CDレビュー
バックナンバー
ラテン・ビッグバンド
ラテン・ビッグバンドと一言で言うと、ペレス・ブラード楽団のようなコテコテのラテン・サウンドやサルサバンドを思い浮かべてしまいますが、今回はそれらとは趣の違うラテン・ジャズ系のビッグバンドのアルバム2作品をご紹介したいと思います。
BOBBY SANABRIA
アルトゥーロ・サンドヴァル。彼を初めて見たのは1988年のジョルジュ・グルンツ・コンサート・ジャズバンドの来日公演でした。彼については当時亡命前で情報がほとんどなく、フリーなど内省的な方向性も大きく持ったこのバンドをお祭り状態に持って行ってしまい、客全員が呆気にとられた状態になった時の印象が今でも強く残っています(この時のトランペットはMarvin Stamm, Kenny Wheeler, Manfred Schoof, Arturo Sandoval)。

アメリカ亡命後の音楽も聴く機会はあったものの、あまりに上手いが故の『唯我独尊』的プレイが鼻につかないわけでもなく、特にジャズ系での飛び道具的使い方のものにはあまり耳を傾けなかったのですが、本作のタイトルは直訳すれば

「ルンバ宮殿」

これは楽しいかもしれません!編成を見ると、多重録音も行われていますが、4Tp,4Tb,1Sax(多重録音あり)+リズムという興味深いもの。MFの編成との比較も気になりますが、やはりラテンにはトロンボーンのアンサンブルは個人的に不可欠なので、嬉しい編成でもあります。

タイトルから全編ルンバかと思ったら1曲目「A Gozar」はマンボ・クラーベの曲でした。アルトゥーロ・サンドヴァルがいきなり歌います。コロ部隊もおり、ラテンジャズな風合いもありますが、むしろサルサな感じです。サルサにはルイス・“ペリーコ”・オルティスという大物がいますが、ペリーコが比較的端正なのに比較して、アルトゥーロは豪放です。ハイノートでの歌い方にはMF的なものを強く感じます。

2曲目「Guarachando」も2-3のマンボ・クラーベなラテンジャズ。ここでは自分一人でラッパとバストランペットでバトルをやっています。ここではハイノートはほとんど使わないでジャズ的なフレージングに終始しています。ソロ中でのこういうキャラクターのサンドヴァルというのは珍しいと思います。

3曲目「El Huracan Del Caribe」は直訳すると「カリブの台風」。歌直前のキメが相当暴風っぽいですが、曲そのものはサルサな風合いです。

サルサとラテンジャズの仕切りが今ひとつ良く判別できない筆者ではありますが、ピアノのソンやモントゥーノを弾いてる比率みたいなのが関係するのかなぁ、などと考えるのであります。

4曲目、もう7年経っていますが、タイトルは「21世紀」なのであります。こうした「時代」をタイトルにする曲というのはその人のその時点での未来に対するイメージが出るもので、個人的にはミンツァーの”In the 80s”なんかを思い出したりします。テーマはトム・ハレルやウディ・ショウみたいな4度跳躍系な入り組んだモチーフで、なるほどなぁという気分にさせられます。曲もトーナルセンターっぽい感じの響きで、なかなかモダンです。このアルバムのアレンジは全曲サックスのFelipe Lamogliaが書いていますが、かなりの手練とみました。

5曲目のタイトルは「Sexy Lady」。う~ん。やっぱりラテンジャズ系だとこういうタイトルのがないと(笑)。とは言え、ベタ甘なバラードではなく、ゴージャスで妖艶なイメージの曲です。セクシーといったって、ただ若ければいいというのではない、ということなのでしょうか。「Guarachando」でもそうだったのですが、とにかく吹き倒すというのではない、丁寧に歌うというソロトラックがあるのが個人的には嬉しいです。

