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LAの大御所アレンジャー、Bill Holman
ビル・ホルマンは、まぎれもないLAの大御所アレンジャーです。彼の音楽はウエストコーストジャズとカテゴライズされるのかもしれませんが、50年代のスタン・ケントンにアレンジを提供した時代から現在まで、多くのアレンジャーに影響を与えていおり、また、彼のリニアなライティングはサド・ジョーンズやボブ・ブルックマイヤーにも大きな影響を与えています。よって、ビル・ホルマンはオーケストラル・ジャズを語る上で絶対に外すことの出来ない重要人物なのです。今回は、Bill Holmanの8年ぶりであり、2006年のグラミー賞“Best Large Jazz Ensemble Recording”部門にノミネートされた「LIVE」そして、つい最近リリースされた「Hommage」をご紹介させていただきます。
Live
実績は凄いのに自身のリーダー作としては8年ぶりとなる本アルバムは、2005年のライブ録音です。ビルの譜面は時に内省的でとっつきにくいことがありますが、ここではライブということもあり彼のユーモラスな面も沢山出ていて、非常に楽しめる構成になっています。

一曲目の「Woodrow」はWoody Hermanへのトリビュート。昔ハーマンバンドのテーマだったBlue Flamesが織り込まれています。エンディングへ向かうシャウトコーラス、ホルマンらしさ満載です。

2曲目はビートルズの「A Day in The Life」。ホルマンでビートルズというと、バディ・リッチに提供した「ノルウェイの森」が圧倒的に有名ですが、バディ・リッチ的イケイケなものではなく、特に後半はかなり高度な和声を用いた捻った作りになっています。

3曲目はバリトンフィーチャーの「Bary Me Not」。ブルージーな素材がテーマなのですが、単純にブルージーにしないところがこの人らしい。

メンバー紹介を挟んで「Donna Lee」。テーマのポリトーナルなアンサンブルで思いっきりよじれて下さい。曲のキーはAbですが、GとEのキーでメロディが同時進行してます(笑)。テーマ戻り前やエンディングのアプローチは現代音楽にも造詣が深い彼ならではの手法ですね。

5曲目はライトハウス時代の音楽仲間であったフランク・ロソリーノの代表曲である「Blue Daniel」。トロンボーンにソロを回さないのは彼なりのフランクへのリスペクトか。ただ和音を積み重ねるのではなく、複数のラインを重層的に並べてモダンな響きを構築する彼の作風が存分に堪能できます。

6曲目の「Press One」はホルマンのユーモラスな一面が良く出た曲。何でこういうタイトルになったかは本人がMCで喋っていますので、そちらでお確かめ下さい。それでこういうイントロなのね、っていうことが分かるのがまた楽しいでしょうから。

7曲目の「The Bebop Love Song」はバラード。この曲を聞いていて、彼が90年代中期にモンクばっかりアレンジしたアルバムを思い出しました。テーマの音の並びがモンクっぽく聞こえるのは私だけでしょうか?

アルバム最後を飾る「Zoot 'N' Al」は2テナーバトルの曲。このソリスト設定では盛り上がるというのがお約束で、他のビッグバンドでも色々なこうしたバトル系の曲があると思うのだけど、ビルはZoot Sims~Al Cornのチームへのトリビュートを持ってきました。さすがLAの人です。軽快かつ御機嫌にスイングしています。

バンドのメンバーはLAのスタジオの腕っこきばかり。自分がトランペット吹きでもあるし、知っている人だから書いておくのですが、リードトランペットのCarl Saundersの仕事が素晴らしい。彼はもう20年以上このバンドのリードなのですが、どんなに高い音であっても音量とパワーで持って行かずにきちんと丁寧に歌ってる。どうしてもフルバンのリードラッパというと「デカい、高い」になりがちなのですが、彼がそうしないことで、ライブ録音なのに、非常にコントロールの利いた、いいアンサンブルができていると思います。その意味からもビッグバンドをやる人にはいい勉強の材料にもなると思います。譜面の大半は購入できるはずなので、勇気のある方は音を出してさらにビックリしてください。譜面ヅラはそんなに複雑に見えませんが、きちっとサウンドさせるのは難しいですよ。

レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. Introduction
2. Woodrow [ Bill Holman ]
3. A Day in the Life [ John Lennon & Paul McCartney / arr. Bill Holman ]
4. Bary Me Not [ Bill Holman ]
5. Band Introductions
6. Donna Lee [ Charlie Parker / arr. Bill Holman ]
7. Blue Daniel [ Bill Holman ]
8. Press One [ Bill Holman ]
9. The Bebop Love Song [ Bill Holman ]
10. Zoot 'N' Al [ Bill Holman ]
参加アーティスト
Trumpets - Carl Saunders, Pete DiSiena, Ron Stout, Bob Summers
Trombones - Jack Redmond, Bob Endevoldsen, Andy Martin, Craig Gosnell
Woodwinds - Lanny Morgan, Bruce Babad, Doug Webb, Ray Hermann, Bob Efford
Piano - Christian Jacob
Bass - Joel Hamilton
Drums - Kevin Kanner
Jazzed Media JM1017
Hommage
ビル・ホルマンは、1950年代のスタン・ケントンへのアレンジ提供以来、いわゆるウエストコーストのアレンジの巨匠として今年80歳になる今でも活発に活動を続けています。彼のリニアなアレンジの書法はボブ・ブルックマイヤーやサド・ジョーンズなど多くのアレンジャーに大きな影響を与えています。その活動の枠はウエストコーストという枠などとっくに超越しており、ファーガソン、リッチ、ベイシー等様々なバンドにアレンジを提供しナタリー・コールのUnforgettableではグラミーを取ったりと、八面六臂なのです。が、自己名義のアルバムはその実力に比して何故か少ない。90年代には2枚。80年代もそれくらいではなかったか。そして、80歳を目前にして2006年に引き続き再びライブのアルバムが出てきました。
プレイヤーは歳を取ると枯れた味わいが出るなんて良く言いますが、晩年期のエリントンがそうであったように、彼のサウンドもまた豊穣なものになっています。彼は好きな作曲家としてルストワルスキーやリゲティを挙げますが、彼の音楽を聴いているとそうした作家への興味ということと同時にブルックマイヤーやサド・ジョーンズがどこから来たかということも聴こえてきて、個人的には非常に興味深いものがあります。

2006年の「Live」でも一曲ありましたが、本作ではWoody Hermanに捧げた組曲も含めて4トラックがウディ・ハーマン絡みです。

1曲目はストレイホーンの名曲「Raincheck」です。のっけからホルマン節全開です。日本ではビッグバンドでコンダクターというのは主に老舗ビッグバンドでしか見かけませんが、こういうイントロの仕掛けみたいなのはコンダクターがいないとビシっと決まらないでしょう。サド・ジョーンズやマリア・シュナイダーや、この人みたいなビッグバンドコンダクティングっていうのはもう少し日本でも認識されてもいいなぁ。

2曲目「Sunshinola」はYou Are My Life of Sumshineのコード進行に基づいて書かれた曲。ビル・ホルマンというとどうしてもボブ・フローレンスを引き合いに出したくなるのですが、ボブがこうして既存の曲を再構築する時って、フレーズのパターンとか、割と「いつも使う道具」を駆使して巨大な構造物を作るようなイメージなのですが、ビル・ホルマンには何を出してくるか分からないという楽しみがあります。冒頭で書いたクラシカルな現代音楽の作曲家のやりそうな技法も援用することで、プロレス的に言うと場外乱闘に持っていくスリルがあるように思えます。

