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世界最強のリード・トランペット『ウェイン・バージェロン』
ビッグバンドのサウンドはリード・トランペットで決まると言っても良いくらい、リード・トランペットはビッグバンドの要のパートです。カリフォルニア在住のトランペット奏者ウェイン・バージェロンは、西海岸の非常に多くのビッグバンドのレコーディングにリードトランペットとしてその名をクレジットされており、西海岸最強のリード・トランペッターです。アメリカ西海岸最強ということは、世界最強と言っても決して過言ではありません。ただ単にハイノートを出すのではなく、音楽性に富んだ音の美しさを感じさせる当たりは、メイナード・ファーガソン、ジョージ・グラハム、アルトゥーロ・サンドバルなどの名だたるハイノート・ヒッターとは一線を画しています。そして、ハイノートを出すだけではなく、アドリブも見事!フレーズ感は常にメロディアスであり、完成度の高いものです。

2002年に初のリーダー作「You Call This a Living」を自主制作でリリースしました。そして約4年半後の今年の1月、満を持してメジャーレーベルのConcord Jazzより第2弾をリリースしました。どちらのアルバムも、Gordon Goodwin、Bill Liston、Tom Kubisを初めとする普段から一緒に仕事をしている仲間とのコラボレーションで、本当に雰囲気の良い作品に仕上がっています。今回は、この新作「Plays Well with Others」をご紹介させていただきます。

Wayne Bergeron
LAのスタジオ/ビッグバンドシーンでもトップクラスの実力者の一人、ウェイン・バージェロン。彼の新譜は、タイトル通りホントに大勢のミュージシャンが参加しています。ビッグバンド仲間やスタジオ仲間に片っ端から声をかけたのかどうだか分からないのですが、同じ顔ぶれのトラックが一つもありません(笑)。プロデュースがトランペット仲間のゲイリー・グラントですが、きっとゲイリーが『やりたいようにやってね』って言ったんだろうし、本人も好きにやってます。非常にヴァイタルな音楽がテンコ盛りで、特にトランペット吹く方でハイノートプレイヤー指向の方には溜飲の下がる内容だと思います。

ビッグバンドの演奏となっている2曲目から9曲目までのトランペットセクションには愛妻、Deb Wagner女史が乗ってます。そしてリズムセクションはビル・ホルマンやボブ・フローレンスに在籍していた(今レギュラーの人も含む)人で固めています。

まずは1曲目。タイトルが既に思わせぶりです。「Endless Touture」=拷問エンドレスって...(笑)。でも当然完璧に吹いてます。この人の凄いところはどんなに高い音域でもきちんとコントロールが利いていることでしょう。サンドヴァルみたいなリミッターの外れ方みたいな状況はまず出てきません。それが凄い。ドラムスのヴィニー・カリウタもゴキゲンです。

2曲目の「Maynard&Waynard」、確認してないのですが、もしかするとメイナードの最後の録音である可能性があります。本人達はそんなことは想像だにしなかったでしょうが、去年メイナードが亡くなったことを考えると、彼本人にとっても思い出深いトラックになっていると思います。もちろんハイノート合戦なんですが、どっちか凄いかなんていう競争心ギラギラなんてことはなくて、お互いが縦横無尽に吹いてるっていう感じです。

3曲目の「Scheherazade」、ウエストコーストの人っていうのはスタン・ケントンのArtistry in Rhythmに代表されるけど、クラシカルな作品をジャズにアダプトするっていうのが結構あります。ウェインはリムスキー・コルサコフのシェヘラザードを持ってきました。ちょっと意表を突かれた気がしますが、実はいわゆるスタンダードといわれるものを書いた作曲家っていうのにはドイツ系やロシア系の移民の人が多いわけで、こうしたスラブ系のメロディを取り上げるのは実はアリなんですよね。