6曲目「Peaceful」はバラードです。どうもサンドヴァルというと超絶テクニックでハイノートを...というところばかりに目がいきがちですが、バラードでの深みっていうのが実は素晴らしく、もっと注目されて良いと思います。音量の抑制の利いた素晴らしいハーマンのソロです。個人的にはこの人のフリューゲルは大好きなので、フリューゲルで聴きたかったという気もします。そういえばこのあるバムではハーマン結構使ってる気がしますね。今の時点で本人ツボなのかな。

7曲目「Having Fun」はラテンビートに乗ってますがブルースです。ここでもハーマンでソロを吹いてます。オープンでのソロだと、とにかくやたら速くて高くて凄いみたいなことになりがちなのですが、ハーマンだときちんと端正なフレーズを吹いてくれるので、いいソロの勉強になります。

8曲目「Arranca De Nuevo」は、これもラテンらしい哀愁感のある曲です。ここではサンドヴァルはフリューゲルを吹いています。彼のフリューゲルは音色がとても甘くて大好きなのですが、個人的には「Peaceful」をフリューゲルにしてこの曲をハーマンで演奏して欲しかったです。テーマの後ろのアンサンブルやリズムの音の立ち方でフリューゲルの甘さが殺されてるように感じるからです。

9曲目「Rumba Palace」はタイトルトラックです。筆者はラテンにそれほど精通していないので、これがルンバになっているのかよくわかりません(ルンバ・クラーベではないような気がする)。非常に軽い感じに聞こえるのはフェンダーローズの音色のせいでしょうか。サンドヴァルはテーマでフリューゲル、ソロではカップミュートを使います。

10曲目「Nouveau Cha Cha」は、直訳すると「新しいチャチャ」ですね。確かにチャチャに聞こえます。そんなリズムの定義はさておき、今回彼の選択したこのバンドの編成の音色の厚みが存分に楽しめます。ソロではカップとは少し違うミュート音を使っています。これバケットかな?。

今までサンドヴァルという人には「唯我独尊」で吹きたいだけ吹いて叩きたいだけ叩いて歌って、というある意味我の強さみたいなものが全面に出ている印象が強かったのです。彼のライブも見たことはありますが、下手をすると一本調子になっちゃう脆さみたいなものが気になって、近年のアルバムは聴いていなかったのです。本作では、多彩なミュートであったり、決してハイノートだけではない様々な魅力を呈示していると思いました。サーヴィス精神旺盛な人なので、ライブでは行っちゃうところまで行っちゃうのでしょうが、サンドヴァルの巧さが様々な角度から堪能できる作品だと思いました。もっと「どルンバ」なものを期待しましたが、予測を覆す楽しさがありました。

レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. A Gozar [ Arturo Sandoval ]
2. Guarachando [ Felipe Lamoglia ]
3. El Huracan Del Caribe [ Arturo Sandoval ]
4. 21st Century [ Arturo Sandoval ]
5. Sexy Lady [ Arturo Sandoval ]
6. Peaceful [ Arturo Sandoval ]
7. Having Fun [ Arturo Sandoval ]
8. Arranca De Nuevo [ Arturo Sandoval ]
9. Rumba Palace [ Arturo Sandoval ]
10. Nouveau Cha Cha [ Arturo Sandoval ]
参加アーティスト
[Trumpets] Arturo Sandoval, Jason Carder
[Trombones] Dana Teboe, Dante Luciani
[Saxophone] Felipe Lamoglia
[Rhythm] Tony Perez (piano), Armando Gola (bass), Alexis "Pututi" Arce (drums), Tomas Cruz (percussions)
[Vocal] Arturo Sandoval, Cheito Quinones, Sr.
Telarc 83662
BOBBY SANABRIA
ボビー・サナブリア。日本で彼の名前を知っている人がどれだけいるのかよく分からないですが、私個人はIAJEのカンファレンスでは必ず名前を見るし、記憶に間違いがなければ彼のレクチャーも見たことがあるはずです。