3曲目「Zamboni」は個人的に非常に好きなトラック。なんでビル・ホルマンがアレンジャーとして尊敬されるかが良く分かると思います。こういうヒップな譜面を80手前の爺さんに書かれたら同業他者は仰天するよね。素晴らしくモダンでインテリジェントな譜面。
4曲目「Bemsha Swing」はモンクの、5曲目「If You Could See Me Now」はタッド・ダメロンの曲をアレンジしたもの。「Bemsha Swing」は80年代の作品の再演で、「If You Could See Me Now」はドイツのWDRビッグバンドとも吹き込んだものです。80年代のモンク作品集のアルバムにはいい譜面が沢山あったんだけど、モンクの版権を持っている出版者がそれらのアレンジの多くの出版を拒絶したために我々が購入するのは非常に困難な状況にあります。「If You Could See Me Now」も恐らく同様の理由で出版されないものと思われます。

6曲目「Woodchopper's Ball」はWoody Hermanの看板チューンのリアレンジ。昔、カーネギーホール・ジャズバンドでジム・マクニーリーがSing, Sing, Singをリアレンジした壮絶な譜面がありましたが、それを思い出しました。あそこまで先鋭ではないけど、一つの古い素材をアップ・トゥ・デイトさせるというのはこういうことだなぁと思います。オリジナルと聴き比べると面白いでしょうね。

7曲目からの3曲はBob Effordをクラリネットに据えたウディ・ハーマンへのオマージュ、組曲構成の「Hommage a Woody」です。Bob Efford自身がバディ・,デフランコ的なものを排除して、ウディ・ハーマンの演奏を常に心に置いて吹いたとライナーに書いてありますが、それが存分に伝わってきます。中間の楽章となる「Milwaukee Nights」はクラリネットフィーチャーのバラードです。クラリネットフィーチャーのモダンビッグバンドサウンドっていうのは非常に貴重です。デフランコからエディ・ダニエルズに繋がるようなモダンクラリネットではなく、微妙な歌い回しにちゃんとウディ・ハーマンが聞こえるのは流石。組曲の最後となる「The Chopper」では、1~2楽章からのモチーフを織り込みながらビル・ホルマンらしいモダンな音楽に仕上げています。

ビル・ホルマンの譜面は、Gordon GoodwinやRyan Hainesのような技巧的にかなりアクロバティックなことをミュージシャンに要求する譜面ではないと思えますが、やはり出て来る音は素晴らしく美しいと思います。彼は90年代半ばにA View From the Sideという曲でグラミーのBest Instrumental Jazz Compositionを取っていますが、来年、このアルバムの「Zamboni」か「Hommage a Woody」の組曲でいいところいくかもしれません。

もちろんバンドメンバーはハリウッドのトップクラスのスタジオ/ジャズミュージシャンで固まっていて演奏水準も極めて高いのですが、やはり80を目前にしたビル・ホルマンのこの充実っぷりは凄いの一言に尽きます。

(2006年6月 辰巳哲也)

レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. Raincheck [ Billy Strayhorn / arr. Bill Holman ]
2. Sunshinola [ Bill Holman ]
3. Zamboni [ Bill Holman ]
4. Bemsha Swing [ Thelonious Monk / arr. Bill Holman ]
5. If You Could See Me Now [ Tadd Dameron / arr. Bill Holman ]
6. Woodchopper's Ball [ Joe Bishop / arr. Bill Holman ]
7. Hommage a Woody- A Man Of Few Herds [ Bill Holman ]
8. Hommage a Woody- Milwaukee Nights [ Bill Holman ]
9. Hommage a Woody- The Chopper [ Bill Holman ]
参加アーティスト
Trumpets - Carl Saunders, Pete DiSiena, Ron Stout, Jonathan Dane, Larry Lunetta
Trombones - Jack Redmond, Dave Ryan, Andy Martin, Craig Gosnell
Woodwinds - Lanny Morgan, Bruce Babad, Pete Chrislieb, Doug Webb, Bob Efford, Bob Carr
Piano - Christian Jacob
Bass - Joel Hamilton
Drums - Kevin Kanner
Jazzed Media JM1024
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
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ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
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