4曲目の「You Go To My Head」はいわゆるスタンダードのバラードです。ジャズでバラードっていうと、チェット・ベイカーがそうであったように、訥々と歌うっていうのも選択肢としてあるのですが、ウェインはオペラのアリアのように朗々と歌います。

5曲目の「Georgia」もお馴染みのスタンダード。ここではウェインはリードトランペットに徹しています。持ち替えの問題があるけど、これは学生バンドで取り上げるところが出るかもしれないなぁ(編者註:ミュージックストア・ジェイ・ピーの出版部門「ベル・ミュージック・プレス」より出版されています)。個人的にはWarren Lueningの健在ぶりが聴けたのが嬉しい。

6曲目の「Samba Brassiliero」はタイトルにある通りのサンバ調です。

7曲目の「High Clouds And A Good Chance Of Wayne」は、マイナーブルースです。久しぶりにライケンバックのバストロのソロを聴きました。あくまで個人的な印象ですが、LAのスタジオの人の音というのはあまりにもカラっとしてて、マイナーブルースでの音楽の陰影みたいなのが出にくい気がします。

8曲目の「Requiems」、これもレクイエムっていうタイトルなんだけど、重苦しいという感じではなく、やはりLA的な抜けの良さみたいなのが根底にあります。鎮魂っていうのとは違うイメージの音楽になっているように思えます。

9曲目の「You Hid What In The Sousaphone?」軽快なラテン・ビート。タイトルにはスーザフォンの文字がありますが、ビル・ライケンバックがチューバでソロ吹いてます。これは珍しいかも。(編者註:ミュージックストア・ジェイ・ピーの出版部門「ベル・ミュージック・プレス」より出版されています)

ここまで聴いてきて、ずーっとオープンでとにかくバリバリ鳴るトランペットっていうのが前面に出ているので、ちょっと一本調子な感がなくもなかったのですが、最後の曲「The Hipster」はミュートで渋目なアプローチを聞かせてくれます。この曲のリードトランペットはプロデューサーでもあるゲイリー・グラントが吹いてます。こういう曲がもう少し途中であるとサウンドのバリエーションがでたのになぁと思います。

クォリティは物凄いものがありますが、例えていうとフィギュアスケートで3回転ジャンプみたいな高度な技を延々と見せられているような気がしないわけでもなく、せっかく物凄いことやってるんだからもっと効果的に見せる技があっても良いのではないかという感じもします。でもやっぱりトランペットを触った経験がある人から見たらやっぱり凄いなぁと思うのであります。「そこまでやるか」感を思いっきり味わって下さい。

レビュー協力:辰巳哲也
収録曲
1. Endless Torture (Tortura Sin Fin) [ Wally Minko ]
2. Maynard&Waynard [ Gordon Goodwin ]
3. Scheherazade [ Nikolai-Rimsky-Korsakov / arr. Geoff Stradling ]
4. You Go To My Head [ J. Fred Coots and Haven Gillespie / arr. Tom Kubis ]
5. Georgia [ Hoagy Carmichael / arr. Bill Liston ]
6. Samba Brassiliero [ Geoff Stradling ]
7. High Clouds And A Good Chance Of Wayne [ Tom Kubis ]
8. Requiems [ Joey Sellers ]
9. You Hid What In The Sousaphone? [ Bill Liston ]
10. The Hipster [ Dan Higgins ]
Concord Jazz CCD-30032-2
著者Profile
DAVE鈴木
1962年生まれ。まっとうな会社員だったが、ビッグバンドの世界にのめり込み楽譜やCDの個人輸入にはまり脱サラ、ミュージックストア・ジェイ・ピー設立。現在に至る。
どこで買えるの?
ここで、ご紹介したCDは、DAVE鈴木の運営するミュージックストア・ジェイ・ピーのホームページ http://www.musicstore.jp/
index.php?afid=kobe
で購入出来るほか、山野楽器銀座本店、ヤマハ銀座店CD売り場、タワーレコード全店、ジュージヤ梅田ハービスENT店などでご購入いただけます。
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