ラテンミュージックでは古くはペレス・プラードやマチート、ティト・ロドリゲスみたいなトラディショナルなラテンミュージックをビッグバンド的な編成でやるというのが沢山あったのだけど、現在ではこうしたラテンジャズ・ビッグバンドというのは案外数が少なく、しかもジャズを通過した人がバンマスだとそうした過去のオーセンティックなラテンバンドに比較するとかなり複雑なリズムが要求されたりしているケースが多い。このボビーのバンドもどっちかというとそういうタイプの音楽。こうしたラテンビッグバンドジャズは、パーカッションの関係で日本では一部のプロとか学生ビッグバンドサークルくらいしか実際に演奏する人達はいないんだろうけど、ラテンジャズのお約束である強力なブラスセクションもきちんと配備されていて聴いていてとても楽しいものです。

1曲目「57th St. Mambo」はマイク・フィリップ・モスマンのオリジナル。この人は80年代にケニー・ギャレットとかとOTBというコンボをやっていたのですが、晩年のマリオ・バウザのバンドでも活躍していました。いかにもモダンなラテンジャズになっています。タイトルを直訳すると「57丁目のマンボ」なんですが、なんだかペレス・プラードっぽくなってしまいますね。

2曲目「Pink」はトロンボーンのクリス・ウォッシュバーンのオリジナル。ラテンジャズのブラスセクションというのは濃厚に鳴ってもらいたいものですが、そのあたりもバッチリです。ラテンの世界のミュージシャンは知らない人ばかりなのですが、ハイノートもバッチリと鳴っており聞かせてくれます。

3曲目「Since I Fell For You」ではヴォーカルも入ります。テーマのところは非常にオーセンティックなラテンで、リズム隊はパーカッションだけなんですが、曲中のソリとかになったらドラムが入ってジャズなリズムになったりしてます。考えてみればオーセンティックなラテンバンドにはドラムはいない訳で、ラテンジャズ・ビッグバンドがラテンジャズ・ビッグバンドたる由縁はドラムの存在なのではないかと思います。プランジャーのラッパのソロがあったり、バック・ヴォーカルをミュージシャンがやっているのが微妙に音痴だったり、いかにもニューヨリカンな感じがします。

4曲目「D Train」の作曲者はちょっとよくわかりません。サルサバンドだとほぼ全編ベースはアタマ抜きな感じのラインばかりなのですが、ラテンジャズバンドだと必ずしもそうではないんですよね。だからこそのラテンジャズ・ビッグバンドなのですが。リーダーのボビー・サナブリアはドラムとパーカッション担当なんだけど、ドラムをパーカッションの一部と捉えて叩くところと叩かないでもいいところの仕切りが絶妙です。

5曲目「El Lider」はバリトンのリカルド・ポンスのオリジナル。これはほぼ全編ドラムなので、譜面があるんだったらやっても楽しいでしょう。クラップハンズやシャウトの掛け合いなど、ライブでやったら盛り上がる小道具がいっぱいあります。

サルサも含めてラテンミュージックではヨルバ信仰に出てくる神様が登場することが良くあります。ヨルバ教は古いアフリカの信仰で、これがラテンジャズに登場してくる経緯は個人的、文化学的に気になっていることなのであります。

6曲目「El Ache De Sanabria En Moderacion」ではやはりそうしたヨルバ教の神様の一人、オバタラ(中路さんのバンドの名前にもなっていますね)にお祈りするヴォーカル役というのがフィーチャーされてたりします。ミュージシャンがどれくらいこうした神様を信じているかどうか分からないんだけど、欧米の音楽っていうのは神様の存在を避けて通れないんだなぁ、と思います。とはいえ別に過剰に宗教的ではないです。ボビーはマリンバも弾いてます。

7曲目はご存知「ベサメ・ムーチョ」。ヴォーカル入りの非常にオーソドックスなトラックだと思います。ソロになるとみんなジャズも上手いのでどうしてもジャズっぽくなってしまいますが、トロンボーンのソロなどはいかにもラテンのソロ的な王道を行くもので、佳いです。

8曲目「The Crab」はトロンボーンのジョー・フィードラーのオリジナル。これもモダンなラテンジャズです。こういうマイナー系ツーファイブが中に織り込まれた曲っていうのはラテン的哀愁感があって日本人でも好きな人は多いんじゃないかと思います。ただ、実際に演奏したいとなると、ドラムとパーカッションの兼ね合いで難しいんだと思います。

