ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
ファラオ・サンダース

さて、そのファラオ・サンダースであるが、最近、クラブジャズとかスピリチュアルジャズのブームのせいか、信じられないほどにもてはやされている。輸入盤屋に行けばファラオのコーナーが設けられており、そこにはかつて私が必死になって探していたアルバムがCD化されてずらりと並んでいるのだ。これは、私のようなファラオフリークにとってはウハウハ状態といえないこともないが、はっきり言おう。ファラオ・サンダースというひとはそんなに諸手を上げて、グレイトだ、巨人だ、巨匠だ、すばらしい……と万人に推薦できるようなミュージシャンではない。ファラオというテナーマンは、良く言うと、ハッタリと虚飾によって聴衆を手玉にとる、いかがわしいおっさんである。そんなめちゃくちゃ書いていいのか、と言われるかもしれないが、これで「良く言うと」である。では、悪く言うとどうなのか。そう、「山師」である。この言葉がぴったりだ。もうひとつぴったりの言葉がある。「鬼面人を驚かす」……このことわざはまさしくファラオの芸風を表している。名前(ファラオって……)や外観(変な帽子をかぶり、白い山羊ひげ)からもわかるとおり、あまりジャズの真っ当な道を歩んできたひとではない。それが、タワーレコードでずらり、である。私が驚くのもむりないでしょう? もっとびっくりしたのは、先年、某デパートの有線で「ハム・アラー・ハム・アラー・ハム・アラー」がかかっていたことで、デパートでファラオのフリークトーンを聴く日が来ようとは思わなかったわい。

では、ファラオ・サンダースなるテナーサックス奏者について縷々述べていこう。実は、私はこれまでにいろんなところでファラオについて文章を発表していて、たとえば演劇雑誌とか文庫解説とかネットエッセイとか、とにかく「隙あらば」という感じでファラオのことをゲリラ的に書いているのである。ここからはそれらを参照しつつ、まとめてみたのでよろしく(ちなみに、彼がファラオと名乗っていたのはほんの一時期で、その後はずっとファロア・サンダースと名乗っているが、日本ではなぜかいまだに皆がファラオ、ファラオと呼んでいるのでそれに従っておく。ファラオもファロアもどちらも芸名なので、どっちがまちがいということもないらしい)。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
so-net.ne.jp/fuetako/
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