード。マイク本人は「ビバップ・バラード」と呼んでいるそうです。テナーフィーチャーで、ここではVince Trombettaが吹いてます。この人金管楽器みたいな名前だ(笑)。それにしても「Five Foot Twoにしても、マイクは昔のいい曲を沢山知っていますね。

9曲目「Mr. Magu」は、ライナーでこの曲にまつわるジョークみたいなのを書いてるけどなんだか良く分からない(笑)。でもがっつり盛り上がる系の曲です。少し大人しいGordon Goodwinとでも言う感じ。アーニー・ワッツがお約束通りにがっつり吹いてくれてます。

10曲目「Song For Our Father / Other Happy Moments」はマイクが1979年に兄弟のゲイリーと兄弟名義で作ったアルバムの中の曲です。3曲メドレーって書いてるけど、トラックは2つに分かれてますね。このメドレーはマイク本人のセレクションだそうです。

Song for Our Fatherはトランペットフィーチャーのバラードで、そのままOther Happy Momentへと流れます。少し陰影のあるボッサです。フルートソロのエンディングとともに曲目「Almost Blues」に流れます。バリトンソロとトランペット2本、そしてピアノへとソロが回ります。 これが当時どう評価されたか分からないのですが、90年代半ばくらいからこうした組曲を作るのが少し流行ったので、これはいい再評価の機会になるでしょう。

冒頭にも書いた通り、私自身は彼の譜面を断片的に吹いたことがあるだけだったのですが、アルバム全体を通して参考になるところが沢山ありました。マイク・バロンはセヴァリンセンのところに23年在籍していたそうですが、音楽をかっこ良く、エンターテイメント性を失わせずに見せるツボみたいのが分かりまくってる感じがします。過剰に難しいことを要求しない譜面でもありますし、いかにも「やってみたい」と思わせるものが沢山ありました。この人のアレンジの多くが販売譜になっているのも納得です。

それから何度でも声を大にして言っておきたいのが、ビッグバンドの音量はどうあるべきかということをこのアルバムは如実に語っているということです。決してオーバーにラウドに吹かないからこそ全体がきれいに響くということをこのアルバムは教えてくれます。ビル・ホルマンやカール・サーンダースのビッグバンドでもそれは明確に感じられることなのですが。恐らくこの譜面をやってみたいというアマチュアや学生ビッグバンドの方は大勢出てくるだろうなぁと予測していますが、書かれた譜面をただ吹くというのではなくこういうサウンドのバランスも追っかけてもらいたいなぁと思わせられました。

それにしてもライブ一発録音でこのクォリティ。LAのスタジオの連中は半端ではありません。恐れ入りました。
レビュー協力:辰巳哲也

なお、KOBEJAZZオープン時から私DAVE鈴木がこのコーナーを担当させていただきましたが、今回が最後となります。今までおつきあい下さいまして、誠にありがとうございました。次回以降は、私のレビューのお手伝いをして下さっていた辰巳哲也氏が担当することになります。今後ともこのコーナーをよろしくお願いいたします。
収録曲
1. My Melancholy Baby [ E. Burnett / G. Norton / M. Watson / arr. Mike Barone ]
2. Slide-O [ Mike Barone ]
3. No Man's Land [ Jeremy Wall / arr. Mike Barone ]
4. Peachy [ Mike Barone ]
5. Five Foot Two [ S. Lewis / J. Young / R. Henderson / arr. Mike Barone ]
6. Elkhart [ Mike Barone ]
7. Tobiasse [ Mike Barone ]
8. While You Are Gone [ Lucky Thompson ]
9. Mr. Magu [ Mike Barone ]
10. Song For Our Father / Other Happy Moments (Barone Brothers Medley) [ Mike Barone ]
11. Almost Blues [ Mike Barone ]
参加アーティスト
[Mike Barone, leader, trombone
TRUMPETS: Lee Thornburg, Pete DeSiena, Bob Summers, Mark Lewis
TROMBONES: Charlie Loper, Dick Hamilton, Bill Booth, Craig Gosnell
SAXES: Kim Richmond, Keith Bishop, Ernie Watts, Vince Trombetta, Brian Williams
RHYTHM: John Proulx-piano, Joel Hamilton-bass, Paul Kreibich-drums
Rhubarb Recordings 104
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
どこで買えるの?
ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
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