9曲目「O Som Do Sol」はブラジルの孤高の天才、エルメート・パスコアルの曲です。ボビーがエルメートを好きなのはちょっと意外な感じがします。エルメートはブラジルの怪物ミュージシャンで、彼の独自のプログレ・ブラジリアン・ジャズフュージョンみたいな音楽は個人的には大好きなんです。70年代に本人のあるバムでビッグバンドなんかをベースにした大編成のアルバムがあるんですが、こういう編成でエルメートの音楽を聴けるのはエルメートのファンでもある私には嬉しいです。この曲はいままでのラテンとかアフロキューバンというのとは少し世界が違っています。

10曲目「Blues For Booty Shakers」はボビーのオリジナルのブルース。テーマがヴォーカルでバンドメンバーのヴォイスとコール・アンド・レスポンスにしていて、キャブ・キャロウェイを思い出しました。テーマをメンバーが歌うっていうやり方はガレスピーやウディ・ハーマンなんかがビバップの時代にやってたことでもあって、ある種色物っぽいのですが、たまにこういうのがあるのもいいですね。

11曲目「The Grand Wazoo」はフランク・ザッパの曲です。ザッパのフルバンド物というと真っ先にEd Palermoのバンドが頭に浮かぶのですが、こちらの方がザッパ的で濃厚な感じがとてもいいです。私はザッパはあまり詳しくないですが、ザッパ好きな方には相当楽しんで頂けるのではないかと思います。

12曲目「Obrigado Mestre」もパスコアルのカバー。パスコアルの音楽はブラジルな要素は強力に残りつつも猛烈にオリジナルで美しいです。マイルスのLive-Evilでのコラボでも凄いことになってるし。このようなものは、いわゆるラテンミュージックのバンドじゃなくてラテンジャズ・ビッグバンドじゃないとできないですね。

こうしたラテンジャズ・ビッグバンドは存在自体が貴重なのではないかと思うのですが、ボビーのバンドはオーセンティックなラテンに拘るのではなく、ラテンパーカッションというツールで南北アメリカ大陸とアフローカリビアンなものを融合させたいという指向があるのではないかと感じました。トラディショナルなラテンの曲からパスコアル、ザッパまでカバーするところにその意気込みが現れているとみました。

レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. 57th St. Mambo [ Michael Philip Mossman ]
2. Pink [ Chris Washburne ]
3. Since I Fell For You [ Buddy Johnson / arr. Ray Santos ]
4. D Train [ Jeremy Flectcher ]
5. El Lider [ Ricardo Pons ]
6. El Ache De Sanabria En Moderacion [ Gene Marloe / Marloe and Bobby Sanabria ]
7. Besame Mucho [ Consuelo Velazquez / arr. Jeremy Flectcher
8. The Crab [ Joe Fiedler ]
9. O Som Do Sol [ Hermeto Pascoal ]
10. Blues For Booty Shakers [ Bobby Sanabria ]
11. The Grand Wazoo [ Frank Zappa / arr. Bobby Sanabria ]
12. Obrigado Mestre [ Hermeto Pascoal ]
参加アーティスト
[Saxophones] David De Jesus, David Bixler, Peter Brainin, Jeff Lederer, Ricardo Pons
[Trumpets] Kevin Bryan, Shareef Clayton, Justin Davis, Andrew Neesley, Michael Philip Mossman
[Trombones] Joe Fiedler, Dave Miller, Tim Sessions, Chris Washburne
[Rhythm] Yeissonn Villamar (piano), Alex Hernandex (bass), Bobby Sanabria (drums), Giancarlo Anderson (bongo), Cristian Rivera (conga), Obanilu Allende (percussion)
Jazzheads JH1156
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
どこで買えるの?
ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
index.php?afid=kobe
で購入出来るほか、山野楽器銀座本店、ヤマハ銀座店CD売り場、タワーレコード全店、ジュージヤ梅田ハービスENT店などでご購入いただけます。
PAGE TOP